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12.I give up
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俺の予想は案の定、昼休みに当たることになった。
「あの、浪谷くん。昨日は…っていうかずっと、ごめんね。無神経なことして。それに、君が倒れた瞬間を私が見てたこと気にしてるんだよね。」
高早さんに昼休みちょっといいかな、と声をかけられ階段の踊り場まで連れ出された。
幸い俺が出ていく時、クラスの人達に好奇の目を向けられることは無かったので安心したが、誰か階段を利用する人間がいればこんな場所で立ち止まっているのは目立つだろう。
そんなことを考えながら高早さんの話を聞いていた。
なるべく早く切り上げよう、そう決めて。
「それは本当に信じて欲しいんだけど、その時のこと浪谷くんが誰にも言わないで欲しいのであれば絶対に言わない。約束する。」
「……そんな約束、すぐ破れるだろ。だからもう関わらないでほしい、頼むから。」
「どうして? このまま私以外も……拓間くん以外とは全員距離をとって一年間終えるの? そんなの、勿体ないよ! 人生一度きりなんだよ。」
『勿体ない』『人生一度きり』
またその言葉。
お前に俺の何がわかる、彼女がもしも男であったらそう怒鳴り散らかして胸元でも掴んでいただろう。
だけど、流石にそこまで理性は飛んでおらず俺は静かに口を開くだけに留めた。
「そうだ、そのまま終わる。人生の使い方が勿体ないかどうかなんて他人に決められることじゃない。……じゃあな。」
高早さんに背を向けた瞬間、抑えた感情が再び溢れそうになって唇を噛む。
口の中にじんわりと血の味が滲んでいく。
なんで彼女はこうも自分の心を掻き乱すのか。
なんで彼女は俺に構うのか。
なんで彼女は自分の正論が他人の正論だと思っているのか。
ーーどうして自分はその正論に当てはまらないのか。
やはり学校に来るべきではなかった。
その思いが確信に変わった瞬間だった。
例え母親と長い時間を同じ家で過ごすことになっても、距離感ゼロの学校の中でズカズカと他人に自分の中を踏み回されるよりマシだ。
教室に戻ることもやめ、そのまま俺は昼休みで賑やかなの学校を独り静かに歩き回った。
「お、浪谷。良かった、学校来てたんだな。」
ふと声をかけられて振り向くとそこには昨日同様心配そうな表情を浮かべた紀伊先生がいた。
「はい、まあ……。でももうやっぱり明日から来ないことにしました。」
「なんで? 体調が優れないの?」
「いえ体調は別に……。……でも、その、もう嫌で。」
紀伊先生の瞳をちらりと覗くと『誰にも言わないのが辛くなった?』とでも聞きたげな表情をしている。
もしここでクラス全員にこの事情を伝えてしまえば、もう深く関わってくる人間はこの一年いなくなるだろう。
だけど常に「この一年が最期」の人間がいる妙な重みがかかる。仮に自分があちら側ならばそんなのは断固ごめんだ。
「浪谷がここで自分を犠牲にする必要は絶対にない。どうしても来たくないって言うならせめて保健室においでよ。」
「は……? 何言ってるんですか。」
「別におかしいことじゃないでしょ、保健室登校っていう言葉もあるくらいだし。まあうちの学校でそれをやってる奴はいないけど。」
いやもちろんそういう制度的なものがあること自体は知っていた。だけどそれを高早さん含めクラスメイトに会いたくないから利用するという理由如きで出来るものだとは思っていなかった。
「どうかな? 保健室でも無理?」
「いや、別に学校自体に問題がある訳では無いので保健室は問題ないです……でも、」
「大丈夫、全然使ってもらって構わない。ここにいることは秘密にして欲しいって言うなら俺も誰にも……あーさすがに君の担任には言うけど、他の人には言わない。」
そこまで言われると抵抗の余地はない。
俺は分かりました、と渋々頷くとその日はそのまま早退という形で紀伊先生に鞄も取ってもらい帰宅することになった。
明日からまたイレギュラーな生活が再スタートする予感がする。なるべく平和に、なるべく何事もないように。
その願いが百パーセント叶わないことは願った時点で本当は分かっていたのかもしれない。
「あの、浪谷くん。昨日は…っていうかずっと、ごめんね。無神経なことして。それに、君が倒れた瞬間を私が見てたこと気にしてるんだよね。」
高早さんに昼休みちょっといいかな、と声をかけられ階段の踊り場まで連れ出された。
幸い俺が出ていく時、クラスの人達に好奇の目を向けられることは無かったので安心したが、誰か階段を利用する人間がいればこんな場所で立ち止まっているのは目立つだろう。
そんなことを考えながら高早さんの話を聞いていた。
なるべく早く切り上げよう、そう決めて。
「それは本当に信じて欲しいんだけど、その時のこと浪谷くんが誰にも言わないで欲しいのであれば絶対に言わない。約束する。」
「……そんな約束、すぐ破れるだろ。だからもう関わらないでほしい、頼むから。」
「どうして? このまま私以外も……拓間くん以外とは全員距離をとって一年間終えるの? そんなの、勿体ないよ! 人生一度きりなんだよ。」
『勿体ない』『人生一度きり』
またその言葉。
お前に俺の何がわかる、彼女がもしも男であったらそう怒鳴り散らかして胸元でも掴んでいただろう。
だけど、流石にそこまで理性は飛んでおらず俺は静かに口を開くだけに留めた。
「そうだ、そのまま終わる。人生の使い方が勿体ないかどうかなんて他人に決められることじゃない。……じゃあな。」
高早さんに背を向けた瞬間、抑えた感情が再び溢れそうになって唇を噛む。
口の中にじんわりと血の味が滲んでいく。
なんで彼女はこうも自分の心を掻き乱すのか。
なんで彼女は俺に構うのか。
なんで彼女は自分の正論が他人の正論だと思っているのか。
ーーどうして自分はその正論に当てはまらないのか。
やはり学校に来るべきではなかった。
その思いが確信に変わった瞬間だった。
例え母親と長い時間を同じ家で過ごすことになっても、距離感ゼロの学校の中でズカズカと他人に自分の中を踏み回されるよりマシだ。
教室に戻ることもやめ、そのまま俺は昼休みで賑やかなの学校を独り静かに歩き回った。
「お、浪谷。良かった、学校来てたんだな。」
ふと声をかけられて振り向くとそこには昨日同様心配そうな表情を浮かべた紀伊先生がいた。
「はい、まあ……。でももうやっぱり明日から来ないことにしました。」
「なんで? 体調が優れないの?」
「いえ体調は別に……。……でも、その、もう嫌で。」
紀伊先生の瞳をちらりと覗くと『誰にも言わないのが辛くなった?』とでも聞きたげな表情をしている。
もしここでクラス全員にこの事情を伝えてしまえば、もう深く関わってくる人間はこの一年いなくなるだろう。
だけど常に「この一年が最期」の人間がいる妙な重みがかかる。仮に自分があちら側ならばそんなのは断固ごめんだ。
「浪谷がここで自分を犠牲にする必要は絶対にない。どうしても来たくないって言うならせめて保健室においでよ。」
「は……? 何言ってるんですか。」
「別におかしいことじゃないでしょ、保健室登校っていう言葉もあるくらいだし。まあうちの学校でそれをやってる奴はいないけど。」
いやもちろんそういう制度的なものがあること自体は知っていた。だけどそれを高早さん含めクラスメイトに会いたくないから利用するという理由如きで出来るものだとは思っていなかった。
「どうかな? 保健室でも無理?」
「いや、別に学校自体に問題がある訳では無いので保健室は問題ないです……でも、」
「大丈夫、全然使ってもらって構わない。ここにいることは秘密にして欲しいって言うなら俺も誰にも……あーさすがに君の担任には言うけど、他の人には言わない。」
そこまで言われると抵抗の余地はない。
俺は分かりました、と渋々頷くとその日はそのまま早退という形で紀伊先生に鞄も取ってもらい帰宅することになった。
明日からまたイレギュラーな生活が再スタートする予感がする。なるべく平和に、なるべく何事もないように。
その願いが百パーセント叶わないことは願った時点で本当は分かっていたのかもしれない。
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