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55話 結婚パーティー

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[ドニール視点]

「ぐぅ……なぜこうもすぐに金が無くなるのだ!」

私、ドニールは唸っていた。
マリヤック家のお金が二ヶ月ほどで全てなくなってしまったからだ。
いや、理由は分かっていた。
リナリアを金に変えた後、カルシール男爵に借金を返した私たちは、ついつい気が大きくなってしまい、普段でもしないような金の使い方をしてしまったのだ。
その結果あんなにたくさんあった金は魔法のように消えてしまった。

「なんでこんなに早く無くなるのよ!」
「そうよ! ついこの間お金をもらったばかりじゃない!」

私がマリヤック家の財政状況について正直に話すと、ローラとカトリーヌが私に対して文句を言ってきた。
私自身が苛立っていたのと、大半はローラとカトリーヌが使っていたのに怒りをぶつけられて、私は二人に怒鳴り返す。

「うるさい! お前たちが使ったせいでこうなったんだ! 少しは反省しろ!」
「何よその言い方!」
「そうよ! ちょっとお金を使っただけじゃない!」

しかし二人は全く反省などしていなかった。

「そんなことよりも、今はどうやってまた金を稼ぐかだ! 借金が無くなったとはいえ、このままではまた元の生活に逆戻りだぞ」

数ヶ月前のあのひもじい生活に戻りたいのか、と私が聞くとカトリーヌとローラは静かになった。

(はぁ……どうする)

私は椅子に座り直してどうやって金を稼ぐかを考えが、頭の中に浮かんでくるのはあの豪遊の記憶ばかりだ。
一度覚えてしまったあの豪遊の楽しさは、すぐに忘れることはできない。
加えて今回は簡単に金を手に入れていた、というのも後押しとなって、私たちの思考力をいつもよりも鈍くさせていた。

「そうだ! 名案を思いついたわ!」

ローラが何かを思いついたのか顔を上げる。

「また公爵家にお金をもらいに行けば良いのよ!」
「え?」
「前はあんなに簡単にお金をくれたんだから、今回もリナリアの件で脅したらまたお金をくれるんじゃない?」
「それは名案ねローラ! あなた、ローラの言う通りにするべきじゃない!」

カトリーヌはローラの案を褒め称えていたが、私の考えは全くの逆だった。

「いや、それは流石に貴族として……」

リナリアに二度と近づかない、と約束した手前、素知らぬ顔をしてまた金をたかりに行くのは貴族のプライドに傷がつく。
だが、ローラもカトリーヌも貴族としての品位やプライドには一切関心がないようだった。
体裁や貴族としてのプライドはなく、ただ金が欲しいと喚き散らす二人の姿を私は見ていた。

(……醜い)

一瞬だけ、私はそんなことを考えてしまった。
しかしすぐにその思考を振り払った。

(いかん! 何を考えているんだ私は! 二人が醜いなんて、そんなことあるわけがない!)

私は自分の考えから必死に思考を逸らす。
そうでないと気づいてはいけない真実に気がついてしまうような気がしたからだ。

「どうお父様! そういえばそろそろリナリアたちが結婚のパーティーを開くらしいの! そこに行ってみない?」
「大勢の目があるところなら体裁を気にしてすぐに支払ってくれるかもしれないし、良い考えね」
「あ、ああ……」

考えていたろころに急に話しかけられて、私はつい頷いてしまった。

「やった! それじゃ、パーティーでリナリアたちから金を取りましょ?」

強引に話をまとめられてしまった。
私は仕方がないか、とため息をつく。
金はどうせ必要だったのだし、それにカトリーヌの言う通りパーティーの最中なら私たちを追い出したくてすぐに支払ってくれるかもしれない。

「分かった、パーティーに行こう」
「……自分だけ幸せになるなんて絶対に許さないわ」
「ん?」
「何でもないわ」

ローラが何か言ったような気がしたが、ローラは笑顔で首を傾げていた。
その時、ローラの瞳に炎のようなものがゆらめいた気がしたが、きっと気のせいだろう。



[リナリア視点]

父たちが帰った後。
私が落ち着いて、二人でソファに座っている時だった。

「リナリア」
「はい、何でしょうノエル様」

ノエル様が急に真剣な表情で私の名前を呼んだ。
そしてノエル様はソファから立ち上がると、私の目の前に跪いて手を取った。

「ノエル様?」
「リナリア、私と結婚してください」
「っ……!」

いきなりのプロポーズにまだ心の準備ができていなかった私は心臓が飛び跳ねるぐらい驚いていた。

「今日のことで決意しました。一刻も早くリナリアと結婚してリナリアを繋ぎ止めるための理由が少しでも欲しいのです」

ノエル様と見つめ合う。
心臓がドキドキと脈打っている。

「どんな困難が訪れようと、誰が私とあなたを引き裂こうとしても、私が生涯ずっと、あなたのことを守ると誓います」

私は呟くようにノエル様に質問した。

「……私、結構重たい女です。少しでも放っておくと寂しがると思います」
「ええ、知っています」
「それに、かなり打算的なところがあります。私はノエル様の思ってるような純粋な女性ではないかもしれません」
「いいえ、知っています」

感動で、我慢していないと今にでも泣き出しそうだった。

「……っ! こんな私でも、受け入れてくださるのですか?」
「はい。全部含めて、リナリアが好きなんです」

私はもう涙を我慢できなかった。
ずっと探していた。
私を愛してくれる人を。
心の穴を埋めて売れる人を。
やっと見つけた。

「……はいっ! こんな私でよければ、結婚してださい……!」

私は涙を流しながらノエル様のプロポーズを承諾した。

「指輪はまだありませんが」

ノエル様は苦笑して、私の手の甲にキスをした。





そして数ヶ月が経った。
約束通り父は一切私に接触してこない。
風の噂でマリヤック家のことは聞く。どうやら早々にお金を使い果たしてしまったようで、また色んな家にお金を借りようとしているらしい。
勿論貴族社会で孤立しているマリヤック家にお金を貸す家なんてないので、今はかなりお金に困っているようだ。
もう私とは関係ない話だが。

(それにしても、公爵家の人脈って本当にすごい……)

私は広間にこの国中の貴族が集まっているのではないか、と思ってしまうほどに人が多い広間を見て、私は感嘆していた。
今日は、私とノエル様の結婚パーティーが開かれている。
結婚パーティーと言っても結婚を周知するためのパーティーで、結婚式自体はまた別の日に挙げる予定だ。
準備している期間は案外短いように感じた。
ドレス選びやパーティーの準備で、ずっとドタバタとしていたからだ。

「リナリア様、結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます」

この数ヶ月間で得た知り合いにお礼を言いながら過ごしてた。
経った数ヶ月間で私はかなり交友関係を増やしていた。
少し前まではイザベラ様しか友人がいなかった私は、今は見違える程に友人を増やしている。

「リナリア」
「イザベラ様」

するとイザベラ様もやってきた。

「結婚おめでとう。私も自分のことのように嬉しいわ」
「ありがとうございます」
「やっと結婚するのか、って感じではあるけどね。だってどう見てもリナリアもノエル様も両想いだったのにいつまで経ってもくっつかないんだもの」
「や、やっぱり分かりやすかったですか?」
「ええ、分からない方がおかしいくらい分かりやすかったわ」

どうやらイザベラ様にすらバレるくらいに私とノエル様は分かりやすかったらしい。
色んな人に散々言われてきたので今更だが、やっぱり恥ずかしい。

「あら」

イザベラ様が何かに気づいたようで、笑顔になった。

「それじゃ、お迎えもきたようだし、私はここでお暇させていただくわね」
「え?」

そう言ってイザベラ様は離れて行った。

「リナリア」
「ノエル様」

振り返るとノエル様が立っていた。
ノエル様の隣にはアーノルド王子が立っており、イザベラ様は笑顔でアーノルド王子の元はと歩いてく。
ノエル様が私の元までやって来た。

「リナリア、今日も綺麗です」
「ノエル様も今日も素敵です」

ノエル様が褒めてくれたので私もノエル様を褒め称える。

「リナリア、手を」

ノエル様が手を差し出してきた。

「はい」

私はその手を取った。
そして私たちはこのパーティーの主役として、来客に挨拶をしていく。

「ノエル」
「父上、母上」

そしてノエル様のご両親であるリチャード様とマリーヌ様もやってきた。

「二人とも、結婚おめでとう」
「私たちも幸せだわ」
「ありがとうございます」
「お二人のおかげです」

私はお二人にお礼を述べる。
私がノエル様と結婚できたのは二人のお陰な部分が大きい。
二人がノエル様との結婚を認めて、逆に勧めてくれたからこそ、私たちは関係を進めることができたのだ。
そう言う意味では、二人がいなければ私とノエル様は結婚していなかったかもしれないぐらい重要人物だ。

「それにしてもリナリアちゃん、本当に綺麗ね。うーん、女の私から見ても嫉妬すら出ないくらいに綺麗だわ」
「ありがとうございます、義母様……」

褒めてもらったのは嬉しいが、そんなに褒めちぎられるとくすぐったい気持ちになる。

「ああ、こんなに綺麗な女性と結婚ができるなんて、本当にノエルは幸せ者だな」
「ええ、本当に私は世界で一番幸せです」
「も、もうっ! ノエル様! 恥ずかしいことを堂々と言わないでください!」
「ははっ、私たちはどうやら邪魔のようだ。では私たちはこれで一旦離れるとしよう」
「ええ、これ以上邪魔したら悪いしね」

そしてリチャード様とマリーヌ様は私たちから離れていった。
それからは私たちはまた来客に挨拶をしていた。
だが、突然招かれざる客がやってきた。

「ん? 何か騒がしいですね」

最初に気づいたのはノエル様だった。
広間の一角で、何やら異常に騒がしい場所があった。

「本当ですね。何かトラブルでもあったのでしょうか」
「リナリア、少し行ってきます」

ノエル様が一人でトラブルがあった場所まで行こうとしたので私は腕を掴んで止める。

「待ってください、私も行きます。もう夫婦になるんですから、こう言うのは二人で対処しましょう」

プロポーズされた日、ノエル様は私を守ってくれると言ったが私はそれではいけないと思った。
守られるだけの人間ではいるわけにはいかない。
だから、この数ヶ月間、私は自分で身を守るために様々なことをした。
パーティーには積極的に参加して、交友関係を増やし、私個人に対する味方を可能な限り増やした。
ノエル様もそれが分かってくれているのか、私がついていくことに頷いた。

「……そうですね。二人でいきましょう」

私たちは手を繋いで騒ぎの元へと向かった。

「……嘘でしょう」

私は目の前の光景を見て、そう呟かざるを得なかった。

「お母さま、とても美味しいわ!」
「ええ、さすが公爵家のパーティーね!」

そこにはテーブルに置かれた食べ物や飲み物を食べ散らかしているローラとカトリーヌがいたからだ。
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