転んでもタダでは起きないシンデレラ

夕景あき

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ネズッチ視点~ネーミングセンス!~

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  魔法使いのオッサンは、ドSだと思う。
 
 舞踏会の翌日、ネズミの姿でシンデレラの部屋に行く前に、魔法使いからシンデレラの事情を聞かされた。
 来週には娼館に売り飛ばされる予定になっているという。そんな状況では、逃れるために王子の嫁になることを選ぶのは当然だ。
 童話の中のシンデレラも現状を抜け出すために、王子を選ばざるを得なかったのではないか·····。

 俺は一生ネズミとして生きていくのか。
 そう観念しながら、20時にいつもの様に転送魔法で飛ばされた。

 ただでさえ望みはないのに、魔法使いはシンデレラに追い打ちをかける。

「まさか得体の知れないネズミの方を選んだりしないよな?70歳の爺さんかもしれねぇし、全身麻痺の植物状態の人間かもしれねぇ·····もしかしたら犯罪者かもしれねぇぞ?」

 「違う!俺はそんな存在じゃねぇ!」そう言いたいのに、口から声が出ないで俺は口をパクパクさせた。

 そんな事を言われて、ネズミを選ぶわけがねぇ·····俺は絶望して、俯いた。
 俺の心は、シンデレラに人の姿でもう二度と触れられないという事に一番絶望していた。

 そんなネズミの俺の手を、シンデレラはとってくれた。
 正直、信じられなかった。

 でも、シンデレラは何度も好きだと言ってくれた。
 俺の目から、勝手に涙が流れた。

 シンデレラの言葉が終わると共に屋根裏部屋はピンク色の眩い光に包まれた。光がおさまるとシンデレラと俺は王城の広間に転送されていた。そして、俺の姿はネズミから王子の姿に変わっていた。

 俺は感情のままに、シンデレラを抱きしめるとビックリするほど華奢だった。
 シンデレラは顔を赤くして驚いた顔で俺を見上げ、掠れた声で言った。

「えっと·····ネズッチさんの正体は王子様だったって事ですか?·····でも、ネズッチさんは『いけ好かない王子』って言ってましたよね?それに舞踏会で出会った時とお人柄がだいぶ違うような·····」

「ああ、俺の名前は『イケスカナイ』なんだよ。笑っちまうだろ。舞踏会では嫌われるように頑張って無愛想キャラ作ってたんだ。でも、シンデレラが笑わせてくるから、めっちゃ耐えるの大変だったんだよ」

 その時、広間の奥から国王と侍女長と魔法使いが現れた。俺は慌ててシンデレラを抱きしめていた手を離した。侍女長を見て、シンデレラが呟いた。

「あ、あの人は·····」

 侍女長はいつもの厳しい表情を崩して、シンデレラに笑いかけた。

「シンデレラちゃん、この前はおぶってくれて有難うね。実はアレは婚約者選別のテストだったのよ。声掛けてくれるだけで合格だったんだけど·····まさか、『ここでドレスを脱いで筋肉自慢を始められたくなければ背中に乗るんだ』って迫られるとはね!あなた最高よ!」

 侍女長はケラケラ笑い、魔法使いのオッサンも満足気に頷いている。

「俺も、嬢ちゃん気に入ったぜ。足腰もしっかりしてるし、根性もある。さっきもてっきり辛くて泣き伏しているかと思ったら、部屋で竹箒を素振りしてるんだもんな!ガハハ」

 国王も温かい表情で頷いた。

「シンデレラ嬢、皆の報告からこの国の王妃に君ほど相応しい人はいないとワシも思う。何より息子が選んだ相手だ。感染対策に興味があると聞いておる。好きなだけ学ぶが良い。そして、ぜひ王子と共に議会に参加して、国を変えていって欲しい」

「勿体ないお言葉でございます。有難うございます」

 シンデレラは少し呆然とした様子で、そう言って国王に頭を下げると俺の方に振り返った。
 そうして顔を見合わせた俺達は、ふにゃりと笑いあった。
 魔法使いのオッサンは少し意地の悪い顔で、シンデレラに話しかけた。
 
「シンデレラ、お前の義母と義姉はどうする?
目には目を歯には歯をで、3人とも娼館に売り飛ばすか?」

 シンデレラは困ったように眉根を下げながら、それに返した。

「義母の教えだけを受けて、学ぶ機会がなかったら、私も義姉たちの様な性格になっていたかも知れません。彼女たちに学ぶ機会を与えたいのです。義母も学ぶ機会があれば変わるかもしれません·····」

そう言った彼女の慈悲深さを、俺は愛しく思った。
 その話を聞いて、侍女長が名乗りを上げた。

「シンデレラの義母と義姉は、私の屋敷の使用人として雇って鍛え直してやろう。自分のドレス代くらい自分で稼げるようになれってんだ。大丈夫。私の説教は学びが多いと、評判なんだよ」

侍女長のその言葉に、俺は内心で「侍女長の説教は長くて面倒で評判というのが正しいけどな」と反論した。もちろん口には出さない。
 俺も侍女長に説教された事があるが、失敗した理由を「なぜそうしたのか」と10回以上問われ続け、彼女を納得させる迄ひたすら内省を続けなくてはならないので、本当に疲れるのだ。
 シンデレラの義母や義姉もなかなか強情そうだが、侍女長には叶わないだろう。なんたって、何十人もの厄介なご令嬢方を、立派な侍女にまで教育してきた実績があるのだ。

 俺はこの機会に、そもそも娼館という存在をなくす方向に、国としても整備したいと思い国王に提案してみた。

 シンデレラは、侍女長と義母や義姉達の人柄などの引き継ぎをしている。

 国王と話し終えた俺は、シンデレラはまだ侍女長と話し込んでいたので、魔法使いのオッサンに話しかけた。

「そう言えば·····どうやってはじめ、シンデレラに目星をつけたんだ」

 魔法使いは自分のスキンヘッドをペシペシ片手で叩きながら言った。

「そりゃ、この国で1番の女性だ」

「そうか。確かにシンデレラは、この国で1番心の美しい女性だな」

 俺の回答に、魔法使いは黒い笑いをしながら否定した。

「いや、そんなつまらねぇ選択基準じゃねぇ。王子の婚約者選別の俺の基準は、この国で1番面白いネーミングセンスの女性だ」


「まさかのネーミングセンスっ!!!」

 俺のツッコミは、王城中に響いたのだった。
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