私をもう愛していないなら。


 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
 空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。

 私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。

 街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
 見知った女性と一緒に。
 私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。

「え?」

 思わず私は声をあげた。
 なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
 二人に接点は無いはずだ。

 会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。

 それが、何故?

 ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。

 結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。

 私の胸の内に不安が湧いてくる。

(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)

 その瞬間。
 二人は手を繋いで。
 キスをした。

「──」

 言葉にならない声が漏れた。

 胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。

 ──アイクは浮気していた。
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