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1話
しおりを挟む私、メアリー・フォールズ男爵令嬢は聖女だ。
聖女に選ばれたのは五年前、私がまだ十歳だった頃。
私の家は小さな貧乏男爵家だったが、教皇に選ばれて聖女になった。
聖女という地位は長年空席で、非常に名誉なものだったため、周りからはとても羨ましがられた。
両親も私が聖女に選ばれたことを嬉しがり、私も嬉しかった。
しかし聖女の仕事はそんなに羨ましがられるようなものでは無かった。
朝から晩まで働いて、自由な時間など一時も無い。
そしていつ何時も聖女として振る舞わなければならなかった。
どんなに辛くても笑顔で、誰に対しても優しくしなければならない。
まだ子供だった私にはこれはとても辛かったが、フォールズ家のため、国のために我慢し続けた。
こんな風に、心身を共に酷使して磨り減らし、私は毎日を聖女として過ごしていた。
◯
この日も私は聖女の仕事を終えて満身創痍でフォールズ家の屋敷に帰ってきた。
重い体から力を絞り出して扉を開ける。
すると屋敷の中から優雅な楽団の音楽と楽しげな笑い声が聞こえてきた。
(まさか……!)
私は嫌な予感がしながらも中に入る。
そして屋敷の中を見て私は予想通りの事態に落胆した。
屋敷の中は豪華なドレスやタキシードを着た貴族や著名人が歩き回り、メイドたちが忙しなく料理を給仕している。
盛大なパーティーが開かれていた。
「何これ……」
もちろん私はそんなことを聞いていない。
私が唖然としていると、メイドの一人が私に気づいて近寄ってきた。
「お帰りなさいませ、メアリー様」
「……ねぇアン、これは何なの」
「パーティー、だそうです」
「お父様が言い出したの?」
「はい。申し訳ありません、私たちは必死に止めようとしたのですが」
アンが本当に申し訳無さそうな顔をして頭を下げる。
しかし、私はアンに責任があると思っていなかった。
「アンたちが悪くないのは分かってるわ。どうせいつもみたいに押し通したんでしょう? それよりも、今からお話ししにいかないと」
「……お二人は奥の部屋で休んでおられます」
「教えてくれてありがとう」
ふつふつと怒りがこみ上げてくる中、私は談笑が聞こえる中を突っ切って奥へと進む。
そして奥の部屋のドアを開けた。
そこには父と母がソファに座って優雅にワインを飲んでいた。
私は二人に向かって怒鳴りつけた。
「これはどういうことですか!?」
「何ってパーティーを開いているんだ。見てわからないのか?」
父は馬鹿にしたように私を笑う。
「私のお金を使って勝手にパーティーを開かないでください!」
「ふん、家の金を使って何が悪いと言うのだ」
父はふんぞり返り、反省の色は無い。
私は怒りを爆発させた。
「私が聖女として務めて稼いだお金ですよ!」
私は聖女の報酬を勝手に自分たちの贅沢のためのパーティーに使われたことに激怒した。
「家の為に使っているのだからいいだろう?」
父はそう言ってワインのつまみを一口食べる。
「こんな盛大なパーティーを開くのが家の為なわけないじゃないですか!」
「はぁ? こうしてパーティーを開くのはこの家のコネを増やすためだ! この家の為に決まっているだろうが!」
「メアリー、あなたはもう少し頭を使って考えなさい。見れば分かるでしょ? 私達も頑張っているのよ! 親を馬鹿にするのも大概にしなさい!」
母が大げさにため息をついた。
私のほうがため息をつきたい気持ちだった。
コネを作るためのパーティーなのになぜそんなに楽しそうなんだとか、誰とも交流せずここで休んでいるのだとか、色々と問い詰めたかった。
しかしこれ以上追求しても誤魔化されるのが分かっていた。
「なら、今度からちゃんと何に使うのか報告して下さい! それが筋でしょう!」
「黙れ! 子が稼いだ金を親が使って何が悪い! お前を今まで育ててやったのは誰だと思っているのんだ!」
「なっ……!」
私は父の横暴な物言いに絶句する。
親だから何をしても良いと言ったのか、この人は?
父が手を机に叩きつけて怒鳴る。
「それにさっきからみっともないぞ! 聖女たるものが金! 金! などと。全く嘆かわしい」
「ええ、本当よ! 帰ってきたと思ったらお金、お金! って、あなた本当に聖女なの?」
「まったくだ。なぜこんなふうに育ってしまったんだ」
「……」
私は俯いて両親の罵声を浴びた。
昔の両親はこんな人たちじゃなかった。
しかし聖女の報酬が入ってから人が変わってしまった。
聖女の報酬は莫大だった。
両親は働かずに私のお金で毎日贅沢三昧の日々を送るようになってしまった。
「あなたそんなみすぼらしい格好でいられると雰囲気が台無しだわ。早く自分の部屋に戻ってちょうだい」
「っ!」
私は無言で部屋を出る。
「あら、お姉さま。どうしたの?」
しかしその先でも、ニヤニヤと笑みを浮かべたキャロルが私のことを待ち構えていた。
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