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9.When a person died
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一方的に別れを告げた後、俺は二人を撒いて保健室に向かった。
撒いたといっても二人に時間がないタイミングで言ったので、俺が走り去れば彼らが自分を見つけられる時間を余していないことは分かっていた。
そして保健室に向かったのは定期検診という名目で紀伊先生に呼ばれている日だったからだ。
「二年浪谷です。」
中の見えない保健室のドアを二度ノックして中からの返事を待つ。
「あ、浪谷か。どうぞ、入って。」
その合図で入室し、いつものように保健室の端の方に位置するソファに腰掛ける。
「調子はどう? 学校に来れないほどしんどくはない?」
「それは大丈夫です。割と普通に登校できてます。」
「そっか、それは良かった。……ああ、そういえば最近高早さんと仲がいいんだって? 驚いたよ、新しく友達を作る気はないって言ってたから。」
またそいつの名前か。と心の中でひっそりとため息をつく。
「仲良いわけないです、どこ情報ですか……?」
「本人情報だよ。この間保健委員の用事でここにきた時に言ってたんだ。『この間倒れてここにきた浪谷環太くんと最近仲がいいんですー』ってさ。」
彼女の仲のいいの基準がわからない。明らかに俺の嫌な様子は態度から見てとれただろうし、仲の良かったのは拓間の方だけではないのかと思う。
「なぁんか不服そうだね。」
「……先生あの市川拓間って覚えてますか? 俺と仲がいい。」
「ああ勿論、君が自分の現状を言うか言わないかで僕と軽く争いになった子だろう?」
ははっと先生は笑い話風に言うが、全然笑い話ではないし先生もまだ俺を説得させたいように見える。
「そうです。あいつと高早さんが仲良くなったんです……。だから必然的に俺とも一緒にいるようになっちゃって。でも正直嫌で、だからさっきもう一緒にいるのは勘弁だって伝えてきました。」
「君の信念も固いね。……まあ当たり前か。彼女の何が嫌だったの?」
「……彼女自身のことで言えば言動が基本的に嫌で、それに俺が一度倒れたところを見ているから余計その言動に自分が脅えていることも嫌です。……あとは、彼女が自分たちの近くにいることで周りの目がこっちに向くのも嫌だ。」
「ふぅん……なるほどね。」
先生は少し考えるような仕草をしてから慎重に言葉をつむぎ始めた。
きっと俺に対する配慮を十二分にしてくれているのだろう。勿論きっとその思考で変な地雷を踏んでくることは無くなるだろうけど、だけど、その遠慮も正直居心地が悪い。
だから嫌なんだ。人にこの現状を知られるのが。
「彼女すごく君と仲良くしたがってたんだ。それこそ君が倒れた後に申し訳ないことをしたって凄く落ち込んでいたし。まあ勿論君が嫌なことを我慢しろなんて言うのは、例えこの1年が最期じゃなかったとしても言う気は無い。だけど、彼女の一年も彼女の人生の中で一度しか訪れない一年なんだよ。だから高早さんは必死に後悔しないように生きてる。人生をのうのうと生きてるただの保健室の教員になにが分かるんだって思うかもしれないけど……。」
先生はそこで一度言葉を切る。
だけど俺には大体次に紡がれる言葉など予想がついていた。
「だけど本当に君はそれで後悔しないの? そのまま高早さんも市川も自分から離して一年を終えて本当にいいの? もちろんその他のクラスメイトもだ。これで終わりで、本当にいいのか?」
煩い。先生に何がわかるんだ。
そう言い返してやりたかった。だって、何がわかるって言うんだ。
一年で確実に終わりを迎えるのに、自分の記憶にも他人の記憶にも"浪谷環太"という存在がいた事を残して何になるっていうんだ。
自分だって、他人だって楽しい思いはしない。
それに死ぬ人間と深く関わってしまえばその不快感は喪失感や絶望感へと変化してしまう。
人が死ぬって、いなくなるっていうのはそういう事だ。
理屈じゃどうしようも出来ない。気持ちの問題だから。
「俺もう、学校来るの辞めようかな。」
ふと口からこぼれたその言葉に先生の瞳孔が大きく開くのが見えた。
だけどそんな先生の態度とは裏腹に、その行動を選択した自分の未来に悪天候が訪れない気がしてならないのだ。
撒いたといっても二人に時間がないタイミングで言ったので、俺が走り去れば彼らが自分を見つけられる時間を余していないことは分かっていた。
そして保健室に向かったのは定期検診という名目で紀伊先生に呼ばれている日だったからだ。
「二年浪谷です。」
中の見えない保健室のドアを二度ノックして中からの返事を待つ。
「あ、浪谷か。どうぞ、入って。」
その合図で入室し、いつものように保健室の端の方に位置するソファに腰掛ける。
「調子はどう? 学校に来れないほどしんどくはない?」
「それは大丈夫です。割と普通に登校できてます。」
「そっか、それは良かった。……ああ、そういえば最近高早さんと仲がいいんだって? 驚いたよ、新しく友達を作る気はないって言ってたから。」
またそいつの名前か。と心の中でひっそりとため息をつく。
「仲良いわけないです、どこ情報ですか……?」
「本人情報だよ。この間保健委員の用事でここにきた時に言ってたんだ。『この間倒れてここにきた浪谷環太くんと最近仲がいいんですー』ってさ。」
彼女の仲のいいの基準がわからない。明らかに俺の嫌な様子は態度から見てとれただろうし、仲の良かったのは拓間の方だけではないのかと思う。
「なぁんか不服そうだね。」
「……先生あの市川拓間って覚えてますか? 俺と仲がいい。」
「ああ勿論、君が自分の現状を言うか言わないかで僕と軽く争いになった子だろう?」
ははっと先生は笑い話風に言うが、全然笑い話ではないし先生もまだ俺を説得させたいように見える。
「そうです。あいつと高早さんが仲良くなったんです……。だから必然的に俺とも一緒にいるようになっちゃって。でも正直嫌で、だからさっきもう一緒にいるのは勘弁だって伝えてきました。」
「君の信念も固いね。……まあ当たり前か。彼女の何が嫌だったの?」
「……彼女自身のことで言えば言動が基本的に嫌で、それに俺が一度倒れたところを見ているから余計その言動に自分が脅えていることも嫌です。……あとは、彼女が自分たちの近くにいることで周りの目がこっちに向くのも嫌だ。」
「ふぅん……なるほどね。」
先生は少し考えるような仕草をしてから慎重に言葉をつむぎ始めた。
きっと俺に対する配慮を十二分にしてくれているのだろう。勿論きっとその思考で変な地雷を踏んでくることは無くなるだろうけど、だけど、その遠慮も正直居心地が悪い。
だから嫌なんだ。人にこの現状を知られるのが。
「彼女すごく君と仲良くしたがってたんだ。それこそ君が倒れた後に申し訳ないことをしたって凄く落ち込んでいたし。まあ勿論君が嫌なことを我慢しろなんて言うのは、例えこの1年が最期じゃなかったとしても言う気は無い。だけど、彼女の一年も彼女の人生の中で一度しか訪れない一年なんだよ。だから高早さんは必死に後悔しないように生きてる。人生をのうのうと生きてるただの保健室の教員になにが分かるんだって思うかもしれないけど……。」
先生はそこで一度言葉を切る。
だけど俺には大体次に紡がれる言葉など予想がついていた。
「だけど本当に君はそれで後悔しないの? そのまま高早さんも市川も自分から離して一年を終えて本当にいいの? もちろんその他のクラスメイトもだ。これで終わりで、本当にいいのか?」
煩い。先生に何がわかるんだ。
そう言い返してやりたかった。だって、何がわかるって言うんだ。
一年で確実に終わりを迎えるのに、自分の記憶にも他人の記憶にも"浪谷環太"という存在がいた事を残して何になるっていうんだ。
自分だって、他人だって楽しい思いはしない。
それに死ぬ人間と深く関わってしまえばその不快感は喪失感や絶望感へと変化してしまう。
人が死ぬって、いなくなるっていうのはそういう事だ。
理屈じゃどうしようも出来ない。気持ちの問題だから。
「俺もう、学校来るの辞めようかな。」
ふと口からこぼれたその言葉に先生の瞳孔が大きく開くのが見えた。
だけどそんな先生の態度とは裏腹に、その行動を選択した自分の未来に悪天候が訪れない気がしてならないのだ。
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