姫金魚乙女の溺愛生活 〜「君を愛することはない」と言ったイケメン腹黒冷酷公爵様がなぜか私を溺愛してきます。〜

水垣するめ

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37話 一方ドニールは

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ローラがアーノルド王子の屋敷へ行った翌日。
リナリアの父、ドニールの書斎にて。

「な、なんだこれは……!」

ドニールは今朝届いた手紙を見て頭を抱えていた。
送られてきた手紙は二通。
イザベラの家であるブラスト公爵家から、そしてアーノルド王子からだった。

ただでさえ伯爵家の自分を上回る、貴族で最も爵位の高い公爵家と、それよりも地位の高い王子から手紙が来ただけでも一大事なのに、そこに書かれている内容はもっとドニールを苦しめることとなった。

「我がマリヤック家への抗議と、ローラを二度とアーノルド王子の前に立たせるな、だと!?」

両家から来た手紙には昨日のパーティーで起こった事件の顛末、そしてローラに対する厳重な抗議が書かれていた。
アーノルド王子の方の手紙には『二度と自分と婚約者に近寄らせるな』との命令まで書かれている。
何でもローラは婚約者がいるアーノルド王子を口説こうとして、両者の逆鱗に触れたのだとか。

どちらも文面ですら分かるほどの怒りを滲まており、ドニールは震え上がった。

「昨日のことはそういう事か……!」

ドニールは昨日、パーティーから帰ってきたローラが何故泣いていたのか理解した。
昨日ローラが泣きながら帰ってきたと思って、夜中にようやく泣きやませ寝かせたと思ったら、朝一番からこれだ。
ドニールの胃がきりきりと痛んだ。

「だが、こうなったからにはもうしょうがない……。それにローラを責めるなんて私には出来ない……!」

ドニールはローラの泣いていた表情を思い出す。
今まで愛していた人物に面と向かって「二度と近づくな」と言われた最愛の娘の気持ちを考えると、叱責なんて出来るはずもない。
それどころかアーノルド王子に対して怒りすら抱くほどだ。
勿論王子に対して怒りをぶつけることなんて出来るはずもないが。

「とにかく、アーノルド王子とブラスト公爵家へは手紙を送っておこう」

ドニールは早速両家に対して深い謝罪の手紙を送った。

次にドニールは他に届いていた手紙を手に取った。
それはマリヤック家の領地で仕事をさせている役人からの手紙だった。

『増税により領民の不満がかつてないほど高まっています。どうか税率を下げてください』

手紙に書かれていた内容を要約すると、こんなものだった。

「ふん、こんなもの知ったものか」

文面からは領民の不満をぶつけられている役人の必死さが伝わってくるが、ドニールは鼻で笑って手紙を放り捨てた。

「大体、その領民の対応も役人に任せた仕事だ。私には関係ない」

ドニールはそう呟いた。
ドニールにとって、領民とは税を納めるだけ存在でありそれ以上でもそれ以下でもない。
そのため、税率に対して反抗されようともドニールとってはどうでもいい事だった。

「さて、次の手紙だ」

ドニールは次の手紙を手に取る。
今度の手紙はマリヤック家が借金をしているカルシール男爵からの手紙だった。
以前少し待ってほしい、と手紙を送ったはずだがカルシール男爵はそれを無視して催促の手紙を送ってきた。
文面は前回と同じ。
借金の催促と、返済が出来ないなら娘をもらう、という言葉だ。

「またか! 何度言ったら分かるんだ!」

ドニールは机を叩きつけた。
勿論、娘をカルシール男爵の元へ嫁がせるなんてことはさせられない。
だが、流石にそろそろカルシール男爵へ借金を返さねばならない。
借金を返せなければ王宮から役人がやってきて、強制的に領地や屋敷の物が借金の返済へ充てられることとなるからだ
領地を奪われるというのは貴族にとって耐え難い屈辱だ。
ましてや男爵に奪われるなど末代までの恥になる。

「カルシールに私の領地を奪われることだけは避けなくては……!」

ドニールは必死に何か借金を簡単に返す方法はないかと模索する。
そしてドニールはため息をつくと、ある決心をした。

「……仕方がない、他の家から借金をするしかないな」

ドニールの思いついた方法は他家に借金をして、そのお金をカルシール男爵への返済に充てる、といった方法だった。
この方法は本来褒められたものではないが、一時しのぎにはなる。
それに返済の代わりに娘を要求するカルシール男爵と縁を切れるなら、メリットがあるくらいだ。

「よし、早速他家に借金の申し入れを……」

ドニールは他の懇意にしている家に対して『借金をさせて欲しい』という内容の手紙を送りつけた。

「ふぅ、これでもう大丈夫だ……」

ドニールは息を吐いて椅子に深く腰掛ける。
これで後は返事を待つだけだ、と思っていた。

しかしそれから数日経って返ってきた返事は全て断りの言葉が入っていた。

それはローラがパーティーで王族と公爵家の不興を買ったことを知り、マリヤック家との縁を切ることにしたためだった。
つまり、マリヤック家は「落ち目の貴族だ」と見限られたのだ。
ドニールは怒り狂った。
だが怒り狂ったところで見放した貴族たちが戻ってくることはない。
この日から、マリヤック家はどの家との交流も無くなり、貴族社会で孤立することになった。
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