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バラ園での女子トーク

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 ダンスパーティの当日の流れは、午前中が授業、午後はダンスの準備、夕方からパーティ開始という形だった。

 午前の授業が終わり、ミカが教科書を片付けていると、ジュリア・フォックスが近くに寄ってきた。
 ジュリアは周りを見回し、誰も見てないのを確認してから、ミカに『バラ園に13時頃、来てください』という手紙をスっと渡した。
 ジュリアは誰にもバレたくないようで、ミカが受け取ると何事もなかったかのように、すぐ立ち去った。

(ジュリアが私に何の用だろう·····まさか、昨夜クロードと踊ってたのがバレて文句言われるとか!?)

 ミカは不思議に思いながら、約束の時間にバラ園へ行くと、ジュリアがそわそわしながら待っていた。

「ミカエル!待ってたわよ。あなた、今日のダンスパーティはナンシーと踊るんですって?」

「あ、うん。踊る相手いない人いる?ってみんなに聞いたら、ナンシーがそうだって言うから、パートナーをお願いしたんだ。」

「ナンシー喜んでたわ。·····ナンシーから聞いたんだけど、あなたに相談すると悩み事が解決するらしいじゃない?」

「うーん。解決するかは分からないけど·····悩み事があるなら聞くよ?」

「誰にも言わないでくれる?」

「うん。守秘義務は守るよ」

 ジュリアはもじもじと、身をくねらせながら言った。

「キースから愛されるにはどうしたらいいか、教えてちょうだい!」

「へ!?キース?·····クロードではなくて?」

「クロード様は別に·····まぁ、王妃の座に憧れはあるけど·····なんか冷酷そうだし、そんなに好きじゃないわ。」

「えー!?じゃあ、なんでクロードを操ってダンスの申し込みなんてさせたの?」

「そりゃ、キースを嫉妬させて、ダンスを申し込んで貰うためよ·····なのに、キースったら『好きにしたらいい』なんて言うし!その上、キースときたら、イザベラなんかにダンスの申し込みしたのよ!もう、私どうしたらいいか分からなくて·····」

 ジュリアは息を荒くして喋りおえると、がっくし肩を落として白いベンチに座った。
 ミカはジュリアの横に座り、優しく語りかけた。

「ジュリアはキースの事が、本当に好きなんだね。だから、色々と戦略を考えてたんだね。」

「そうなのよ。ミカエルはわかってくれるのね!この胸元が開いた服だって、私の趣味ではないんだけど、兄が『男性をオトすなら露出することだ!』って言うもんだから、頑張って着てるのに、キースは全然反応してくれないし·····」

「その格好はお兄さんのアドバイスだったのか·····うーん。人により好みがあるからなぁ·····まぁ、『男は目で恋をして、女は耳で恋に落ちる』って言うから方向性は、あながち間違ってないとは思うけど····」

「そんな言葉があるのね!耳で恋に落ちるって分かるわー!!キースのあの落ち着いた低音の喋り方、大好きなのよ!」

「そうなんだね。」
(私も分かるなぁ。クロードの静かな声を聞くと、心が満たされる様に感じるもん·····)

「あとはねー!キースのあんな真面目で冷たそうに見えて、使獣のフェレットにめっちゃ優しい所も、超ギャップ萌えする!!」

(ギャップ萌え分かるなぁ!クロードの冷酷そうに見えて、ヘタレな所とか、かと思えば有能な所とか、それでいて優しい所とか、新しい一面を知る度にどんどん好きになるもんなぁ·····)

 ミカは内心激しく同意しつつも、ジュリアの話に冷静に返した。

「ジュリアはキースが本当に大好きなんだね。キースには気持ちを伝えたの?」

「伝えてないわ·····兄に『男は追いかけたい生き物だから、女に追いかけられたら興味を失う』って言われて····」

「ジュリアは、お兄さんのアドバイスを忠実に従ってるんだね。」

「そうよ。·····でも、待ってるばかりだと何も接点なくなるから·····頑張ってキースを授業後に散歩に誘ってみたりするんだけど、いつも『用事があるから』って断られるから·····私、もう嫌われてるんだと思う·····」

 ジュリアは思い溢れて、シクシクと泣き出してしまった。
 ミカはポンポンと、ジュリアの頭を撫でながら言った。

「そっかぁ。大好きな人に好きになってもらいたくて頑張ってるのに、報われないって本当に悲しいよね。·····分かるよ。·····でも、もしかしたらキースは本当に用事があるのかもよ?」

「うぅ。ま、毎日、授業後にすぐ姿を消すから·····た、たぶん他の女性に会ってるんだと思う·····」

「たぶんキースは、授業後にハンナに会いに行ってるんじゃないかな?」

「ハンナ!?やっぱり女がいたのね!」

「女性は女性だけど·····ハンナは、まだ2歳半のキースの妹さんの事だよ。」

「あ·····そう言えば会ったことあるかも·····キース毎日、妹に会いに帰ってたのね·····なにそれ人として素晴らしすぎるんですけど·····」

「ジュリアは本当に、キースが大好きなんだね。2人に上手くいって欲しいなぁ。何とかならないかな·····今日、ダンスパーティの時にキースに、ジュリアへの気持ちをそれとなく聞いてみようか?」

「ええ!?·····お、お願いしたい!·····けど怖い!·····もし嫌われてたら死ぬ!」

「大丈夫。キースはジュリアのこと、嫌いではないと思うよ。勘だけど。·····ジュリアと話せて良かった。こんなに一途で可愛い子だったんだね!」

「そ、そんな事、言われたら、ちょっと心が揺らぐからやめて!私はキースのみ、好きでいたいのよ!·····ナンシーの言った通りね。ミカエルに相談して良かったわ!じゃあ、私はそろそろダンスパーティの準備に行くわね!この泣きはらした目を冷やさなきゃ!ミカエル、ありがとう!」

 ジュリアとミカは、笑顔で別れたのだった。
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