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私を形成してるモノ
第10話 ほんのちょっと、そう思うくらいなら(1)
しおりを挟むその日は大雨の翌日で、畑に入ったら地面がとっても緩くなっていた。
そんな場所に足を踏み入れて作業をしていると、どうやったって泥に足を取られてしまう。
案の定足を取られ、私はそれに抗った。
その結果ーー泥から長靴を置き去りにして、足だけがすっぽ抜けた。
それだけならどうという事もなかったのだが、最悪な事にすっぽ抜けた反動でよろけてしまい、靴下を履いた足で地面を直に踏みしめる羽目になった。
踏みしめた先は、やはり他と同じ様に泥濘んでいた。
お陰で私の靴下は、泥に塗れて染まりに染まった。
しかし更に不運は続く。
その直後、作業のためにちょっと遠くで私が来るのを待っていた旦那さんが「美里ちゃん」と名前を呼んだ。
仕事中だ、呼ばれたのだから早く行かねばならない。
反射的にそう思い、私はまず泥に刺さった長靴を引っこ抜き、そこに泥だらけの足を入れて旦那さんの元へと急いだ。
その結果、靴下は愚か長靴の中までもが泥だらけになってしまった。
それに気が付いたのはすべての作業が終わって帰宅する直前。
せめて靴下を脱げば被害は靴下だけで済んだというのに、本当にアホである。
結局長靴は家に持って帰り冬の寒空の下、外で長靴の中を洗う羽目になり、風は冷たいし手は冷えるしで、もう本当に最悪だった。
その後靴下も泥だらけだったという事をうっかり忘れてそのまま家に入ってしまったのだから、更に最悪だ。
気が付いて靴下を脱いだところから玄関までの道のりを、雑巾片手に遡る羽目にもなった。
それが『長靴すっぽぬけ大事件』の全容である。
勿論そのエピソードは、家に帰っての事も合わせて全て二人には話していた。
だから一体何を報告したのかは、あの一言で十分に伝わっただろう。
(あれはホント、最悪だった)
なんて自分の失態を思い出しながら奥さんを見やると、口元が何やらフヨフヨと浮いている。
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