16 / 20
私を形成してるモノ
第8話 動機は不純(2)
しおりを挟むしかしこれは本当に難しい問いだ。
だって私は『自分の中の常識』をこれまで世間一般の常識だと思って生きてきたのだ。
それを突然抜き出せと言われても、ちょっと困る。
そう思った時だった。
「『常識』っていうか、『美里ちゃんの習慣』って考えた方が分かりやすいかもしれないね」
そんな奥さんの言葉に、私は今度は「習慣……」と呟いた。
何だろう、習慣って。
つまり、「いつもやってる事」「ついやっちゃう事」っていう事でしょう?
そう考えて、一つだけ頭に思い浮かんだ。
「習慣っていう程のものじゃないんですけど……実家に帰ればいつも必ず一番最初に仏壇に手を合わせますかね」
「あら、素敵な事じゃない!」
私が出したその候補は、どうやら奥さんのお気に召したようだった。
今までで一番弾んだ声にほんのちょっと驚いて、そして何だかとても申し訳なくなる。
何故なら。
「でも、ただ仏壇に線香をあげて拝むだけですよ……?」
だってこれこそ、そんな風に喜んで貰える程の事じゃない。
なにかお供えを持っていく訳でもないし、頻度だってそんなに高くない。
実家に帰れば拝む、ただそれだけなのある。
そんな気持ちを込めて言うと、彼女はひどく穏やかな声色で「それでいいのよ」と言葉を返した。
「真っ先にご先祖様に挨拶なんて、とてもいい習慣じゃない」
「まぁそれだって、ただ『後回しにすると忘れちゃうから』っていう理由ですし」
確かに「仏壇のある家に行ったらまず最初に拝みましょう」は母からの言いつけではあるし、実際今までその通りにしてきてはいる。
しかし、私としては「どうせしないといけない事なんだし、忘れると嫌だから先に済ませてしまおう」という気持ちがある。
つまり動機が不純なのだ。
だからやっぱり奥さんに感心してもらえるような事じゃない。
感心してもらう程じゃないと思っている事で感心されると、何だかとっても座りが悪い。
だから反論というか言い訳というか「あまり私に期待しないで」と思いながら苦笑したのだが、それでも奥さんは食い下がる。
「でもそれだって『仏壇に手を合わせる事は、家に行ったら必ずしなきゃいけない事だ』っていう常識が美里ちゃんの中にきちんと息づいているからこそでしょう?」
やっぱりそれはいい事よ。
そう言って、奥さんが自分の言葉に「うんうん」と相槌を打つ。
10
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
良心的AI搭載 人生ナビゲーションシステム
まんまるムーン
ライト文芸
人生の岐路に立たされた時、どん詰まり時、正しい方向へナビゲーションしてもらいたいと思ったことはありませんか? このナビゲーションは最新式AIシステムで、間違った選択をし続けているあなたを本来の道へと軌道修正してくれる夢のような商品となっております。多少手荒な指示もあろうかと思いますが、全てはあなたの未来の為、ご理解とご協力をお願い申し上げます。では、あなたの人生が素晴らしいドライブになりますように!
※本作はオムニバスとなっており、一章ごとに話が独立していて完結しています。どの章から読んでも大丈夫です!
※この作品は、小説家になろうでも連載しています。
翔君とおさんぽ
桜桃-サクランボ-
ライト文芸
世間一般的に、ブラック企業と呼ばれる会社で、1ヶ月以上も休み無く働かされていた鈴夏静華《りんかしずか》は、パソコンに届いた一通のメールにより、田舎にある実家へと戻る。
そこには、三歳の日向翔《ひなたかける》と、幼なじみである詩想奏多《しそうかなた》がおり、静華は二人によりお散歩へと繰り出される。
その先で出会ったのは、翔くらいの身長である銀髪の少年、弥狐《やこ》。
昔、人間では無いモノ──あやかしを見る方法の一つとして"狐の窓"という噂があった。
静華はその話を思い出し、異様な空気を纏っている弥狐を狐の窓から覗き見ると、そこにはただの少年ではなく、狐のあやかしが映り込む──……
心疲れた人に送る、ほのぼのだけどちょっと不思議な物語。
うみのない街
東風花
ライト文芸
喫茶木漏れ日は、女店主のように温かいお店だった。家族の愛を知らずに生きた少女は、そこで顔も名前も存在さえも知らなかった異母姉に優しく包まれる。異母姉もまた、家族に恵まれない人生を歩んでいるようだったが、その強さや優しさはいったいどこからくるのだろうか?そして、何にも寄りかからない彼女の幸せとはなんなのだろうか?
リンドウの花
マキシ
ライト文芸
両親を事故で失った少女、ハナ。ハナの伴侶である浩一。ハナを引き取る商家の子供である誠志。
三人の視点で語られる物語。テーマは、結婚、出産、育児という人生の一大事。
全ての誠実な人たちにお贈りしたい物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる