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十話
しおりを挟む重たい瞼をゆっくりと開けると、最近では見慣れて来た天井が目に映った。頭の中がまるで靄がかった様にはっきりとしない。
(私……どうしたんだっけ……)
自分でベッドに入った記憶がない。だが何も思い出せない。ベルティーユが頭を悩ませていると、傍らから何かが動く気配を感じた。思わず身体をピクリとさせる。だが横になった状態では何も見えない。仕方なく身体を起こしベッドの左端の下を恐る恐る覗き込んでみた、すると……。
「っ⁉︎」
(王太子殿下⁉︎)
余りに驚いたベルティーユは思わず声を上げそうになるが、慌てて口を手で塞いだ。
直に床に腰を下ろし背をベッドに預け、枕代わりなのか片足を立てそこに腕と頭を乗せていた。
「……」
困惑しながら暫く彼の寝顔を見ていたが、意を決してベルティーユはシーツを掴むとベッドから降り正面に立つと息を呑む。そして起こさない様に静かに彼の身体にシーツを掛けた。
「ん……」
「‼︎」
だが細心の注意を払ったにも関わらず、彼は目を覚ましてしまった。目を開けた彼と確りと目が合い硬直してしまう。
「あぁ起きたのか……気分はどうだ」
「だ、大丈夫、です……」
「そうか、ならいい」
少し気怠そうにしながら簡単に首や肩を解すと立ち上がる。
「あの……」
「侍女を呼んで来る」
問い掛けは無視され彼はさっさと部屋から出て行ってしまった。
(一体何だったのだろう……)
部屋に一人になり、暫くするとヴェラが朝食にと温かいスープを持って来てくれた。ミルクベースのハーブのスープをスプーンで口まで運ぶと優しい味が口の中に広がった。身体に染み込んでいく感覚に、気持ちが落ち着いた。最近はずっと食欲が無かった筈なのに気が付けば皿のスープは全て平らげていた。
「ご馳走様でした」
「今朝は、レアンドル様が此方をお出しする様にと仰られたんですよ」
「え……」
空の皿を下げるヴェラから意外な事を告げられたベルティーユは、思わず声を洩らす。
「レアンドル様は、疲弊されていらっしゃる時には決まって此方のスープをお召し上がりになられるんです。ベルティーユ様が完食されたと知ったら、きっと喜ばれます」
彼の太鼓判という事だろうか……。だが何故自分が完食すると彼が喜ぶのかは不明だが。
「此方はレアンドル様が、お気に入りのハーブティーでございます」
あれから彼とは顔を合わせる事はないが、その日を境にヴェラを通して彼のお勧め品が毎日の様に出された。スープから始まりお茶やお菓子、湯浴み用の精油、お香……どれも食したり使用すると気持ちが落ち着くものばかりだ。特にお香は嬉しかった。ブルマリアスではお香の文化がないらしく話題にも上る事はなかった。リヴィエでは物心ついた頃から当たり前に使っていた。寝る前などによく炊いて貰った事を覚えている。
「良い香り……それに、懐かしい」
忘れていた訳ではないが、暫く考える事を放棄していた。リヴィエとブルマリアスは、あれからどうなったのだろうか……。ベルティーユの所にはまるで情報が入ってこない。身の回りをしてくれているヴェラとも余計な雑談はしない。それに聞いた所で、使用人の彼女は知らないと思う。
(私はこれからどうすればいいのかな……)
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