37 / 57
37話 一方ドニールは
しおりを挟む
ローラがアーノルド王子の屋敷へ行った翌日。
リナリアの父、ドニールの書斎にて。
「な、なんだこれは……!」
ドニールは今朝届いた手紙を見て頭を抱えていた。
送られてきた手紙は二通。
イザベラの家であるブラスト公爵家から、そしてアーノルド王子からだった。
ただでさえ伯爵家の自分を上回る、貴族で最も爵位の高い公爵家と、それよりも地位の高い王子から手紙が来ただけでも一大事なのに、そこに書かれている内容はもっとドニールを苦しめることとなった。
「我がマリヤック家への抗議と、ローラを二度とアーノルド王子の前に立たせるな、だと!?」
両家から来た手紙には昨日のパーティーで起こった事件の顛末、そしてローラに対する厳重な抗議が書かれていた。
アーノルド王子の方の手紙には『二度と自分と婚約者に近寄らせるな』との命令まで書かれている。
何でもローラは婚約者がいるアーノルド王子を口説こうとして、両者の逆鱗に触れたのだとか。
どちらも文面ですら分かるほどの怒りを滲まており、ドニールは震え上がった。
「昨日のことはそういう事か……!」
ドニールは昨日、パーティーから帰ってきたローラが何故泣いていたのか理解した。
昨日ローラが泣きながら帰ってきたと思って、夜中にようやく泣きやませ寝かせたと思ったら、朝一番からこれだ。
ドニールの胃がきりきりと痛んだ。
「だが、こうなったからにはもうしょうがない……。それにローラを責めるなんて私には出来ない……!」
ドニールはローラの泣いていた表情を思い出す。
今まで愛していた人物に面と向かって「二度と近づくな」と言われた最愛の娘の気持ちを考えると、叱責なんて出来るはずもない。
それどころかアーノルド王子に対して怒りすら抱くほどだ。
勿論王子に対して怒りをぶつけることなんて出来るはずもないが。
「とにかく、アーノルド王子とブラスト公爵家へは手紙を送っておこう」
ドニールは早速両家に対して深い謝罪の手紙を送った。
次にドニールは他に届いていた手紙を手に取った。
それはマリヤック家の領地で仕事をさせている役人からの手紙だった。
『増税により領民の不満がかつてないほど高まっています。どうか税率を下げてください』
手紙に書かれていた内容を要約すると、こんなものだった。
「ふん、こんなもの知ったものか」
文面からは領民の不満をぶつけられている役人の必死さが伝わってくるが、ドニールは鼻で笑って手紙を放り捨てた。
「大体、その領民の対応も役人に任せた仕事だ。私には関係ない」
ドニールはそう呟いた。
ドニールにとって、領民とは税を納めるだけ存在でありそれ以上でもそれ以下でもない。
そのため、税率に対して反抗されようともドニールとってはどうでもいい事だった。
「さて、次の手紙だ」
ドニールは次の手紙を手に取る。
今度の手紙はマリヤック家が借金をしているカルシール男爵からの手紙だった。
以前少し待ってほしい、と手紙を送ったはずだがカルシール男爵はそれを無視して催促の手紙を送ってきた。
文面は前回と同じ。
借金の催促と、返済が出来ないなら娘をもらう、という言葉だ。
「またか! 何度言ったら分かるんだ!」
ドニールは机を叩きつけた。
勿論、娘をカルシール男爵の元へ嫁がせるなんてことはさせられない。
だが、流石にそろそろカルシール男爵へ借金を返さねばならない。
借金を返せなければ王宮から役人がやってきて、強制的に領地や屋敷の物が借金の返済へ充てられることとなるからだ
領地を奪われるというのは貴族にとって耐え難い屈辱だ。
ましてや男爵に奪われるなど末代までの恥になる。
「カルシールに私の領地を奪われることだけは避けなくては……!」
ドニールは必死に何か借金を簡単に返す方法はないかと模索する。
そしてドニールはため息をつくと、ある決心をした。
「……仕方がない、他の家から借金をするしかないな」
ドニールの思いついた方法は他家に借金をして、そのお金をカルシール男爵への返済に充てる、といった方法だった。
この方法は本来褒められたものではないが、一時しのぎにはなる。
それに返済の代わりに娘を要求するカルシール男爵と縁を切れるなら、メリットがあるくらいだ。
「よし、早速他家に借金の申し入れを……」
ドニールは他の懇意にしている家に対して『借金をさせて欲しい』という内容の手紙を送りつけた。
「ふぅ、これでもう大丈夫だ……」
ドニールは息を吐いて椅子に深く腰掛ける。
これで後は返事を待つだけだ、と思っていた。
しかしそれから数日経って返ってきた返事は全て断りの言葉が入っていた。
それはローラがパーティーで王族と公爵家の不興を買ったことを知り、マリヤック家との縁を切ることにしたためだった。
つまり、マリヤック家は「落ち目の貴族だ」と見限られたのだ。
ドニールは怒り狂った。
だが怒り狂ったところで見放した貴族たちが戻ってくることはない。
この日から、マリヤック家はどの家との交流も無くなり、貴族社会で孤立することになった。
リナリアの父、ドニールの書斎にて。
「な、なんだこれは……!」
ドニールは今朝届いた手紙を見て頭を抱えていた。
送られてきた手紙は二通。
イザベラの家であるブラスト公爵家から、そしてアーノルド王子からだった。
ただでさえ伯爵家の自分を上回る、貴族で最も爵位の高い公爵家と、それよりも地位の高い王子から手紙が来ただけでも一大事なのに、そこに書かれている内容はもっとドニールを苦しめることとなった。
「我がマリヤック家への抗議と、ローラを二度とアーノルド王子の前に立たせるな、だと!?」
両家から来た手紙には昨日のパーティーで起こった事件の顛末、そしてローラに対する厳重な抗議が書かれていた。
アーノルド王子の方の手紙には『二度と自分と婚約者に近寄らせるな』との命令まで書かれている。
何でもローラは婚約者がいるアーノルド王子を口説こうとして、両者の逆鱗に触れたのだとか。
どちらも文面ですら分かるほどの怒りを滲まており、ドニールは震え上がった。
「昨日のことはそういう事か……!」
ドニールは昨日、パーティーから帰ってきたローラが何故泣いていたのか理解した。
昨日ローラが泣きながら帰ってきたと思って、夜中にようやく泣きやませ寝かせたと思ったら、朝一番からこれだ。
ドニールの胃がきりきりと痛んだ。
「だが、こうなったからにはもうしょうがない……。それにローラを責めるなんて私には出来ない……!」
ドニールはローラの泣いていた表情を思い出す。
今まで愛していた人物に面と向かって「二度と近づくな」と言われた最愛の娘の気持ちを考えると、叱責なんて出来るはずもない。
それどころかアーノルド王子に対して怒りすら抱くほどだ。
勿論王子に対して怒りをぶつけることなんて出来るはずもないが。
「とにかく、アーノルド王子とブラスト公爵家へは手紙を送っておこう」
ドニールは早速両家に対して深い謝罪の手紙を送った。
次にドニールは他に届いていた手紙を手に取った。
それはマリヤック家の領地で仕事をさせている役人からの手紙だった。
『増税により領民の不満がかつてないほど高まっています。どうか税率を下げてください』
手紙に書かれていた内容を要約すると、こんなものだった。
「ふん、こんなもの知ったものか」
文面からは領民の不満をぶつけられている役人の必死さが伝わってくるが、ドニールは鼻で笑って手紙を放り捨てた。
「大体、その領民の対応も役人に任せた仕事だ。私には関係ない」
ドニールはそう呟いた。
ドニールにとって、領民とは税を納めるだけ存在でありそれ以上でもそれ以下でもない。
そのため、税率に対して反抗されようともドニールとってはどうでもいい事だった。
「さて、次の手紙だ」
ドニールは次の手紙を手に取る。
今度の手紙はマリヤック家が借金をしているカルシール男爵からの手紙だった。
以前少し待ってほしい、と手紙を送ったはずだがカルシール男爵はそれを無視して催促の手紙を送ってきた。
文面は前回と同じ。
借金の催促と、返済が出来ないなら娘をもらう、という言葉だ。
「またか! 何度言ったら分かるんだ!」
ドニールは机を叩きつけた。
勿論、娘をカルシール男爵の元へ嫁がせるなんてことはさせられない。
だが、流石にそろそろカルシール男爵へ借金を返さねばならない。
借金を返せなければ王宮から役人がやってきて、強制的に領地や屋敷の物が借金の返済へ充てられることとなるからだ
領地を奪われるというのは貴族にとって耐え難い屈辱だ。
ましてや男爵に奪われるなど末代までの恥になる。
「カルシールに私の領地を奪われることだけは避けなくては……!」
ドニールは必死に何か借金を簡単に返す方法はないかと模索する。
そしてドニールはため息をつくと、ある決心をした。
「……仕方がない、他の家から借金をするしかないな」
ドニールの思いついた方法は他家に借金をして、そのお金をカルシール男爵への返済に充てる、といった方法だった。
この方法は本来褒められたものではないが、一時しのぎにはなる。
それに返済の代わりに娘を要求するカルシール男爵と縁を切れるなら、メリットがあるくらいだ。
「よし、早速他家に借金の申し入れを……」
ドニールは他の懇意にしている家に対して『借金をさせて欲しい』という内容の手紙を送りつけた。
「ふぅ、これでもう大丈夫だ……」
ドニールは息を吐いて椅子に深く腰掛ける。
これで後は返事を待つだけだ、と思っていた。
しかしそれから数日経って返ってきた返事は全て断りの言葉が入っていた。
それはローラがパーティーで王族と公爵家の不興を買ったことを知り、マリヤック家との縁を切ることにしたためだった。
つまり、マリヤック家は「落ち目の貴族だ」と見限られたのだ。
ドニールは怒り狂った。
だが怒り狂ったところで見放した貴族たちが戻ってくることはない。
この日から、マリヤック家はどの家との交流も無くなり、貴族社会で孤立することになった。
42
お気に入りに追加
3,941
あなたにおすすめの小説
我慢するだけの日々はもう終わりにします
風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。
学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。
そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。
※本編完結しましたが、番外編を更新中です。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※独特の世界観です。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
2度目の人生は好きにやらせていただきます
みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。
そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。
今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言
音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。
婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。
愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。
絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる