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第一章:理不尽から始まる探偵業
第三話 ユスティードの決意
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国王への謁見が終わった後、その足で騎士団寮へと行って、荷物を纏めた。
己の剣を磨く事にすべてを注いできたお陰で、消耗品以外の私物は殆どない。元々最低限しかない服と日用品をカバンに突っ込み、剣を持って王城を出た。
身軽な身だ。それでもそれ程清々しないのは、教会への出向という形式のせいでこの騎士服が脱げない事くらいである。
王都とはいえ、昼時間の街中でこの騎士服は、どうしたって人の目を集める。そのせいで休日の買い出しのために私服を一着買ったくらいだ。あれがなければ、ずっと騎士服を着まわせばいいと思っていたくらいには、自分の服に興味もない。
その騎士服を着て歩いているせいで、案の定現在、俺は周りの目をかなり集めていた。
周りからチラホラと聞こえてくる声の中には「憲兵じゃなくて、騎士様だねぇ」という類のものも多い。国を守る者より街を守る者の方が平民たちには近しい存在なのだろうから、こうして遠巻きにされて物珍しそうに見られるのも、まぁ仕方がない事ではあるのだろう。
これから左遷先に行く事を思えば、こんな注目のされ方をされれば普通、ひどくプライドを傷つくのだろう。そう思うと、自分が貴族や王に忠誠を誓って騎士団に入ったタイプの人種ではなくてよかった、と内心で思う。
俺はただ、国を守る騎士という職業に憧れた。だから田舎で師匠に剣を教えてもらって毎日励み、単身王都に出てきて試験を受け、合格して配属された後もひたすら鍛錬に明け暮れた。
何回か、戦にも出た。その度に勝利した。
自分の剣の腕を過信する訳ではないが、そこらの奴らよりよほど強いという自負がある。
……まぁだからこそ、今回の国王の采配には本当に不服しかないのだが。
「騎士は、万人を守るための剣を振るう事ができる職だ」
雑踏の中、一人呟く。
そう。俺にとって騎士とは良くも悪くも、自分の夢を叶えるための職種だ。
子どもの頃は騎士譚の中の英雄に憧れたが、そういう時期ももう過ぎた。今はもっと建設的で実際的な理由で騎士という職に意義を見出している。
だって騎士でなければ、戦争の前線で体を張る事などできない。いち早く戦場に駆けつけられない。
俺は、戦闘狂でも野心家でもない。ただ、前線で食い止められなかった敵が小さな村に、俺の故郷に、どんな事をしてくるのかは、経験則で知っているだけだ。
つまり、だ。俺には必要なのだ、王国騎士という立場が。肩書ではなく、実質的な立場として。
だから。
「――必ず、王城に返り咲く」
俺の呟きは、相変わらず雑踏に溶けた。
しかしそれで構わない。俺だけが知っていればいい。そう思いつつ、教会へ向かう足を速めた。
己の剣を磨く事にすべてを注いできたお陰で、消耗品以外の私物は殆どない。元々最低限しかない服と日用品をカバンに突っ込み、剣を持って王城を出た。
身軽な身だ。それでもそれ程清々しないのは、教会への出向という形式のせいでこの騎士服が脱げない事くらいである。
王都とはいえ、昼時間の街中でこの騎士服は、どうしたって人の目を集める。そのせいで休日の買い出しのために私服を一着買ったくらいだ。あれがなければ、ずっと騎士服を着まわせばいいと思っていたくらいには、自分の服に興味もない。
その騎士服を着て歩いているせいで、案の定現在、俺は周りの目をかなり集めていた。
周りからチラホラと聞こえてくる声の中には「憲兵じゃなくて、騎士様だねぇ」という類のものも多い。国を守る者より街を守る者の方が平民たちには近しい存在なのだろうから、こうして遠巻きにされて物珍しそうに見られるのも、まぁ仕方がない事ではあるのだろう。
これから左遷先に行く事を思えば、こんな注目のされ方をされれば普通、ひどくプライドを傷つくのだろう。そう思うと、自分が貴族や王に忠誠を誓って騎士団に入ったタイプの人種ではなくてよかった、と内心で思う。
俺はただ、国を守る騎士という職業に憧れた。だから田舎で師匠に剣を教えてもらって毎日励み、単身王都に出てきて試験を受け、合格して配属された後もひたすら鍛錬に明け暮れた。
何回か、戦にも出た。その度に勝利した。
自分の剣の腕を過信する訳ではないが、そこらの奴らよりよほど強いという自負がある。
……まぁだからこそ、今回の国王の采配には本当に不服しかないのだが。
「騎士は、万人を守るための剣を振るう事ができる職だ」
雑踏の中、一人呟く。
そう。俺にとって騎士とは良くも悪くも、自分の夢を叶えるための職種だ。
子どもの頃は騎士譚の中の英雄に憧れたが、そういう時期ももう過ぎた。今はもっと建設的で実際的な理由で騎士という職に意義を見出している。
だって騎士でなければ、戦争の前線で体を張る事などできない。いち早く戦場に駆けつけられない。
俺は、戦闘狂でも野心家でもない。ただ、前線で食い止められなかった敵が小さな村に、俺の故郷に、どんな事をしてくるのかは、経験則で知っているだけだ。
つまり、だ。俺には必要なのだ、王国騎士という立場が。肩書ではなく、実質的な立場として。
だから。
「――必ず、王城に返り咲く」
俺の呟きは、相変わらず雑踏に溶けた。
しかしそれで構わない。俺だけが知っていればいい。そう思いつつ、教会へ向かう足を速めた。
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