私をもう愛していないなら。


 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
 空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。

 私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。

 街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
 見知った女性と一緒に。
 私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。

「え?」

 思わず私は声をあげた。
 なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
 二人に接点は無いはずだ。

 会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。

 それが、何故?

 ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。

 結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。

 私の胸の内に不安が湧いてくる。

(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)

 その瞬間。
 二人は手を繋いで。
 キスをした。

「──」

 言葉にならない声が漏れた。

 胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。

 ──アイクは浮気していた。
24h.ポイント 7,094pt
4,330
小説 232 位 / 194,086件 恋愛 131 位 / 58,687件

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】貴方の望み通りに・・・

kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも どんなに貴方を見つめても どんなに貴方を思っても だから、 もう貴方を望まない もう貴方を見つめない もう貴方のことは忘れる さようなら

婚約をなかったことにしてみたら…

宵闇 月
恋愛
忘れ物を取りに音楽室に行くと婚約者とその義妹が睦み合ってました。 この婚約をなかったことにしてみましょう。 ※ 更新はかなりゆっくりです。

(完)私を裏切る夫は親友と心中する

青空一夏
恋愛
前編・中編・後編の3話 私を裏切って長年浮気をし子供まで作っていた夫。懲らしめようとした私は・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風。R15大人向き。内容はにやりとくるざまぁで復讐もの。ゆるふわ設定ご都合主義。 ※携帯電話・テレビのある異世界中世ヨーロッパ風。当然、携帯にカメラも録音機能もありです。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

ある男の後悔

初瀬 叶
恋愛
私には愛する婚約者が居た。リリーローズ。美しく、気高く、そして優しい。その名の通り、芳しい花のような。愛しい婚約者。 彼女が亡くなってもうすぐ1年。 あの日から、私はずっと暗闇の中だ。 彼女が居なくなった世界を、ただ、ただ生きている。 もう私が笑顔になる日は来ない。 ※ 暗い話を初めて書いてみたかったのですが…なかなか上手くいかないものです ※相変わらずの設定ゆるふわです ※後味はあまり良くないかもしれないです ※温かい目でご覧ください

【完結】婚約解消は私から〜愛する方と幸せになってください〜

恋愛
幼い頃からの婚約者ウィリアム。 政略結婚の両親の仲は冷えていて ウィリアムとの時間だけが フィスティアにはとても温かった。 人見知りなフィスティアは ウィリアムに相応しくあろうと努力するも 一年先に入学したウィリアムには 他の女性との噂が......。

【完結】私の婚約者は、親友の婚約者に恋してる。

山葵
恋愛
私の婚約者のグリード様には好きな人がいる。 その方は、グリード様の親友、ギルス様の婚約者のナリーシャ様。 2人を見詰め辛そうな顔をするグリード様を私は見ていた。