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2話

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 次の日、朝にラルフが私の家へとやって来た。
 昨日確かに「明日持ってきますから」と言ったが自分の方からお金をせびりに来るなんて、なんてせせこましい男なんだろう。

 私はまだ一日が始まったばかりだというのに憂鬱な気分になった。
 私は玄関の前に立っているラルフの元へと向かう。

「待ちきれなくて来ちゃったよ。早く貸してくれ」

 扉を開けて開口一番挨拶もなしにラルフはそう言った。
 その隣には新しい恋人がラルフの腕に絡みついている。

「ねぇ~、まだぁ~?」
「はは、エリー、もう少しだから待っててくれ」

 ラルフはエリーと呼んだ少女にそう笑顔で語りかけると私へ無表情で向き直り淡白に言い放つ。

「そういうことだから早く」

 その態度に若干イラッとしたが、朝から怒鳴りつけて体力を消耗したくないので私は我慢する。

「はいはい、分かりましたから。これ、いつもの書いてくださいね」
「ああ」

 私はラルフへ紙とペンを差し出した。
 それは金貨十枚を貸したという借用書だった。
 それにラルフはサインをする。
 それを見届けて初めて私は金貨の入った袋を渡した。
 するとラルフはすぐに袋から金貨を取り出す。

「やったぞ! 金貨十枚だ!」
「凄いわ! ね、ラルフ! 約束通り宝石を買って!」

 お金を貸してあげたのにお礼すら無く、口を開けば金、金、金。
 こんな人と婚約していたんだと思うと心底婚約破棄されて良かったと思った。

 それと気づいていないようだが、ラルフが新しい恋人だと言ったエリーという少女、彼女はラルフを恋人だとは見ていない。
 ラルフを見る目はただの『財布』だ。

(本当に愚かな男ね……)

 まぁ、借用書にサインしているならそれでいい。
 私は盛り上がる二人を放置し屋敷の中へと戻った。
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