いいですよ、離婚しましょう。だって、あなたはその女性が好きなのでしょう?

水垣するめ

文字の大きさ
上 下
4 / 18

4話

しおりを挟む

「これはどういうことですか?」

 私は目の前の机に書類をパサリと置く。
 ロバートが青い顔をしてそれを見ている。
 私がおいた書類は、私の部屋で管理していたこの家の帳簿だった。

「最近、帳簿がおかしいと思ったんです」
「アリシア……」

 私はロバートの言葉を無視する。

「帳簿に書かれている数字と私の覚えている数字とほんの少し違う、と。しかし忙しかったので今日まできちんと確認していませんでしたが」
「あ、アリシア。聞いてくれ」
「小さな小さな改変でしたよ。注意深く見ていなければ気が付かないほどの」

 そしてよく見てみると、その改変はいたるところにあった。
 その改変を再度計算して誤差を修正すると、その誤差は大金になった。

「横領していましたね。この家のお金を」
「……」
「そう言えば、あなたが婿入りするとき、一人使用人を連れて来ましたよね」

 ロバートに帳簿を偽装する能力はない。
 私の使用人は帳簿を偽装する理由がないし、するはずがない。
 となれば、考えられる可能性は一つだ。

「あなたの連れてきた使用人が、この偽装を行ったのですね?」

 ロバートは図星を疲れたように仰け反った。

「一体、いくら彼女につぎ込んだのですか?」
「…………金貨三百枚」
「……はぁ」
「あ、アリシア! 聞いてくれ!」

 私はため息をついた。
 ロバートが私に縋りつく。
 私はそれを冷ややかな目で見下した。

「あなたとは離婚します」

 そんな技術を持った人間を使用人として連れてくるなんて、確信犯以外のなにものでもない。

「当然このことはあなたの実家に報告して然るべき処置を取らせていただきますから。さぁ、部屋から出ていってください」

 ガックリと項垂れるロバートを使用人に連れ出させる。
 静かになった部屋で私はもう一度ため息をついた。

「アリシア様、紅茶をどうぞ」
「ああ、ありがとう」

 メイドのロザリーが紅茶を淹れてくれた。
 私はそれをお礼を言って受け取る。
 一口飲んで心を落ち着けた。

「最悪だわ。まさかそんな大金をつぎ込んでいたなんて」

 偽装されていた帳簿を見て悔しさに歯噛みする。

「でも、おかしいのよね」

 ロバートが横領されてたお金を足しても、今まで貢いできた金貨三百には届かない。
 横領されていたのはせいぜい金貨百枚なのだ。
 ロバートの言っていたことと辻褄が合わない。

(まぁいいわ。後でゆっくりと問い詰めましょう)

 私はそう疑問に一度蓋をして、寝ることにした。





 次の日、慌ただしく使用人が部屋に入ってきた。

「大変です! ロバート様が部屋にいません!」

「なんですって!?」
しおりを挟む
感想 74

あなたにおすすめの小説

夫のかつての婚約者が現れて、離縁を求めて来ました──。

Nao*
恋愛
結婚し一年が経った頃……私、エリザベスの元を一人の女性が訪ねて来る。 彼女は夫ダミアンの元婚約者で、ミラージュと名乗った。 そして彼女は戸惑う私に対し、夫と別れるよう要求する。 この事を夫に話せば、彼女とはもう終わって居る……俺の妻はこの先もお前だけだと言ってくれるが、私の心は大きく乱れたままだった。 その後、この件で自身の身を案じた私は護衛を付ける事にするが……これによって夫と彼女、それぞれの思いを知る事となり──? (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

愛人のいる夫を捨てました。せいぜい性悪女と破滅してください。私は王太子妃になります。

Hibah
恋愛
カリーナは夫フィリップを支え、名ばかり貴族から大貴族へ押し上げた。苦難を乗り越えてきた夫婦だったが、フィリップはある日愛人リーゼを連れてくる。リーゼは平民出身の性悪女で、カリーナのことを”おばさん”と呼んだ。一緒に住むのは無理だと感じたカリーナは、家を出ていく。フィリップはカリーナの支えを失い、再び没落への道を歩む。一方でカリーナには、王太子妃になる話が舞い降りるのだった。

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

婚約者に親しい幼なじみがいるので、私は身を引かせてもらいます

Hibah
恋愛
クレアは同級生のオーウェンと家の都合で婚約した。オーウェンには幼なじみのイブリンがいて、学園ではいつも一緒にいる。イブリンがクレアに言う「わたしとオーウェンはラブラブなの。クレアのこと恨んでる。謝るくらいなら婚約を破棄してよ」クレアは二人のために身を引こうとするが……?

もう愛されてはいないのですね。

うみか
恋愛
夫は私を裏切り三人の女性と不倫をした。 侍女からそれを告げられた私は……

お飾りの妃なんて可哀想だと思ったら

mios
恋愛
妃を亡くした国王には愛妾が一人いる。 新しく迎えた若い王妃は、そんな愛妾に見向きもしない。

処理中です...