少女密猟特区ヤルンヴィド

少女は狼の夢で踊る

少女は狼の夢で踊る プロローグ

美しいヒトがいた。

ビスクドールのように整った相貌に、絹のような長い銀髪。
持ち主に負けないくらい綺麗に仕立てられたスーツと着衣越しでもわかる均整の取れた体躯。
同じ人間とは思えない程の極上の麗姿を持つ男性に、私は息を飲む。

これは、夢だ。それはなんとなくわかる。
でも、ただの空ろな幻にしてはなんて鮮烈な…。

しばらく見惚れていると、彼がこちらにつかつかと近づく。

「…！」

慌てて声をかけようにも、私の声帯は全く震えない。
戸惑う私の様子にかまわず、彼は私の腰を抱き、顎を冷たい指先ですいと掴む。

どうしよう、体が動かな…。

私の焦燥を知ってか知らずか、氷の美青年はさらに、口元を私の耳にあてがう。


『君の全てを奪いに行く』


穏やかな低音と吐息に鼓膜を揺らされ、顔に血が集まる。
それを見た男は、少し意地悪な弧を描いた艶めかしい唇を、追い打ちをかけるように私に近づけ…。