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3話
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ラルフにお金を貸してから数日が経った。
そして週末となり、ラルフの家のネルソン家が私の家のフェイスフル家の屋敷へと来ていた。
理由は婚約破棄の手続きを進めるためだ。
前もって打ち合わせした時間になり、来客があったので私達は玄関へと向かった。
そして玄関先にいた人物に私達は唖然とした。
来客した人物が弁護士だけだったのだ。
今回、婚約破棄を切り出したのはラルフのネルソン家側。
なので本来ならラルフ当人と、ネルソン家の当主が来るのが礼儀だと言える。
しかし、フェイスフル家へ来たのはネルソン家の弁護士だけ。
貴族としてではなく、その前に人間としてあまりに礼儀を欠いた行為だ。
玄関で婚約破棄の手続きをしに来た人物が弁護士だけだと分かった瞬間、私と父が絶句した程だ。
父が少し怒りを滲ませながら弁護士へと質問する。
「本当にネルソン家の当主は来ないのか? 重要な婚約破棄の手続きなんだぞ?」
「はい、ネルソン家の当主様はご多忙でそのような時間は作れない、とのことです」
弁護士の説明を聞きながら私と父の心の中にふつふつと怒りが募っていくのが分かった。
「……まぁいい。とりあえず話だけでも聞こう」
正直、嫌な予感しかしないがな。と父が呟く。
私も全く同じ意見だった。
こんな重要な場所で礼儀を欠いた行動をする人間がまともな手続きが出来ると思えない。
弁護士を話が出来る場所まで案内する。
弁護士が鞄から書類を取り出して机に置いた。
「これが婚約破棄の手続きに関する書類となります」
「ふむ」
父がまずは読む。
父はしばらく書類を内容を読んだ後、無言で机に書類を置いた。
表情には隠しきれない怒りが滲んでいる。
「これはどういうことだ?」
「お父様、どうされたのですか?」
「とても婚約破棄した側の内容では無い。見てみろ」
父にそう言われた私は書類を手に取り読む。
そして内容に唖然とした。
「慰謝料の記述が無いんですけど……」
「ふざけるな! フェイスフル家を侮辱しているのか!」
「ひぃっ!」
父が机を叩きつける。
弁護士がその剣幕に飛び上がる。
「今すぐネルソン家の当主にこれを書き直させろ! こんなふざけた内容がまかり通ると思うな!」
「はっ、はい!」
父が弁護士を帰らせる。
「どういうことだこれは……」
「ええ、本当に理解できません」
私達はそろってため息をつく。
そしてまた数日後。
ネルソン家から再度婚約破棄の手続きの書類が送られてくる。
今度は「慰謝料は払えない」という説明つきで。
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