上 下
1 / 3

1話

しおりを挟む

 この世界の貴族は魔法を重視する。
 魔法がどれだけ洗練されているか。
 魔法を使うのに重要な魔力をどれだけ持っているか。

 それが貴族における重要な価値判断の一つとなる。

 そして私、男爵家のエルザ・フランスは誰よりも保有する魔力が多かった。

 常人の約百倍。
 それは国の中でも五本の指に入るほどの魔力量だった。

 両親に私に大層期待して、甘やかしてくれた。

 あれが欲しい、と言えば何でも買ってくれた程だ。

 そしてその魔力量の多さは、フランス男爵家に大きな幸運をもたらした。

 公爵家から縁談が来たのだ。

 両親は即刻頷き、私は公爵家のジャン・ブルボンと婚約することになった。

 両親は喜んだ。
 これで公爵家とのパイプができて、かつ上流貴族にもなることができる、と。

 私は誇らしかった。
 自分がこれほどまでに両親の役に立っていることが。

 そんな幸せの歯車が狂ったのは私が魔法を習い始めた、十二歳の頃だった。

 私は魔法が全く使えなかったのだ。

 どの属性にも適正は無く、唯一使えたのは治癒魔法だけ。

 両親は「魔法は使えるまで一年はかかる」と励ましてくれたが、治癒魔法だけしか使えずニ年が過ぎた頃から、両親の態度が変化し始めた。

 両親は私に失望し始めた。
 婚約の方も莫大な魔力のおかげで辛うじて繋ぎ止めることが出来ていたが、限界が近づいていた。
 治癒魔法しか使えない貴族と婚姻なんて出来るわけがない。

 私は必死に勉強した。
 寝る間も惜しみ、魔法が使えるように努力した。

 そしてこの頃から妹のジュリーから嫌がらせを受けるようになったが、両親は黙って放置していた。

 とうとう魔法が使えず三年経った。



 ある日ジャンから呼び出しがかかった。

 私はある程度どんな内容か予想できていたが、無視することもできず、私はジャンの元へ向かった。

「お前と婚約破棄する!」
「……」

 予想通り、婚約破棄だった。

「いつまで経っても魔法も使えない無能なんて俺に相応しくない!」
「…………ですが、私も努力はして」

 ジャンが怒鳴った。

「嘘をつくな! 努力して魔法が使えないわけがないだろう! どうせ、ずっと遊び呆けていたんだろう?」

 ジャンは私を馬鹿にしたように笑う。
 ジャンの目には、もはや軽蔑と侮蔑しか無かった。

「ジャン様……」

 私はジャンの名前を呼んだ。
 すると、ジャンは激高した。

「無能の分際で気安く名前を呼ぶなぁっ!」

 ジャンは私の頬をぶった。
 口の中が切れたのか、血の味がする。

 やり返すことなんて出来ない。
 私はじっと耐えるしか無かった。

「二度と俺の目の前に現れるな! さっさと出ていけ! このクズ!」

 私は無言で振り返り、部屋から出ていった。



「それで、何と言われたんだ」
「……」

 屋敷へと帰ってくるなり、私は父に部屋まで連れてこられた。

「……顔を見せるな、と」
「はぁ……婚約破棄は確実だな」

 父は深くため息をついた。

「ごめんなさい……」
「どうした? 謝る必要なんてないぞ?」
「え?」

 私は顔を上げる。
 父の表情は明るい笑顔だった。

 もしかして、許してくれたのだろうか?
 両親には計り知れないほど迷惑をかけたというのに、こんな魔法が使えない私でも──

「もうお前は家の子供ではないのだから」

「──え?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今までお姉様だから我慢していましたが、もうそろそろ限界ですよ?

榎夜
恋愛
次期王妃のはずなのにふらふらと遊び歩くお姉様。 これ以上尻拭いするつもりはありませんよ?

婚約破棄されてしまった件ですが……

星天
恋愛
アリア・エルドラドは日々、王家に嫁ぐため、教育を受けていたが、婚約破棄を言い渡されてしまう。 はたして、彼女の運命とは……

『スキルなし』だからと婚約を破棄されましたので、あなたに差し上げたスキルは返してもらいます

七辻ゆゆ
恋愛
「アナエル! 君との婚約を破棄する。もともと我々の婚約には疑問があった。王太子でありスキル『完全結界』を持つこの私が、スキルを持たない君を妻にするなどあり得ないことだ」 「では、そのスキルはお返し頂きます」  殿下の持つスキル『完全結界』は、もともとわたくしが差し上げたものです。いつも、信じてくださいませんでしたね。 (※別の場所で公開していた話を手直ししています)

これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。

りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。 伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。 それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。 でも知りませんよ。 私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!

聖女にはなれませんよ? だってその女は性女ですから

真理亜
恋愛
聖女アリアは婚約者である第2王子のラルフから偽聖女と罵倒され、婚約破棄を宣告される。代わりに聖女見習いであるイザベラと婚約し、彼女を聖女にすると宣言するが、イザベラには秘密があった。それは...

ブラックな職場で働いていた聖女は超高待遇を提示してきた隣国に引き抜かれます

京月
恋愛
残業など当たり前のお祈り いつも高圧的でうざい前聖女 少ない給料 もう我慢が出来ない そう思ってた私の前に現れた隣国の使者 え!残業お祈りしなくていいの!? 嘘!上司がいないの!? マジ!そんなに給料もらえるの!? 私今からこの国捨ててそっちに引き抜かれます

【一話完結】才色兼備な公爵令嬢は皇太子に婚約破棄されたけど、その場で第二皇子から愛を告げられる

皐月 誘
恋愛
「お前のその可愛げのない態度にはほとほと愛想が尽きた!今ここで婚約破棄を宣言する!」 この帝国の皇太子であるセルジオが高らかに宣言した。 その隣には、紫のドレスを身に纏った1人の令嬢が嘲笑うかのように笑みを浮かべて、セルジオにしなだれ掛かっている。 意図せず夜会で注目を浴びる事になったソフィア エインズワース公爵令嬢は、まるで自分には関係のない話の様に不思議そうな顔で2人を見つめ返した。 ------------------------------------- 1話完結の超短編です。 想像が膨らめば、後日長編化します。 ------------------------------------ お時間があれば、こちらもお読み頂けると嬉しいです! 連載中長編「前世占い師な伯爵令嬢は、魔女狩りの後に聖女認定される」 連載中 R18短編「【R18】聖女となった公爵令嬢は、元婚約者の皇太子に監禁調教される」 完結済み長編「シェアされがちな伯爵令嬢は今日も溜息を漏らす」 よろしくお願い致します!

婚約破棄されたおっとり令嬢は「実験成功」とほくそ笑む

柴野
恋愛
 おっとりしている――つまり気の利かない頭の鈍い奴と有名な令嬢イダイア。  周囲からどれだけ罵られようとも笑顔でいる様を皆が怖がり、誰も寄り付かなくなっていたところ、彼女は婚約者であった王太子に「真実の愛を見つけたから気味の悪いお前のような女はもういらん!」と言われて婚約破棄されてしまう。  しかしそれを受けた彼女は悲しむでも困惑するでもなく、一人ほくそ笑んだ。 「実験成功、ですわねぇ」  イダイアは静かに呟き、そして哀れなる王太子に真実を教え始めるのだった。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

処理中です...