10 / 18
10話
しおりを挟む次の日、サリヴァン家へとある来客があった。
「エドワード・ラッセルです。私の婚約者であるサラに会い来ました」
エドワードは笑顔で門番に要件を告げる。
門番は王子の訪問として急いで当主のニッチへ知らせに行った。
「クソッ! このタイミングとは……!」
「やはりエドワード王子は……」
「ああ、サラの浮気について聞きに来たのであろうな」
別に家に入られるくらいならこちらで挙動を見張っておけばいいのでどうということはないが、サラとエドワードを引き合わせては不味い。あの馬鹿娘がエドワードに何を口走るか分からない。
ニッチはどうするか思考する。
相手は王子、あの生意気な伯爵家の娘のように雑に扱うわけにもいかない。
「病気だから会えないと言うしかないか……」
メディナ家のように門番に伝言させては失礼にあたるので、ニッチは自ら門の前にいるエドワードの元へと向かう。
門の前で従者を連れたエドワードはニコニコと笑顔を浮かべていた。
ニッチも表面上は笑顔を浮かべながらエドワードへと近づく。
「これはこれはエドワード様、わざわざお越し頂きありがとうございます。しかしただ今折り悪く娘は病に伏せておりまして……」
「ああ、何ということだ。私の婚約者が病に伏せていると。今すぐに見舞いに行かねばならない」
(おのれ! 何をするつもりだ!)
わざとらしく話すエドワードにニッチは心の中で怒鳴る。
しかし表情は笑顔から崩さず対応する。
「では少しお待ちいただけますか? サラも年頃の娘。少々用意が必要なのです」
「ええ、分かりました」
(よし! 時間が出来た! 後はサラには強烈な睡眠薬を飲ませて、ロバートは別の出口から逃がせばいい!)
ニッチは心の中でほくそ笑んだ。
「ではこちらへ、応接室へ案内致します」
「どうもご丁寧に」
お互い薄っぺらい笑みを交わし、ニッチの屋敷の中へと入っていく。
階段を上がり、応接室がある廊下を歩く。
その間、ニッチはエドワードを注意深く見ていた。
エドワードがおかしな行動をしないようにするためだ。
だから、反応が遅れた。
エドワードの側についていた従者がいきなり走り出した。
◯
「おい! 何をしている!」
後ろからニッチの怒鳴る声が聞こえる。
私は走りながらエドワードの言葉を思い出していた。
「サラの部屋はこの廊下の突き当りだ」
私を見てギョッとした表情を浮かべた使用人の横を通り抜ける。
完全に意表をついたので、誰も私を捕まえられない。
奥の部屋の扉を開ける。
「これはどういうことでしょうか?」
エドワードの従者の格好をした私、アリシア・メディナは後ろを振り返ってニッチへと質問した。
ニッチは部屋の中の状況に顔を青くしている。
部屋の中ではサラとロバートが裸で仲睦まじく抱き合っていた。
1,000
お気に入りに追加
4,270
あなたにおすすめの小説

夫のかつての婚約者が現れて、離縁を求めて来ました──。
Nao*
恋愛
結婚し一年が経った頃……私、エリザベスの元を一人の女性が訪ねて来る。
彼女は夫ダミアンの元婚約者で、ミラージュと名乗った。
そして彼女は戸惑う私に対し、夫と別れるよう要求する。
この事を夫に話せば、彼女とはもう終わって居る……俺の妻はこの先もお前だけだと言ってくれるが、私の心は大きく乱れたままだった。
その後、この件で自身の身を案じた私は護衛を付ける事にするが……これによって夫と彼女、それぞれの思いを知る事となり──?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)

嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

愛人のいる夫を捨てました。せいぜい性悪女と破滅してください。私は王太子妃になります。
Hibah
恋愛
カリーナは夫フィリップを支え、名ばかり貴族から大貴族へ押し上げた。苦難を乗り越えてきた夫婦だったが、フィリップはある日愛人リーゼを連れてくる。リーゼは平民出身の性悪女で、カリーナのことを”おばさん”と呼んだ。一緒に住むのは無理だと感じたカリーナは、家を出ていく。フィリップはカリーナの支えを失い、再び没落への道を歩む。一方でカリーナには、王太子妃になる話が舞い降りるのだった。

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~
絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。

婚約者に親しい幼なじみがいるので、私は身を引かせてもらいます
Hibah
恋愛
クレアは同級生のオーウェンと家の都合で婚約した。オーウェンには幼なじみのイブリンがいて、学園ではいつも一緒にいる。イブリンがクレアに言う「わたしとオーウェンはラブラブなの。クレアのこと恨んでる。謝るくらいなら婚約を破棄してよ」クレアは二人のために身を引こうとするが……?

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる