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私を形成してるモノ
第6話 野菜といえど、花は咲く(2)
しおりを挟むそんな私だったから、3年前に始めた趣味の家庭菜園も最初は祖父母のためだった。
その頃、加齢に伴い二人が持ち家を売ってシニアマンションへと引っ越したのだが、引っ越しにあたり多くの家具類を処分した。
その中に、お祖父ちゃんが数十年に渡って毎日手塩にかけて世話をしてきた大量の盆栽や花の鉢植えがあったのだ。
ずっと大切にしていた草花の置き場は、残念ながらシニアマンションのどこにもない。
だから3つのお気に入りを除いた全てを知り合いにあげたり売ったりした。
どうしたって持っていけない事は分かっていた。
しかし「朝早くに起きて、コイツらの世話をする。それはもうずっと習慣だったからなぁ……」というお祖父ちゃんの言葉と、全てが定位置から消えた庭を寂しそうに眺めるお祖父ちゃんの背中がどうしても忘れられなかった。
だから私は思ったのだ。
せめてお祖父ちゃんの好きなものの話を沢山したい。
その話し相手になろう、と。
家庭菜園は、そのための手段だった。
何も知らない私よりもちょっとは草花について知っている私の方が、きっとお祖父ちゃんも話してて楽しいだろう。
そんな軽い気持ちで始めた。
始めたのが花壇ではなく菜園だったのは、私が趣味にお得感を求める人間だったからだ。
だから何を育てようかと考えた時に「どうせ何かを育てるのなら、見て楽しんで食べて美味しい方がお得じゃない?」と思い立ったのだと思う。
私がそういう趣味を始めた事を報告すると、お祖父ちゃんは「ワシは花と盆栽専門じゃけぇなぁ」と言ってほのほのと笑った。
その言葉に最初は「あれ? もしかしてチョイス間違えた……?」と思ったのだが、しかしそれも最初だけ。
実際に具体的な話をし始めると意外と話は簡単に弾んだ。
だって、野菜といえど花は咲くのである。
私は何かの花が咲く度に、携帯カメラで写真を撮っていく。
すると、それを見せる度にお祖父ちゃんは目に見えて華やいだ。
ある日、どんな花が咲くのか気になって一本だけわざと収穫せずに残しておいた大根に、ついに花が咲いた。
するとお祖父ちゃんは、携帯画面をよくよく覗き込んだ後「だいこんの花は薄紫色なんじゃなぁー」と感心の声を上げた。
その顔に、私は心の底から「置いておいてよかった」と思ったものだ。
因みにその後、大根はちゃんと料理して頂いた。
包丁で革を深めに剥いて食べれば、普通に美味しく頂けた。
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