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五十三話
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「話を聞いて欲しいんだ」
城へと辿り着くと城内は騒然としていた。どうやらレアンドル達は城へと突入をしたらしい。敵味方入り乱れ、威風堂々と聳え立つ城はただの戦場と化していた。
物陰を上手く利用し身を隠しながらロランと二人クロヴィスの元へと急いだ。
ベルティーユは団員等が付いて来るのを拒否した。こんな状況故、逆に多人数で行動するのは目立ってしまい危険だと判断したからだ。
そして命懸けで辿り着いた先は、離宮だった。離宮は不気味な程閑散として人の気配すらない。奥へ奥へと進んで行くとロランはある部屋の前で足を止める。そこはかつてベルティーユが人質として六年もの間暮らしていた懐かしい部屋だった。
中に入るとクロヴィスは、何をするでもなく一人窓辺に佇んでいた。彼が徐に振り返った瞬間、ロランは素早く剣を抜きクロヴィスの喉元に剣先を突き付け話を聞く様にと脅した。だが彼は気にも留めない様子で、ロランの後にベルティーユの姿を見つけると歓喜する。
「ベル‼︎ あぁ、やはり戻って来てくれたんだねっ」
相変わらずの彼にこれまでの恐怖が蘇り足が竦みそうになるが、躊躇っている時間はない。
「そこから動くな。兄さん、先ずは話をさせて欲しい」
「ロラン、君まで僕とベルを引き裂こうとするのかい」
虚な顔でロランを睨むが、ロランに引くつもりはない様だ。
「クロヴィス様、私が此処に来たのは貴方に話したい事があるからです。決して貴方の元へ戻って来た訳でありません」
「ベル、意地を張らなくていいんだよ。逃げ出した事ならもう怒ってないから。君さえ帰って来てくれるならそれで全て水に流して忘れて上げる。また二人で愛し合おう」
今この瞬間にも敵味方関係なく命を落としている者達がいるというのに、彼は気にも留めず自分の事ばかりだ。それが腹立たしくて遣る瀬無くて仕方がない。
「クロヴィス様、私の話を聞いて下さい。大事な話です。貴方の大切な妹君ブランシュ王女の死の真相です」
その言葉にクロヴィスの顔から急激に表情が抜け落ちた。まるで硝子玉の様な瞳がベルティーユを凝視する。此方を見ているのにただその瞳には映しているだけに見えた。少し不気味だ。
「……良いよ、聞いてあげる」
窓際の壁に寄り掛かり床にそのまま座り込んだ。顔はあからさまに背ける。そんな彼にベルティーユは落ち着いて丁寧に話し始めた。
もっと喚き散らすかと思ったが、意外にもクロヴィスは落ち着いていた。ベルティーユが話し終えると、ロランが証拠である書簡を手渡す。
「これは沢山ある内のほんの一部に過ぎない。残りは安全な場所に隠してある」
「……」
黙り込み彼は食い入る様に書簡を見続けている。
「それでも兄さんは国王側に付くの? それとも王太子になれたから……死んでしまったブランシュの事なんて、もうどうでもいい?」
「っ‼︎」
態と挑発する様な言葉をロランが吐くと、案の定クロヴィスはその瞬間立ち上がりロランに掴み掛かった。
「僕は別に王太子の地位が欲しかった訳じゃない‼︎ ブランシュが生きてくれていればそれで良かったんだっ!」
「だったら‼︎ やるべき事は分かるだろう⁉︎」
「……父上に楯突くつもりか」
「そうだよ。ブランシュを道具の様に利用して殺した国王を討つしか選択肢はないだろう⁉︎」
まるで子供の様に掴み合い言い争う二人を冷静にベルティーユは見ていた。
「そんな事は、分かっているっ‼︎ でも、これを肯定するなら僕はっ……」
「……」
ロランの衣服を掴み手を振るわせながら、彼はベルティーユに視線を向ける。その顔は今にも泣き出しそうだった。
「僕はっ‼︎」
そのまま力なくその場に崩れ落ちて、俯き身体を振るわせる。
クロヴィスが今、何を思っているのか分かりたくないのに分かってしまうのが苦しくて辛い。
「僕は……信じない」
「兄さん」
「こんな書簡だって偽装した物に違いないっ。ロラン、君だって騙されているんだ‼︎ ブランシュはリヴィエの王に陵辱されてそれで嘆いて自ら命をっ」
「俺も始めは信じられなくて、筆跡の鑑定をした。その後にドニエ侯爵家の使用人を問い詰めたら吐いたんだ。国王の側近が頻繁に屋敷に出入りしていて、その手紙の話をしていたらしいよ。自分の屋敷内だから油断していたんだろうね。それに使用人だけじゃなくて、シーラもそれを聞いている」
その言葉にクロヴィスは諦めた様に大人しくなった。
「クロヴィス様、今は間違いを嘆いている時間はありません。私やロラン様と一緒に来て下さいますよね。そして真実を皆の前で明らかにする事に協力して下さい」
否定も肯定も出来ないでいるクロヴィスを連れベルティーユ達は国王のいる本殿へと向かった。
城へと辿り着くと城内は騒然としていた。どうやらレアンドル達は城へと突入をしたらしい。敵味方入り乱れ、威風堂々と聳え立つ城はただの戦場と化していた。
物陰を上手く利用し身を隠しながらロランと二人クロヴィスの元へと急いだ。
ベルティーユは団員等が付いて来るのを拒否した。こんな状況故、逆に多人数で行動するのは目立ってしまい危険だと判断したからだ。
そして命懸けで辿り着いた先は、離宮だった。離宮は不気味な程閑散として人の気配すらない。奥へ奥へと進んで行くとロランはある部屋の前で足を止める。そこはかつてベルティーユが人質として六年もの間暮らしていた懐かしい部屋だった。
中に入るとクロヴィスは、何をするでもなく一人窓辺に佇んでいた。彼が徐に振り返った瞬間、ロランは素早く剣を抜きクロヴィスの喉元に剣先を突き付け話を聞く様にと脅した。だが彼は気にも留めない様子で、ロランの後にベルティーユの姿を見つけると歓喜する。
「ベル‼︎ あぁ、やはり戻って来てくれたんだねっ」
相変わらずの彼にこれまでの恐怖が蘇り足が竦みそうになるが、躊躇っている時間はない。
「そこから動くな。兄さん、先ずは話をさせて欲しい」
「ロラン、君まで僕とベルを引き裂こうとするのかい」
虚な顔でロランを睨むが、ロランに引くつもりはない様だ。
「クロヴィス様、私が此処に来たのは貴方に話したい事があるからです。決して貴方の元へ戻って来た訳でありません」
「ベル、意地を張らなくていいんだよ。逃げ出した事ならもう怒ってないから。君さえ帰って来てくれるならそれで全て水に流して忘れて上げる。また二人で愛し合おう」
今この瞬間にも敵味方関係なく命を落としている者達がいるというのに、彼は気にも留めず自分の事ばかりだ。それが腹立たしくて遣る瀬無くて仕方がない。
「クロヴィス様、私の話を聞いて下さい。大事な話です。貴方の大切な妹君ブランシュ王女の死の真相です」
その言葉にクロヴィスの顔から急激に表情が抜け落ちた。まるで硝子玉の様な瞳がベルティーユを凝視する。此方を見ているのにただその瞳には映しているだけに見えた。少し不気味だ。
「……良いよ、聞いてあげる」
窓際の壁に寄り掛かり床にそのまま座り込んだ。顔はあからさまに背ける。そんな彼にベルティーユは落ち着いて丁寧に話し始めた。
もっと喚き散らすかと思ったが、意外にもクロヴィスは落ち着いていた。ベルティーユが話し終えると、ロランが証拠である書簡を手渡す。
「これは沢山ある内のほんの一部に過ぎない。残りは安全な場所に隠してある」
「……」
黙り込み彼は食い入る様に書簡を見続けている。
「それでも兄さんは国王側に付くの? それとも王太子になれたから……死んでしまったブランシュの事なんて、もうどうでもいい?」
「っ‼︎」
態と挑発する様な言葉をロランが吐くと、案の定クロヴィスはその瞬間立ち上がりロランに掴み掛かった。
「僕は別に王太子の地位が欲しかった訳じゃない‼︎ ブランシュが生きてくれていればそれで良かったんだっ!」
「だったら‼︎ やるべき事は分かるだろう⁉︎」
「……父上に楯突くつもりか」
「そうだよ。ブランシュを道具の様に利用して殺した国王を討つしか選択肢はないだろう⁉︎」
まるで子供の様に掴み合い言い争う二人を冷静にベルティーユは見ていた。
「そんな事は、分かっているっ‼︎ でも、これを肯定するなら僕はっ……」
「……」
ロランの衣服を掴み手を振るわせながら、彼はベルティーユに視線を向ける。その顔は今にも泣き出しそうだった。
「僕はっ‼︎」
そのまま力なくその場に崩れ落ちて、俯き身体を振るわせる。
クロヴィスが今、何を思っているのか分かりたくないのに分かってしまうのが苦しくて辛い。
「僕は……信じない」
「兄さん」
「こんな書簡だって偽装した物に違いないっ。ロラン、君だって騙されているんだ‼︎ ブランシュはリヴィエの王に陵辱されてそれで嘆いて自ら命をっ」
「俺も始めは信じられなくて、筆跡の鑑定をした。その後にドニエ侯爵家の使用人を問い詰めたら吐いたんだ。国王の側近が頻繁に屋敷に出入りしていて、その手紙の話をしていたらしいよ。自分の屋敷内だから油断していたんだろうね。それに使用人だけじゃなくて、シーラもそれを聞いている」
その言葉にクロヴィスは諦めた様に大人しくなった。
「クロヴィス様、今は間違いを嘆いている時間はありません。私やロラン様と一緒に来て下さいますよね。そして真実を皆の前で明らかにする事に協力して下さい」
否定も肯定も出来ないでいるクロヴィスを連れベルティーユ達は国王のいる本殿へと向かった。
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