触るなキケンの聖女様とお飾り騎士の探偵業(ディテクティブ)

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第一章:理不尽から始まる探偵業

第二話 左遷

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 すべての始まりは一か月前。無駄に豪奢な謁見の間に人生初の呼び出しを受けた事だった。

 白い大理石の床に、俺の視線を強制的に導くように敷かれた、一本の深紅のカーペット。その先に、ただ金の王冠を頂いてふんぞり返っているだけの男が、俺を上から見下ろし告げた。

「第一騎士団所属・ユスティード。貴様には、本日付けで聖女・アイーシャの専属護衛騎士を命ずる」

 他人に命令し慣れた声が「聖女はこの国にとって政治的・宗教的・軍事的に大切な存在であるから云々」などと建前を述べているが、俺は絶対に騙されない。
 どんなに言葉を飾ろうが、どんなに威厳のある声で言われようが、突き付けられた結果は変わらない。

 ――俺は国に、捨てられた。
 そうでなければ、聖女付きになど、教会配属になどなる筈がない。


 教会がこの国で権力を持っていたのは、もう百年も前の事だ。
 当時の教会は、国の権力を簒奪しようとして失敗し中枢への影響力を失った。今や、律儀に神なんていう不確かなものを信仰している平民たちのためだけに、形だけ残されている組織に過ぎない組織だ……というのは、この王城内では知らぬ者など中々いない。
 それこそ、騎士団でも「平民上がり」とよく揶揄されていたような、俺の耳にまで届く程度には。

 王城に勤める貴族は多い。そのせいか、王城での勤務に一種のステータスを感じている者の大抵が、教会やそこにいる者たち――いわゆる脱落者たちを見下している。
 そんな場所に何故俺が、実力だけでこの国最強を謳う精鋭ぞろいの第一騎士団第三位にまで上った人間が、出向を命じられなければならないのか。

 ……いや、分かっている。理由は簡単。この国の有力貴族の息子を、先日剣で打ち負かしたからだ。
 そんな事程度で、平民である俺は貴族からこうも簡単に、僻地への左遷以上に最悪な環境へと置かれる事になるわけだ。
 
 ふざけるな。
 
 奥歯をギリッと噛み締める。手が震える程に、強く拳を握り込む。
 今すぐにでも先日の一件についてこの場で抗議し、正義がどちらにあるのかを説いてやりたい。そういう事実がある上でこの決定なのかと、揶揄したい。
 しかしそれはできない。なんせ今俺の目の前にいるのは、この国の権力をほしいままにし、一貴族の小さな私怨如きで国の戦力を追放するような傲慢なアホ――この国の最高権力者・国王なのだから。
 
“今代の王は特に己の利に貪欲で、そのためになら国の不利益も人を切り捨てる事も厭わない。そんなアホに、命まで奪われてはつまらないぞ”
 俺が頑なに「国を守る騎士になる」と言って聞かず、ついには故郷を出て王都に行くと決めた時に、すべてを笑い飛ばすようなあの爽快な笑顔で師匠は俺にそう言った。

 俺は別にいい。どうにでもなる。
 でもそんな王なら見せしめに、俺の故郷や師匠にまで手を出すかもしれない。だから、動けない。

 俺は、人の努力を身分一つでなかった事にできる権力が嫌いだ。それを振りかざす権力者なんて、もっと嫌いだ。
 が、それでも自分が守りたい者を危険に晒す事になるくらいなら。

「……謹んで拝命いたします」

 怒りと苛立ちを噛み殺しながら返事をすれば、唸ったような声が出た。

 もしこの声が、俯いて隠しているつもりの表情が不服なのだとしたら、もうどうにでもすればいい。
 だって今の俺に、目の前の男に対して払える敬意は、もうこれ以上ないのだから。


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