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第一章:理不尽から始まる探偵業
第四話 教会へ
しおりを挟む聖女とは、魔法が使える人間の中でも特に魔力が多い者の事を言う。それこそ他とは「神から愛されている」と思うくらいの歴然とした差があるらしいが、実際にどうなのかはよく知らない。
魔法が使える人間のほとんどが貴族だし、そういった人間は大抵、そうでない人間を下に見る。騎士の中にも魔法が使える者がいたが、それこそそういう奴らは皆、平民上がりの騎士を嘲笑の的にするのだ。近付かない方が賢い。
その上俺は、信仰心の欠片もない。そもそも神なんて信じていない。
子どもの頃には少なからず信じていた事もあったが、そんなものに縋ったところで結局のところ助けてくれる訳ではない。そうと知ってしまってからは尚の事、懐疑的以上に信じなくなった。
そんな俺にとって聖女は、あくまでも『聖女』という人間の呼び名でしかなく、教会は神を信仰するという体裁の下建てられた、今や権威の欠片も国から奪われた過去の遺物だとしか思えない。
そこで信仰心を磨いている奴も、努力もせずに脳死で居もしないものに救いを求めているようにしか思えない。
そんな場所に行ってそんな奴の護衛をしなければならないなんて、そもそもどんな罰なのか。
価値観がまるで相容れない事は、想像に容易い。それでも王城への返り咲きを心に決めたのなら、行かないという選択肢はないのだが。
王都の教会は、街の中心部にある。
建設当時は栄華を誇っていたのだろう。立地はもちろん、最初の建設以後建て替えられた事もないお陰で、他の街と同様に、王都の顔の一つと言っても差し支えないような規模で建っている。
建てられてから数百年ほど経つ筈だが、未だに穢れなき純白の壁に黄金の装飾がまったく陰りを見せないのは、たしか「保存魔法がかかっているから」とかいう話だった筈だ。魔法自体がよく分からないし、教会に特に興味もないしで、俺としては「どうやらそういう事らしい」という認識で、少なくとも今までは十分だった。
しかしこうして実際に対峙してみると、目前の建物はかなり異質だ。王都という栄えた場所でも尚、日の光を反射せんばかりの壁や装飾は大きな存在感を持っている。
「これなら、まぁ」
自分が不幸に見舞われた時に思わず心の拠り所にしたり、幸せが舞い込んできた時に理由付けとして『協会』や、ここにいるらしい『神』を使いたくなる気持ちも、分からなくはない。ふとそんなふうに思う。
これは、思わず縋りたくなるような象徴だ。きっと多くは錯覚する。
……教会は、そうやってここまで平民たちに好かれて生き延びてきたのだろう。そう思えば、思わず眉間に皺が寄った。
信徒だろうか。教会の大扉から出てきた者が、俺を見て「ヒッ!」と声を上げた。
青ざめたそいつは、俺を避けるように大回りをしながらいそいそとこの場を去っていく。
分かっている。元々俺は目つきが鋭く、職業柄体も鍛えているし、頬には古い傷が残っている。そんな男が顔を顰めれば、周りに威圧を振りまき、不機嫌を晒すのには十分だ、と。
しかし眉間に皺を寄せるのは癖に近いし、実際今は王城から理不尽を受けたばかりというのもあり、実際に不機嫌極まりない。最早どうにかしようと思ってできるものではないし、少なくとも今から会わなければならない相手に取り繕う必要性も感じない。
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