姫金魚乙女の溺愛生活 〜「君を愛することはない」と言ったイケメン腹黒冷酷公爵様がなぜか私を溺愛してきます。〜

水垣するめ

文字の大きさ
上 下
41 / 57

41話 マリヤック家の事情

しおりを挟む
「ぐっ……! また催促の手紙か!」

ドニールは借金をしているカルシール男爵からの催促の手紙をぐしゃりと握り潰した。
最近、毎日カルシール男爵から催促の手紙がやってくる。
ドニールは「借金についてはしばらく待ってほしい」とその度に手紙を送っているのだが、カルシール男爵の催促は一向に途切れる気配がない。

「カルシールめ……! 男爵家のくせに私の弱みを握ったからと侮りおって……!」

ドニールはカルシール男爵に舐められていることに対する悔しさに歯軋りをした。

「いつかそれ相応の復讐をしてやる!」

ドニールはカルシール男爵に対し復讐を誓った。

「しかし、まずはこれをどうするかだ……」

ドニールはため息をついて手紙を見る。

『催促をしても埒が明かないので明日、そちらの屋敷へと向かわせてもらう』

カルシール男爵からの手紙の最後の一文には、そう書かれていた。




ドニールはカトリーヌとローラと食堂で昼食を取っていた。
しかし食堂には暗い雰囲気が漂っていた。
アーノルド王子の屋敷での一件でマリヤック家は完全に孤立し、そのせいでどこの家からもパーティーに呼ばれなくなった為だった。
カトリーヌもローラもパーティーを生き甲斐にしているため、かなりショックのようだった。
ローラに至ってはあの日の出来事を夢に見るほどトラウマになっているらしい。
ドニールはなんとかカトリーヌとローラを元気付けようと言葉を絞り出す。

「そ、そうだ! 二人とも! 今度街へショッピングに行かないか! 好きなものを買ってやろう!」
「え?」
「本当?」

ローラとカトリーヌの表情がパッと明るくなる。
ドニールはこの雰囲気をなんとか打破したい、そんな気持ちでそう言ったのだが、側で聞いていた使用人が私がショッピングへ行くのに難色を示した。

「旦那様、仕事が溜まっておりますのでそれを──」
「黙っておれ! 使用人である貴様が私に指図するな! 仕事はお前がやっておけばいいだろう!」
「で、ですが旦那様のサインが必要なものがいくつも……それに私はそのような仕事はできません」
「使用人のくせにそんなわけないだろう! 明日帰ってくるまでに私のサインの必要なもの以外全て終わらせておけ! いいな!」
「……はい、申し訳ありませんでした」
「食堂から出ていけ!」

せっかく雰囲気を良くしようと思い発言して、実際に雰囲気が良くなっていたのに水を差されたドニールは激昂する。
ドニールは使用人を食堂から出て行かせる。
また暗い雰囲気になるかと思ったが、ローラは少し元気が出て来たのかその背中を見て笑った。

「ふん、お父様に反抗しようだなんて本当にバカね」
「ええ、使用人の分際で分を弁えないからそうなるのです」

カトリーヌもドニールの言った言葉を肯定してくれた。
二人の表情を見るに、調子を取り戻したようだ。
ドニールは上機嫌になり、食事を続ける。

「それにしても、最近はリナリアがいないから何だかストレスが解消できなくて大変だわ」

ローラがそんな不満を漏らした。

「確かにね。前までならこの食事の時間にでもリナリアを叱っていたのに、最近は何だか張り合いがないわ」

ローラとカトリーヌはリナリアがいないせいでストレスを解消できていないようだ。

「確かに、リナリアほどストレスを解消するのにちょうどいい奴は居なかったな。その点で考えれば公爵にやってしまったのも惜しかったかもしれない」

そしてローラが食堂を見渡すとドニールに質問してきた。

「お父様、使用人が少なくなったわよね?」
「ええ、私もそう思うわ。あなた、何かあったの?」

今、食堂の中には使用人が一人しか居なかった。
数ヶ月前までは食事を給仕する使用人なんて何人もいたのにも関わらず、だ。
普段から使用人のことなんて考えていないローラもこの事態には気付き、ドニールに質問した。
ローラに加えてカトリーヌまで質問してきた。

「あ、ああ。皆無能しかいなかったからな、解雇したんだ」

ドニールは嘘を言って誤魔化した。
流石に妻や娘に使用人を雇う金すら無くなった、とは言えない。
そんなことを言ってしまってはドニールの誓いである『カトリーヌとローラに我慢をさせない』という誓いを破ることになる。

「でも、明らかに使用人が少ないわ。それに食事も最近は少なくなって来てるし」
「……ねぇ、あなた。もしかして何だけど……お金がないんじゃいの?」
「えっ?」

カトリーヌの言葉に対して真っ先にローラがショックを受けたような顔になった。

「最近は家で夜会を開くのも自重しているし、それに食事も前と違ってなんだか貧乏くさくなってしまったわ」

カトリーヌのいう通りだった。
以前までは金を贅沢に使っていたため、食事が豪勢だったが今の食事は質素になってしまった。
と言っても、平民の食事に比べれば豪勢なことには変わりないが。
しかし生活の質は急に下げられるものではない。
カトリーヌもローラもマリヤック家の財産が少なくなっていることには気がついていたらしい。
ドニールは白状することにした。

「実は……そうだ。マリヤック家の金が無くなってきているんだ。すまないカトリーヌ、ローラ。以前のような贅沢はしばらくさせてやれない……!」

それはドニールにとって断腸の思いで言った言葉だった。
ドニールは二人から責められることを覚悟していたが──。

「大丈夫よ。お父様!」
「そうよ。私が今まで気がつかなかったのが悪いんだわ。今まで気を遣わせてごめんなさいね」

カトリーヌがドニールの肩に優しく手を置く。

「カトリーヌ……ローラ……」

ドニールは自分の浅ましい考えを恥じた。
自分の家族はこんなにも優しく、そして自分のことを愛してくれているのだ。

(もうすぐ領地からの税収が入ってくる。その金でこの二人にとびっきりの贅沢をさせてやろう……!)

ドニールはそう誓うのだった。





そして翌日、本当にカルシール男爵がマリヤック家へとやってきた。
カルシール男爵との話し合いではカトリーヌとローラも同席していた。
ドニールはローラが借金の形として求められていることを知られたくなかったので同席させたくなかったのだが、ローラとカトリーヌに説得され同席していた。

「それで、伯爵殿。儂が借した金はいつになったら戻って来るのだね?」

カルシール男爵はソファに偉そうに座って、ドニールに質問した。
その態度は爵位が上のドニールに対してあまりにも不躾だったが、借金をしているドニールはそのことを指摘できず、悔しげに歯軋りするだけだった。

「だから、借金についてはもう少し待って欲しいと……」
「知らん。儂は十分に待った。これ以上待つことなんでできるわけがない」
「し、しかしもう少しで税収が入ってくるのだ。それさえ入って来たら借金はすぐに返済すると約束する!」
「知らん。期日の意味が分からないのか? 儂はもう待たんし、これ以上期日を引き延ばすつもりもない」
「ぐっ……!」

ドニールはカルシール男爵を睨みつける。
そのドニールの表情を見てカルシール男爵は優越感を露わにして笑うと、顎をさすった。

「そもそも、すでに私は妥協しているだろう。借金を返すか、それとも娘を代わりに差し出すのか」

カルシール男爵はドニールの隣に座っているローラを下卑た目で舐め回すように見た。

「そ、それは……っ!」

その視線に嫌悪の反応を示すより前に、ローラはたった今カルシール男爵から聞いた言葉に驚愕していた。

「え、なにそれ……?」

ローラが信じられないもの見たような目でドニールを見た。

「あなた、実の娘を売りに出すつもりなのですか!」
「わ、私ではない! あちらが勝手に提案をして来たんだ!」

ドニールは慌てて言い訳を始める。
その様子を見てカルシール男爵は愉快そうに笑った。

「はっはっは。まだ言っておらんかったのか。それではまた後日来るとするかな。それまでにどうするか決めておいてもらおう。期日通りに借金を返すか。それとも娘を差し出すのか」
「ま、待っ……!」

そう言ってカルシール男爵はソファから立ち上がると、ドニールの声に振り向かず部屋から出ていった。
部屋からカルシール男爵が出ていったことでローラとカトリーヌは激しくドニールに追求を始める。

「どういうことよお父様! 私を代わりに差し出すつもりなの!?」
「あなた、ちゃんと説明して!」
「違う! 私は決してローラをカルシールの元へ差しだすつもりはない! あちらが勝手に言ってるだけだ!」
「でもこのままだと結婚させられてしまうわ! お父様も見たでしょう! あれは私の体目当てよ!」
「どうするつもりなのですか! ローラを本当に売るつもりですか!」

ローラとカトリーヌはドニールを責め立てる。
そしてドニールは苦し紛れにある提案をした。

「分かった! 代わりにリナリアを差し出そう! ローラはネイジュ公爵と再び婚約する! これでどうだ!」

それはドニールが苦し紛れに言った案だったが、今考えた案としては優れているように思えた。
ローラもドニールの案を考えて、頷く。

「そうね……それが良いわ! だって私はリナリアより美しいし、リナリアよりも婚約者に相応しいわ! あんなのと結婚するなら、生贄として婚約破棄された方がましだしね!」
「ええ! 私も賛成よ! 同じ婚約なら男爵家より公爵家の方がよっぽどマシだわ!」
「よし、早速リナリアに手紙を出して、本人が希望しているように見せよう」

そしてドニールはリナリアの元へと手紙を出した。
しおりを挟む
感想 66

あなたにおすすめの小説

我慢するだけの日々はもう終わりにします

風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。 学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。 そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。 ※本編完結しましたが、番外編を更新中です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

2度目の人生は好きにやらせていただきます

みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。 そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。 今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません

しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。 曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。 ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。 対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。 そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。 おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。 「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」 時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。 ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。 ゆっくり更新予定です(*´ω`*) 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。 皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。 他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。 救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。 セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。 だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。 「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」 今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。

【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」 その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。 「了承しました」 ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。 (わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの) そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。 (それに欲しいものは手に入れたわ) 壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。 (愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?) エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。 「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」 類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。 だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。 今後は自分の力で頑張ってもらおう。 ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。 ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。 カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*) 表紙絵は猫絵師さんより(⁠。⁠・⁠ω⁠・⁠。⁠)⁠ノ⁠♡

処理中です...