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「……帰って来ませんね、アリシア様」
「……そうね」
結婚から一年が経った記念日として、食堂に並べられた豪華な食事を見ながら、私とメイドのロザリーはため息をついた。
本来ならいるはずの私の夫であるロバートがいなかったからだ。
ロバートは、朝から出かけてくると言ったまま戻っていない。
出かけていった相手は分かっている。
「またあの幼馴染ですか……」
「でしょうね」
私とロバートが結婚したのは一年前。
貴族にありがちな親と親との政略結婚だった。
私たちは婚約した後、何事も無く結婚して、ロバートは婿養子としてこの家に来た。
しかし結婚してから一ヶ月経った頃、ロバートは「出かけてくる」と言って週に一度、朝から晩まで出かけるようになった。
私はすぐに幼馴染のサラに会いに行っているのだと分かった。
彼が昔から幼馴染を好意を寄せていたのは分かっていたからだ。
しかし、私以外の女性と一切関わるな、と言うつもりもなかったし、幼馴染とも関係を切れ、なんて狭量なことを言うつもりも無かった。
だから、毎週一度会うぐらいなら、それくらいは情けとして良いだろう、と思っていた。
ずっと愛していたのだからしょうがない、とも思っていた。
一日中家を空けることは無かったし、結婚している以上ある程度の節度は守っていると思っていた。
しかし、最近になって頻度は二、三日に一度と増え、一日中出かける日まで出てきた。
こんな風に結婚記念日まで疎かにしてしまう程に。
「そろそろ頃合いね。もう彼女には合わせないようにするしかないわ」
「ええ、そうですね」
今までは見逃してあげたが、そこに甘えてつけ込んでバカにするような真似はメディナ家のプライドにかけて許さない。
金輪際、あの幼馴染には関わらせないようにしないと。
そう考えていた時、食堂に使用人が入ってきた。
「アリシア様、ロバート様がお戻りになりました」
「やっと帰ったの……? もうこんな時間よ」
すでに夕食時からは三時間経過している。
いつもなら寝る支度を始めるところだ。
「今向かうわ」
私は椅子から立ち上がり、玄関の方へと向かった。
玄関に到着すると、ロバートが使用人たちに服を渡しているところだった。
「お戻りになったんですね」
私は冷たい目で言い放つ。
ロバートは愛想笑いをしながら頭をかいた。
「はは、ごめん……」
その仕草にイラッとしたので、使用人の持っているロバートの服を手に取った。
服からは私のものではない、別の女性の香りがしていた。
「……またあの人のところですか」
「……」
ロバートは黙り込む。
私が行き先に言及すると、いつもこうやって黙り込んでしまう。
それで切り抜けれると思っているのかもしれない。
確かに今まではそうだったかもしれないが、今回は違う。
まずは軽い質問から。
「ロバート様、今日は何の日か覚えてらっしゃいますか?」
「えっ?」
ロバートが素っ頓狂な声をあげた。
信じられない。どうやら覚えていなかったようだ。
私の中でふつふつと怒りが混み上げてくるのが分かった。
「……そうね」
結婚から一年が経った記念日として、食堂に並べられた豪華な食事を見ながら、私とメイドのロザリーはため息をついた。
本来ならいるはずの私の夫であるロバートがいなかったからだ。
ロバートは、朝から出かけてくると言ったまま戻っていない。
出かけていった相手は分かっている。
「またあの幼馴染ですか……」
「でしょうね」
私とロバートが結婚したのは一年前。
貴族にありがちな親と親との政略結婚だった。
私たちは婚約した後、何事も無く結婚して、ロバートは婿養子としてこの家に来た。
しかし結婚してから一ヶ月経った頃、ロバートは「出かけてくる」と言って週に一度、朝から晩まで出かけるようになった。
私はすぐに幼馴染のサラに会いに行っているのだと分かった。
彼が昔から幼馴染を好意を寄せていたのは分かっていたからだ。
しかし、私以外の女性と一切関わるな、と言うつもりもなかったし、幼馴染とも関係を切れ、なんて狭量なことを言うつもりも無かった。
だから、毎週一度会うぐらいなら、それくらいは情けとして良いだろう、と思っていた。
ずっと愛していたのだからしょうがない、とも思っていた。
一日中家を空けることは無かったし、結婚している以上ある程度の節度は守っていると思っていた。
しかし、最近になって頻度は二、三日に一度と増え、一日中出かける日まで出てきた。
こんな風に結婚記念日まで疎かにしてしまう程に。
「そろそろ頃合いね。もう彼女には合わせないようにするしかないわ」
「ええ、そうですね」
今までは見逃してあげたが、そこに甘えてつけ込んでバカにするような真似はメディナ家のプライドにかけて許さない。
金輪際、あの幼馴染には関わらせないようにしないと。
そう考えていた時、食堂に使用人が入ってきた。
「アリシア様、ロバート様がお戻りになりました」
「やっと帰ったの……? もうこんな時間よ」
すでに夕食時からは三時間経過している。
いつもなら寝る支度を始めるところだ。
「今向かうわ」
私は椅子から立ち上がり、玄関の方へと向かった。
玄関に到着すると、ロバートが使用人たちに服を渡しているところだった。
「お戻りになったんですね」
私は冷たい目で言い放つ。
ロバートは愛想笑いをしながら頭をかいた。
「はは、ごめん……」
その仕草にイラッとしたので、使用人の持っているロバートの服を手に取った。
服からは私のものではない、別の女性の香りがしていた。
「……またあの人のところですか」
「……」
ロバートは黙り込む。
私が行き先に言及すると、いつもこうやって黙り込んでしまう。
それで切り抜けれると思っているのかもしれない。
確かに今まではそうだったかもしれないが、今回は違う。
まずは軽い質問から。
「ロバート様、今日は何の日か覚えてらっしゃいますか?」
「えっ?」
ロバートが素っ頓狂な声をあげた。
信じられない。どうやら覚えていなかったようだ。
私の中でふつふつと怒りが混み上げてくるのが分かった。
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