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1話
しおりを挟むこの世界の貴族は魔法を重視する。
魔法がどれだけ洗練されているか。
魔法を使うのに重要な魔力をどれだけ持っているか。
それが貴族における重要な価値判断の一つとなる。
そして私、男爵家のエルザ・フランスは誰よりも保有する魔力が多かった。
常人の約百倍。
それは国の中でも五本の指に入るほどの魔力量だった。
両親に私に大層期待して、甘やかしてくれた。
あれが欲しい、と言えば何でも買ってくれた程だ。
そしてその魔力量の多さは、フランス男爵家に大きな幸運をもたらした。
公爵家から縁談が来たのだ。
両親は即刻頷き、私は公爵家のジャン・ブルボンと婚約することになった。
両親は喜んだ。
これで公爵家とのパイプができて、かつ上流貴族にもなることができる、と。
私は誇らしかった。
自分がこれほどまでに両親の役に立っていることが。
そんな幸せの歯車が狂ったのは私が魔法を習い始めた、十二歳の頃だった。
私は魔法が全く使えなかったのだ。
どの属性にも適正は無く、唯一使えたのは治癒魔法だけ。
両親は「魔法は使えるまで一年はかかる」と励ましてくれたが、治癒魔法だけしか使えずニ年が過ぎた頃から、両親の態度が変化し始めた。
両親は私に失望し始めた。
婚約の方も莫大な魔力のおかげで辛うじて繋ぎ止めることが出来ていたが、限界が近づいていた。
治癒魔法しか使えない貴族と婚姻なんて出来るわけがない。
私は必死に勉強した。
寝る間も惜しみ、魔法が使えるように努力した。
そしてこの頃から妹のジュリーから嫌がらせを受けるようになったが、両親は黙って放置していた。
とうとう魔法が使えず三年経った。
◯
ある日ジャンから呼び出しがかかった。
私はある程度どんな内容か予想できていたが、無視することもできず、私はジャンの元へ向かった。
「お前と婚約破棄する!」
「……」
予想通り、婚約破棄だった。
「いつまで経っても魔法も使えない無能なんて俺に相応しくない!」
「…………ですが、私も努力はして」
ジャンが怒鳴った。
「嘘をつくな! 努力して魔法が使えないわけがないだろう! どうせ、ずっと遊び呆けていたんだろう?」
ジャンは私を馬鹿にしたように笑う。
ジャンの目には、もはや軽蔑と侮蔑しか無かった。
「ジャン様……」
私はジャンの名前を呼んだ。
すると、ジャンは激高した。
「無能の分際で気安く名前を呼ぶなぁっ!」
ジャンは私の頬をぶった。
口の中が切れたのか、血の味がする。
やり返すことなんて出来ない。
私はじっと耐えるしか無かった。
「二度と俺の目の前に現れるな! さっさと出ていけ! このクズ!」
私は無言で振り返り、部屋から出ていった。
◯
「それで、何と言われたんだ」
「……」
屋敷へと帰ってくるなり、私は父に部屋まで連れてこられた。
「……顔を見せるな、と」
「はぁ……婚約破棄は確実だな」
父は深くため息をついた。
「ごめんなさい……」
「どうした? 謝る必要なんてないぞ?」
「え?」
私は顔を上げる。
父の表情は明るい笑顔だった。
もしかして、許してくれたのだろうか?
両親には計り知れないほど迷惑をかけたというのに、こんな魔法が使えない私でも──
「もうお前は家の子供ではないのだから」
「──え?」
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