3 / 3
3話
しおりを挟む
そうしてカイルはモーガン家から追い出された。
借金千二百枚を背負って。
彼がグラント家に帰ってどういう扱いを受けるのかは知らない。
一ヶ月が経った現在、私が執務室で仕事をしていると、使用人が入って来た。
「アンヌ様、玄関にお客様です」
「ん?」
メイドが私に耳打ちをした。
私はメイドが言ったその名前を聞いて、笑みを作った。
「あら、あっちから来てくれたのね。カイル様」
私は喜んでいた。
私は機嫌よく、少し急ぎ足で玄関先へと向かう。
玄関にちかづくにつれ、泣き叫ぶ男性の声が聞こえてきた。
「アンヌ! 許してくれ! もうあんな事はしないと誓う! 心を入れ替える! だから!」
カイルは玄関先で膝をついて泣き叫んでいた。
私はそんなカイルに優しい笑みを浮かべ声をかける。
「まぁ、カイル様」
「あ、アンヌ……」
「あらあら、そんな顔になって、どうされたんですか?」
私はカイルに近寄るとハンカチで涙を拭ってあげた。
カイルまた涙を目から溢れさせた。
「アンヌっ! 僕がバカだった! 許してくれ! もうこんな事はしないから!」
カイルは今までの事を悔いるように頭を下げて謝る。
私はカイルの頭を撫でてあげた。
「ええ、私もカイル様には戻って来て欲しいと思っていたのです」
カイルは顔を上げた。
そして、感極まったような表情になる。
「ああ、ありがとう──」
「だって、慰謝料の請求がまだでしたもの」
「え?」
呆けた表情のカイル。
「あら、カイル様。演技はもう終わりですか?」
私はカイルを見てくすくすと笑う。
「あなた達の企みに気づいていないとでも?」
カイルが来たのは恐らくグラント家の命令だろう。
人情に訴えて借金を無くそうとしたのだろうが、甘すぎる。
「無駄ですよ。モーガン家はグラント家を徹底的に追い詰めます」
私は書類の束をカイルに渡した。
そしてそこに書かれていることを親切に読み上げて上げる。
「浮気による離婚の慰謝料金貨、追加で八百枚です。ふふ、これでキリ良く借金二千枚ですね。頑張って下さい」
私はカイルの頭をポンポンと撫でた。
カイルが激高して立ち上がる。
「お前っ──!」
しかし、使用人たちによってすぐに取り押さえられた。
私はカイルを冷たい笑みで見下ろす。
「全て甘いんですよ。──では、今度こそさようなら。元旦那様?」
fin
しおりを挟む
あなたにおすすめの小説
田太 優
恋愛
結婚して1年も経っていないというのに朝帰りを繰り返す夫。
結婚すれば変わってくれると信じていた私が間違っていた。
だからもう離婚を考えてもいいと思う。
夫に離婚の意思を告げたところ、返ってきたのは私を深く傷つける言葉だった。
百谷シカ
恋愛
「君ならもっとできると思っていたけどな。期待外れだよ」
私はトイファー伯爵令嬢エルミーラ・ヴェールマン。
上記の理由により、婚約者に棄てられた。
「ベリエス様ぁ、もうお会いできないんですかぁ…? ぐすん…」
「ああ、ユリアーナ。君とは離れられない。僕は君と結婚するのさ!」
「本当ですかぁ? 嬉しいです! キャハッ☆彡」
そして双子の妹ユリアーナが、私を蹴落とし、その方の妻になった。
プライドはズタズタ……(笑)
ところが、1年後。
未だ跡継ぎの生まれない事に焦った元婚約者で現在義弟が泣きついて来た。
「君の妹はちょっと頭がおかしいんじゃないか? コウノトリを信じてるぞ!」
いえいえ、そういうのが純真無垢な理想の可愛い妻でしたよね?
あなたが選んだ相手なので、どうぞ一生、愛でて魂すり減らしてくださいませ。
小平ニコ
恋愛
「パメラが熱を出したから、今日は約束の場所に行けなくなった。今度埋め合わせするから許してくれ」
ジョセフはそう言って、婚約者である私とのデートをキャンセルした。……いったいこれで、何度目のドタキャンだろう。彼はいつも、体の弱い幼馴染――パメラを優先し、私をないがしろにする。『埋め合わせするから』というのも、口だけだ。
きっと私のことを、適当に謝っておけば何でも許してくれる、甘い女だと思っているのだろう。
いい加減うんざりした私は、ジョセフとの婚約関係を終わらせることにした。パメラは嬉しそうに笑っていたが、ジョセフは大いにショックを受けている。……それはそうでしょうね。私のお父様からの援助がなければ、ジョセフの家は、貴族らしい、ぜいたくな暮らしを続けることはできないのだから。
真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。
山葵
恋愛
「すまない。ベラに子供が出来た。君がこれからの生活に困らないだけの慰謝料は用意する。だから、俺と別れて欲しい。」
突然の離婚話に、思わずカップを落としそうになった。
杉本凪咲
恋愛
結婚して六年。
夢に見た幸せな暮らしはそこにはなかった。
夫は私を愛さないと宣言して、別の女性に想いがあることを告げた。
kieiku
恋愛
「毎日の苦しい訓練の中に、癒やしを求めてしまうのは騎士のさがなのだ。君も騎士の妻なら、わかってくれ」わかりませんわ?
「浮気なんて、とても度胸がおありなのね、旦那様。私が食事に何か入れてもおかしくないって、思いませんでしたの?」
まあ、もうかなり食べてらっしゃいますけど。
旦那様ったら、苦しそうねえ? 命乞いなんて。ふふっ。
西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね?
7話完結のショートストーリー。
1日1話。1週間で完結する予定です。
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。