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第六話 指輪

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「もう遅いから、続きは明日になってからね」

リリーも少し眠そうにしている。

もっと話は聞きたかったし、肉の備蓄もあるとのことで、そちらも興味深かったのだが、もう深夜なので、どちらも諦めることにした。

2人が帰る前に、ゴメちゃんに、山で驚かせてしまったことを謝ると、

「私ノコトハ、ゴメス・アウレリウス・サントン、ト、呼ブガイイ」

と言われた。

彼の本名なのか冗談なのかはわからないが、少し仲良くなれた気がする。

なにしろ、初めて返事をもらえたのだ。

流石に呼ぶには長いので、敬意も込めて、ゴメスさんと呼ぶことにしよう。

トラックにはねられるところから、なかなかに長い1日だった。



次の日は、子鳥達の声と共に目が覚めた。

体だけおこし、背伸びをする。

昨日食べ過ぎたため少し胃はもたれるが、疑いようのない素敵な朝だ。

居候の身ではあるのだが、とてもいい世界に転生してきたと思った。

早くリリーの話の続きを聞きたい。

下の階に降りると、パンの調理工房だった。奥にパン売り場も見える。

炊飯器もといゴメスさんがこちらに気づき、手(4本足のうちの1本)を上げ、おいでおいでのポーズをしている。

ついていくと、隣のリビングに誘導してくれた。

1階は、パン売り場、工房、リビングになっているようだ。 俺が住んでいた家と比べると、かなり広い家である。

朝食は、柔らかそうなパンに、厚切りの豚肉と、レタスを挟んだものだった。

焼いた豚肉と香辛料のいい匂いがする。

腹が減ってきた。

リリーはまだいないようで、ゴメスさんが調理準備をしている。

「おはよう~」

リリーがおきてきた。
寝ぼけ顔が朝日にてらされ輝いて見える。

3人が揃ったので、朝食が始まった。

リリーの両親は、街(王都といっていた)に出ていて今はいないそうだ。


こちらの文化でも食べるまえに「いただきます」と言ったが、

両手を合わせるのではなく、指を組み合わせて少したってからのセリフだったので、別の言葉が翻訳されている
だけかもしれない。

神(翻訳者)も翻訳大変なんだろうな。 そもそも神の概念が文化ごとに違ったりするしな。
もしかすると、各人の文化的背景・素養に応じた翻訳がなされているのかもしれない。

リリーの指にも、自分の指輪と似た指輪をついていることに気づいた。

何か、文化的背景や、この世界での自分の出自がわかるものなのかもしれない。


すぐに、指輪のことを聞こうかと思ったが、せっかくいただきますをしたので、

まずは目の前の豚肉レタスサンドをいただく。

肉汁がすごい出てくる。旨い。

野菜とマスタードが適度に豚の油を中和しているので、どんどん食べられる。

大きな豚肉サンドだったが、あっという間に食べ終わってしまった。


リリーを見ると、2つ目のサンドイッチを食べようとしていたところだった。

もう一つ食べる?とジェスチャーで聞かれたが、もう満腹だったので、遠慮しておいた。

「この猪肉はゴメちゃんがとってきてくれたのよ。 畑荒らしする獣をゴメちゃんが退治してくれているの。」

リリーがサンドをもぐもぐしながら教えてくれた。

ゴメスさん、料理に狩猟と、なかなかの高性能っぷりである。


リリーが2つ目のサンドイッチを飲み込みながら、

「ゴメちゃんは、大切な家族なの。 そう、大切な家族なの。」

美味しそうにサンドを食べていたリリーだったが、
この話をし終わるときには、少し悲しそうな顔になっていた。

慰めたいのだが、何に悲しんでいるのかがわからない。

少し表情を直して、リリーは、

「指輪、少し見せてくれる?」

と俺に向かって言った。

リリーに言われるがままに、指輪外して渡そうとしたが、キツくて外れない。

早く力を入れようと思いっきり力をこめたところで、


「そのままでいいわ。 指に着けたまま見せて。」

少しリリーは笑っていて、俺は安心した。


手をリリーの方に差し出す。

手に取ってまじまじと見つめられている。

手が少し温かい。

髪をかき上げ、俺の手を集中して見ている。

ブラウンの長い髪が、かき上げた反対側から、自分の腕にさらさらとあたる。

くすぐったくはない。

ネコの毛でなでられているような気持ち良さだ。


こちらを見られていないので、リリーをまじまじと見ることができた。

青いイヤリングをつけた耳が、とても綺麗だった。



「やっぱりね。 あなたの役割は、この指輪から読み取れたの。」

こちらに目を向け、手を離した。

これから俺の役割を解説してくれるようだ。

俺のこの世界での話はそれはそれでワクワクするのだが、別に手を握ったままでもかまわないのに。
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