姫金魚乙女の溺愛生活 〜「君を愛することはない」と言ったイケメン腹黒冷酷公爵様がなぜか私を溺愛してきます。〜

水垣するめ

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29話 真夜中の読書会

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夜もすっかりふけた頃。
コンコン、と扉がノックされた。

「リナリア、私です」
「ノエル様!」

私は急いで扉の方まで駆けて行って扉を開いた。
ノエル様は大量の本を抱えており、とても重そうだったので私は手伝おうか聞いた。

「持ちましょうか?」
「いえ、これくらい平気です」

ノエル様は特に大変そうな素振りを見せることなくベットの脇にあるサイドテーブルまで運んだ。

「ノエル様は力持ちなんですね……」
「これぐらいは普通です。それより、本当にするんですか……?」
「はい!」

私は力強く肯定した。

「ですが……こんな夜中に同じ部屋でお互いのおすすめの本を読もうなんて……」

ノエル様はまだ迷っているようだった。
今からするのは深夜の読書会だ。
ノエル様に最初に教えてもらった恋愛小説の中で、男女二人がお互いの好きな本を読んでよりお互いの理解を深めていた。
私の中でそのシーンが強烈に記憶に残っており、ノエル様ともしてみたいと思っていたのだ。

こうなったのは少し遡る。

これは私が花園で落ち着いた後のこと。

『私たち、友人になったんですよね?』
『……ええ、そうですね。口に出して確認するのは少し恥ずかしいですが』

自分から友人になって欲しいと言ったくせに改めて友人だと確認されるのが恥ずかしいのか、ノエル様は少し照れていた。

『友人になったんですから、やってみたいことがあるんです』
『やってみたいこと?』
『はい! 夜に部屋に集まって、お互いのおすすめの本を読み合う読書会をしたいです!』

そうして私が提案したのが、この読書会だった。
以前、花園にてノエル様のおすすめの小説を教えてもらう約束をしたのだが、まだその約束が果たされていない。
だから今日そのおすすめの小説を紹介してもらうのだ。

『で、ですがあれは恋人同士でやっていたので……』
『それでも私、もっとノエル様のことが知りたいんです!』

せっかく友人になれたのだから、もっとノエル様のことを知りたい。
そういう気持ちから私はそう言ったのだが、ノエル様は困ったように眉を下げていた。

『ですが……』

私はノエル様のその表情を見てまた無茶なお願いをしてしまったことに気がついた。

『そうですよね……申し訳ありません。私またわがままを言ってしまいました……』
『…………わかりました! します! しましょう!』

ノエル様は降参だ! と両手を挙げた。

『ありがとうございます!』

という訳で私たちは今日の夜、読書会をすることになった。

部屋には予め紅茶も用意されているし、準備は万端だ。

「私もおすすめの本を選んでおきました。といっても小説は一つもないのですか……」

私は今まで実用的な本しか読んでこなかったので、ノエル様におすすめできる好きな小説がないのだ。

「構いません。この読書会の目的はお互いを知ることですから。あなたの好きな本を読むことが大切なのです」

ノエル様はそこまで言って咳払いをすると真剣な表情で私に向き直った。何だろう?

「最後に確認しますが、いいんですね?」
「え? 何がですか?」
「夜に私を自室に招き入れるということは、本来なら勘違いされても仕方がないんですよ? まあ、私は勘違いなどしませんが……」
「何のことかよく分かりませんが、ノエル様が勘違いしないならそれでいいんじゃないんですか?」

私はノエル様が何を言っているのか分からなかった。
勘違い? 何のことだろう。
友人を自室に招き入れることがそんなにおかしいのだろうか。

「……」

私がそう言うとノエル様はこめかみを押さえ、天井を向いていた。

「わ、私また何か変なことを言ってしまいましたか?」
「……いえ、もういいです。さあ、本を読みましょう」
「はい!」

ノエル様はため息をついて私の選んだ本の中から一冊取り出すとベッドに腰掛け本を読み始めた。
私も机に置かれた本の中から一冊取り出す。

「……」

そしてノエル様の反対側に回り込むと、ノエル様の背中にもたれかかった。

「な、何を──」
「してみたかったので。だめでしたか?」
「……もう好きにしてください」

ノエル様から許可が出たので遠慮なく体重をかける。
背中からノエル様の体温が伝わってくる。
なんだか少し熱いような気がしたけど、きっと気のせいだろう。

二人きりの部屋にパラ、パラとページを捲る音だけが響く。
少し前までならノエル様と二人きりでこれだけ静かだったら慌てていただろうけれど、今の私にとってはこの静けさが居心地が良かった。

この位置からは窓の外が見える。
窓の外では星が瞬いて、キラキラと輝いていた。
いつも窓の外からは屋敷の灯りばかりを見ていた私にとって、その景色は本当に私があの屋敷から抜け出すことができた証の一つだった。

「……」

ページをまた一枚捲る。
私はこの幸せを噛み締めていた。
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