13 / 21
13話
しおりを挟む「この子、俺の子だった」
「へ?!」
「ど、どういう事かニャ?!」
ルイをお姫様抱っこして世界樹の中から出てきたアズの第一声に、エカとナムロ王様が困惑する。
それから、アズとルイが知った事を聞いて、アズの発言の意味を理解した。
実の子……正しくはその生まれ変わりと知ってから、アズのルイに対する溺愛っぷりは凄かった。
お城で暮らすルイに差し入れを持ってきたり、ルイがねだらなくてもお姫様抱っこしたり頬や額にキスしたり。
「学校の授業で必要な素材があれば獲ってきてあげるからね」
「は、はい……」
我が子の授業に使う素材の提供も惜しまないアズは、竜でも余裕でソロ狩り出来る特S級冒険者。
一方でアズに惚れかけていたルイは、前世のお父さんだと知ってしまい困惑気味だ。
「お母さんと話をしに行こう」
学園が長期休暇に入ると、アズはルイを誘ってアサギリ島に向かった。
世界樹の中で保管されている亡骸ではなく、この世に残されたルルの霊に会わせてあげるらしい。
アズが見せたいものがあるらしくて、エカとボクも同行したよ。
エカとボクにとっては、魔王討伐隊として行って以来のアサギリ島訪問だ。
アサケ大陸北東の海上に浮かぶ、アサギリ島。
草も生えない不毛の地で、かつては魔族と魔物がいる危険な場所だったけど、アズとルルが住むようになってから雰囲気が変わったと聞いていた。
「どう? ちょっと風景良くなっただろ?」
「ちょっとっていうレベルじゃない気がするよ」
エカがツッコミを入れる通り。
岩と土しか無かった大地が、一面の花畑に変わっていた。
「……綺麗~……コスモス畑みたいだ……」
元の世界にある花畑を連想したのか、ルイが呟いた。
咲き乱れる花々は種類も色も様々で、単色の花畑よりも華やかに見える。
「世界のあちこちから集めて植えたんだよ」
ベノワの背中の上から花畑を見下ろして、穏やかな声でアズが言う。
「最初はルルが花を育てようって言って、2人で行った場所から花を少しずつ持ち帰って植え続けたんだ。今はそれが自然に広がって咲いてるよ」
花々に慈しむような眼差しを向けた後、アズは花畑の中心にある小屋の隣に立つ、1本の木の近くにベノワを着陸させた。
「ルル、ただいま」
アズが声をかけると、瑞々しい緑の葉を茂らせる木の枝の間から、幻のように実体のない女性が現れた。
世界樹の中で眠る女性と同じ青いワンピース、長い黒髪と同じ色の犬耳とシッポ、開かれた黒い瞳は艷やかな宝石のように澄んでいる。
『おかえり、アズ。久しぶり、エカ』
念話が優しい波長で心に流れてくる。
精霊のように神秘的な雰囲気を漂わせて微笑むルルは、アズの隣にいるルイを見てハッとした。
『アズ、その黒髪の子は……?』
「ルルが異世界へ送った子だよ」
アズがルイの両肩に手を置き、微笑んで伝える。
『……よかった。生まれてきてくれて凄く嬉しい……』
その時浮かんだルルの微笑みは、切ないくらいに綺麗だった。
「……」
言葉の代わりに、ルイの瞳から涙が流れ始める。
何故泣いているのか、本人も分からない様子だった。
次々に頬を伝う涙が、地面に落ちて吸い込まれてゆく。
『日本のお父さんとお母さんは、どんな名前を付けてくれたの?』
「……る……【琉生】……です……」
問いかけられて、ルイは嗚咽しながらやっとの思いで答えた。
『素敵な名前、これからはルイって呼ぶね』
ルルがまた微笑む。
『……おかえり、ルイ……』
その【声】に呼応するように、周囲の花々から無数の花びらが舞った。
「へ?!」
「ど、どういう事かニャ?!」
ルイをお姫様抱っこして世界樹の中から出てきたアズの第一声に、エカとナムロ王様が困惑する。
それから、アズとルイが知った事を聞いて、アズの発言の意味を理解した。
実の子……正しくはその生まれ変わりと知ってから、アズのルイに対する溺愛っぷりは凄かった。
お城で暮らすルイに差し入れを持ってきたり、ルイがねだらなくてもお姫様抱っこしたり頬や額にキスしたり。
「学校の授業で必要な素材があれば獲ってきてあげるからね」
「は、はい……」
我が子の授業に使う素材の提供も惜しまないアズは、竜でも余裕でソロ狩り出来る特S級冒険者。
一方でアズに惚れかけていたルイは、前世のお父さんだと知ってしまい困惑気味だ。
「お母さんと話をしに行こう」
学園が長期休暇に入ると、アズはルイを誘ってアサギリ島に向かった。
世界樹の中で保管されている亡骸ではなく、この世に残されたルルの霊に会わせてあげるらしい。
アズが見せたいものがあるらしくて、エカとボクも同行したよ。
エカとボクにとっては、魔王討伐隊として行って以来のアサギリ島訪問だ。
アサケ大陸北東の海上に浮かぶ、アサギリ島。
草も生えない不毛の地で、かつては魔族と魔物がいる危険な場所だったけど、アズとルルが住むようになってから雰囲気が変わったと聞いていた。
「どう? ちょっと風景良くなっただろ?」
「ちょっとっていうレベルじゃない気がするよ」
エカがツッコミを入れる通り。
岩と土しか無かった大地が、一面の花畑に変わっていた。
「……綺麗~……コスモス畑みたいだ……」
元の世界にある花畑を連想したのか、ルイが呟いた。
咲き乱れる花々は種類も色も様々で、単色の花畑よりも華やかに見える。
「世界のあちこちから集めて植えたんだよ」
ベノワの背中の上から花畑を見下ろして、穏やかな声でアズが言う。
「最初はルルが花を育てようって言って、2人で行った場所から花を少しずつ持ち帰って植え続けたんだ。今はそれが自然に広がって咲いてるよ」
花々に慈しむような眼差しを向けた後、アズは花畑の中心にある小屋の隣に立つ、1本の木の近くにベノワを着陸させた。
「ルル、ただいま」
アズが声をかけると、瑞々しい緑の葉を茂らせる木の枝の間から、幻のように実体のない女性が現れた。
世界樹の中で眠る女性と同じ青いワンピース、長い黒髪と同じ色の犬耳とシッポ、開かれた黒い瞳は艷やかな宝石のように澄んでいる。
『おかえり、アズ。久しぶり、エカ』
念話が優しい波長で心に流れてくる。
精霊のように神秘的な雰囲気を漂わせて微笑むルルは、アズの隣にいるルイを見てハッとした。
『アズ、その黒髪の子は……?』
「ルルが異世界へ送った子だよ」
アズがルイの両肩に手を置き、微笑んで伝える。
『……よかった。生まれてきてくれて凄く嬉しい……』
その時浮かんだルルの微笑みは、切ないくらいに綺麗だった。
「……」
言葉の代わりに、ルイの瞳から涙が流れ始める。
何故泣いているのか、本人も分からない様子だった。
次々に頬を伝う涙が、地面に落ちて吸い込まれてゆく。
『日本のお父さんとお母さんは、どんな名前を付けてくれたの?』
「……る……【琉生】……です……」
問いかけられて、ルイは嗚咽しながらやっとの思いで答えた。
『素敵な名前、これからはルイって呼ぶね』
ルルがまた微笑む。
『……おかえり、ルイ……』
その【声】に呼応するように、周囲の花々から無数の花びらが舞った。
171
お気に入りに追加
2,864
あなたにおすすめの小説

寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

女性治療師と距離が近いのは気のせいなんかじゃない
MOMO-tank
恋愛
薬師の腕を上げるために1年間留学していたアリソンは帰国後、次期辺境伯の婚約者ルークの元を訪ねた。
「アリソン!会いたかった!」
強く抱きしめ、とびっきりの笑顔で再会を喜ぶルーク。
でも、彼の側にはひとりの女性、治療師であるマリアが居た。
「毒矢でやられたのをマリアに救われたんだ」
回復魔法を受けると気分が悪くなるルークだが、マリアの魔法は平気だったらしい。
それに、普段は決して自分以外の女性と距離が近いことも笑いかけることも無かったのに、今の彼はどこかが違った。
気のせい?
じゃないみたい。
※設定はゆるいです。

欲深い聖女のなれの果ては
あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。
その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。
しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。
これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。
※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

魔法のせいだから許して?
ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。
どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。
──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。
しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり……
魔法のせいなら許せる?
基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

私を侮辱する婚約者は早急に婚約破棄をしましょう。
しげむろ ゆうき
恋愛
私の婚約者は編入してきた男爵令嬢とあっという間に仲良くなり、私を侮辱しはじめたのだ。
だから、私は両親に相談して婚約を解消しようとしたのだが……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる