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「──リ、おきて!」

 耳元で大きな声が聞こえる。
 うーん。今日は疲れたからまだ寝させて……。
 それ外から騒がしい音も聞こえる。
 なんだって言うんだ。こっちは疲れているのに。

 私はそんなことをゴニョゴニョと呟きながら寝返りを打つ。

「──アイリ、おきて!」

 今度はからだをゆさゆさと揺さぶられた。
 しょうがないので、私は重い瞼を開けた。
 目を開けると、ルーチェが私を上からのぞき込んでいた。

「ルーチェ……、どうしたの?」

「アイリ! たいへんだ!」

 そこで私はルーチェからただ事ではない雰囲気を感じ取り、起きた。

「何かあったの?」

「アイリ、外に出て!」

 ルーチェに促されるままパジャマで外に出る。
 扉を開けると真っ暗な夜空にびゅう、と風が吹いて、同時に何か焦げるような臭いがした。

「あれを見て!」

 ルーチェが指を指した方向を見る。

「なに、あれ……」

 私が見たのは、燃えて赤く染まった街の城壁だった。
 私の横を荷物を持った人や、家族などが何かから逃げていく。

 私は手に荷物を目一杯持って逃げている人を掴んで今の状況を強引に聞いた。

「すみません! 何ご起こってるんですか?!」

「見りゃ分かんだろ! スタンピートだよ! 魔物の大群が押し寄せてきたんだよ!」

「そんな……! なんで!」

 スタンピートは鉄砲水の様に大量の魔物が押し寄せる災害の一つだ。
 一度起きると止められない程の大きな災害だが、滅多に起きるようなものじゃない。
 しかも普通は事前に兆候を掴んで対策が取られる筈なのに。

 何でこんな急に?

「よく知らねぇが、何でも群れの統率者がいなくなって、近くにあったこの街に突っ込んできたらしいぞ!」

 統率者の不在。
 その言葉は私の心に引っかかった。

 キングウルフ。
 二つ名は『千魔の王』。
 これは千匹の魔物より強いという意味もあるが、主な意味は『千の魔物の大群を率いる統率者』という意味だ。

 もしこのスタンピートが私がキングウルフを倒したことが原因なら。

 私が考えこんでいると、男の人は「もういいだろ!」と言って、逃げていった。

 その後を追って、様々な人がスタンピートから逃げていく。
 その表情は全て悲しみで埋め尽くされていた。

「私のせいだ……」

「アイリ」

「私が何とかしないと……」

「アイリ!」

 ハッとして隣のルーチェを見る。

「不可抗力、だったよ」

「分かってる。けど、私達が原因ならやらなきゃいけないと思うんだ」

「……分かった。でも、ボクもいるから」

「うん。ありがとうルーチェ」

 私達はスタンピートが起こっている城壁へと走って向かった。
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