この世界に終わりを告げて

八瀬蛍

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13.Time to approach

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「浪谷、昼休みだけどご飯食べる?」

「あ、はい。」

「んじゃあ俺も一緒に食べるかな。」

 保健室で日中を過ごすようになってから2日目。
 教室で過ごすのと違うところはクラスメイトや先生がいないことくらいで特に差し支えはなかった。それどころか、あの空間に疲れきっていた俺からすれば最高の空間と言っても過言ではない。

「どう、保健室慣れた? って言ってもまだ2日だけど」

「……はい、すごく楽で良いです。」

「それなら良かった。」

 先生は笑顔で頷く。


「昨日、市川にあったよ。」

 市川、その言葉を聞いた瞬間ドクンと心臓がはねたのがわかる。

 彼にも何も言わずこの場にいること、それを負い目のように感じている自覚はあった。
 だけど、だからといって「保健室にいます」なんて言う気は毛頭なかった。

「浪谷のこと知りませんか? って聞かれたよ。」

「……なんて、答えたんですか?」

「君が誰にも言って欲しくないって言うから『知らない』とだけ。言ってもいいなら伝えるけど。」

「いや、言わなくていいです。」

 先生はやっぱり余り納得していないような表情を見せながらもそっか、とだけ呟いて握っていた箸を動かし出した。

 そのまま追求しないで欲しい。助言も要らない。そっとしておいて、それだけが俺の願い。




「あれ、もう終わり?」

 のぞき込まれた弁当箱は確かに蓋をするには少し早い。
 それもそのはず最近、以前よりも食欲が落ちたように感じていた。どうにか弁当は完食できていたのに、それが厳しい。

「……あまり、食欲がなくて。」

「大丈夫なの?」

「……分かりません、けど明後日が定期検診なので。」

「そっ、か。じゃあちゃんと検査してもらうんだな。」

 着実に近づく死にどこか冷静な自分がいて。
 動けなくなるのは面倒だから嫌だな、とかそんなことは思うのに『死にたくない』そう強く願う自分はいない。




 それからまたしばらく時間が過ぎて授業時間の終わりを告げるチャイムが響く。
 紀伊先生にじゃあまた明日、と送り出され帰路に着いた。何気ない平凡な毎日だ。


 家に帰ってぎこちない母と食卓を囲み、不意に母からも食事量を指摘されるものの「食欲がない」とだけ告げればまた表情を曇らせる。
 いい加減やめて欲しい。だから嫌なんだ。






 次の日も同じような生活を送って、定期検診の日はすぐに訪れた。

「やはり病気の進行が進んでますね……余命は変わらないと思ってもらっていた方がいいです。」

 ああそうですか、なんて他人行儀な返事をしそうになる。

 自分の生死に興味が無いと言ったら嘘になる。だけど、抗えるものでもないことがわかっている以上、自分ではない誰かの話を聞いているように感じるのは間違っていない気がする。

「まだ学校には毎日行けていますか?」

「はい。」

「そうですか。」

学校には毎日登校、などと言ったことをそのまま先生はパソコンで打ち込んでいく。
まるで物語だ。

「ご飯は? どのくらい食べられますか?」

「このくらいの弁当箱を食べきれないくらいです。」

 手で普段使っている弁当箱のサイズを表す。
 部活をしていた時はこの弁当箱の倍くらい入る勢いだったのになぁ、なんて病院に来ると妙に時の流れを感じてしまう。

 そのまま一通り普段の行動を聞かれて、意味があるのかは知らないが普段から飲んでいる薬を同じように出され帰路に着いた。

病院は妙に疲れる。
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