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私を形成してるモノ
第7話 『良い母』に反発して(1)
しおりを挟むそのお祖父ちゃんも、それから半年後には亡くなった。
しかしおそらく性に合ったのだろう。
それ以降もずっと、家庭菜園は私の趣味であり続けている。
勿論素人だ。
何も知らないし、大きな田んぼや畑には入った事すら一度も無い。
それでも次の職に私が『農業』を選んだのは、お祖父ちゃんとの楽しかった思い出と未だに土いじりが苦じゃない事、そして「出来る事じゃなくてやりたい事を」というあの言葉があったからだ。
しかし農業系の学校を出たわけでもなく持ち田の一枚もないような人間が急に始めるには、『農業』という職はあまりに厳しい。
だからたまたま見つけた地域の広報誌の『未来の農業を担う人を育てている人』という記事を見つけて、そこに連絡してみたのだ。
初対面の相手に電話ごしで面接を取り付け、その後そこで雇ってもらえる事になった。
仕事は正直、きつかった。
今でずっと仕事ではデスクワーク、休日にはインドアだった私である。
学生時代の部活以来の運動らしい運動に、私の体は当たり前のように悲鳴を上げた。
体が何度も「勘弁してくれ」と叫んだが、そこは意地で押し切って、家に帰ったら日々の必要最低限だけを済ませてすぐに寝る。
そんな生活を一週間ほど続けてやっと、ちょっと体が慣れた気がした。
そんな私だから、即戦力になどなる筈もない。
褒められるようなポイントなんて無かっただろうに、褒められた。
「美里ちゃんはすれ違った人にちゃんと挨拶ができて偉いねぇ」
それは雇い主宅の奥さんからの言葉だった。
彼女は今年で75歳になるらしい。
この前「もうすぐ後期高齢者の仲間入りだよ、何だか一気に年取った気分」なんて言って不貞腐れていた。
彼女はどうやら『後期高齢者』という呼び名に哀愁を感じているらしい。
私からすると私よりも余程シャンシャンと農業をしている彼女がまさかそんな年なのかという所に衝撃を受けたのだが、それをそのまま言葉にすると彼女は「こればっかりは慣れだからねぇ」と言って笑った。
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