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3話
しおりを挟む「は?」
いきなり私が馴れ初めを教えてくれと要求したため、ジョンは一瞬ポカンとした。
「なんでそんなことを知りたいんだ?」
「これから愛しているあなたと離婚するんですもの。それぐらい教えてくれてもいいでしょう? それにあなたが愛している人がどんな人なのか知りたいわ」
私は目尻に浮かべた涙を拭き取る。
もちろん、演技の嘘の涙だ。
ジョンと離婚することなんてちっとも悲しくはない。
しかしジョンはそんな私の演技に騙されて、本気で私がジョンとの離婚を悲しがっていると誤解したようだった。
ジョンは私の気持ちに共感するかのように胸の前で拳を握ると力強く頷いた。
「分かった。ヘレンとの馴れ初めを教えよう」
(なるほど。ヘレンという名前なのね)
「貴族の方なのですか?」
「ああ、彼女は貴族だ。男爵家のグリフィス家の令嬢なんだ」
「まぁ……素敵です」
私はまるで恋物語を聞く乙女のように相槌を打つ。
(貴族のくせに浮気なんて、相手も相当常識知らずね……)
しかし私は心の中でため息をついていた。
貴族の常識では浮気することは世間体を考えると殆どないので、相手は平民だと考えていたのだが、どうやらヘレンと呼ばれた女性は相当の世間知らずらしい。
それか、ジョンとの恋に酔っているのか。
「文通はしていたのですか?」
「もちろんしていたさ。毎日手紙を書いていた。全て私の部屋に保管してあるよ。大切な思い出だからね」
「本当に素敵ですっ!」
私はジョンの言葉に食いついた。
本当に素敵だと思ったからだ。
「お願いです。私にその手紙を見せてくれませんか?」
「それは……」
私の手紙を見せてくれというお願いにジョンは渋った様子を見せた。
プライベートなので見せたくないのだろう。
「私、今まで恋というものを経験したことがないんです。結婚も政略結婚でしたし……恋愛に憧れているんです。夫婦としての最後のお願いを聞いてくれませんか?」
私はジョンに頼む。
すると同じく政略結婚で恋を出来なかったジョンは共感したようで、私のお願いを承諾した。
「分かった。君に見せよう」
そして私はジョンの部屋で何百通もある手紙を見せてもらった。
ペラリ、と手紙を開けるとご丁寧に日付が書かれていて、ジョンへの愛の言葉が綴れていた。
「まるで恋物語を読んでいるみたい……」
私は感嘆の息を漏らしながら手紙を読でいると、ジョンは嬉しそうに笑っていた。
何通か読み終えたところで、私は顔を上げてジョンに頼む。
「何通かお借りして、部屋でじっくりと読んでも構いませんか? こんな素敵な恋文は、ゆっくりと味わって読んでみたいのです」
私が褒め続けたことで上機嫌になっているジョンは軽く頷く。
「ああ、もちろん」
「ありがとうございます」
私はパッと喜んで、十通ほど手紙を借りると「今から読ませていただきますね」とジョンの部屋から退室した。
パタン、と扉が閉まると私はふーっ、と息を吐いた。
(よし、これで証拠は手に入れた)
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