10 / 16
第5話 暴かれた不正(2)
しおりを挟むこれは、意図的に仕組まれた『真犯人の居ない』事件だ。
そういう性質だからこそ「そもそも不正利用など存在しない」という疑い方をしない限り、真実には辿り着けない。
そういう算段だったのだろうけど。
「元々犯人など居ないのですから、証拠を消す必要がない。証拠の捏造だけですから、工作するのも楽だったのでは?」
その部分を疑った、否、あらかじめ知っており、尚且つ『王の意思』に反目する意思を持つ人間が、ただ一人だけ存在した。
それこそが、きっと彼の計算違いだったのだろう。
「お前も――」
「因みに私は今まで王妃様から、何一つとして下知して頂いた事はありません」
そんな私に、一体どうやったら『国庫の不正利用』などという罪をかけられるだろう。
それに、だ。
「今まさに言おうとしたその言葉。もしその全てを言い切ってしまったら、その瞬間に私共々王妃様をも処刑しなければならなくなりますよ?」
それでも言えますか?
そんな言外の問いに、彼はグッと奥歯を噛み締めた。
結局彼は、王妃様を愛しているのだ。
だから彼女の苦手な物を彼女から遠ざけ、輝ける場所を用意し、そのフィールド内で全てを好きにできる権限を与えた。
まぁその結果が、一方では私との不仲の原因を作ってその私に「演説スキルで敗北する」という醜態を演じさせ、もう一方では国庫を圧迫させるに至ったというのだから――
(空回るにも、程がありますね)
私はそう、独り言ちた。
そしてダメ押しに、私は最後のカードを切る。
「因みにですが、王妃様の国庫利用状況に関する資料がコレです。――エドワーズ侯爵、読み上げてくださるかしら」
そう言って、私は貴族達の最前列に立つ男にとある紙を手渡した。
彼は、私の家とは敵対派閥の人間である。
しかし不正には手を染めない厳格で公正な性格の彼に、私はずっと敵ながら一定の好感を抱いてきた。
そんな彼にだからこそ、この世界でたった一つの不正の証拠を渡す事ができる。
訝しげな顔で私からその紙を受け取った侯爵は、すぐにその紙へと視線を落とした。
そして、みるみる内にその顔色を険しくい色へと変えていく。
「これは、今年の国庫決済書類の原本だ。そしてこれには、不正利用された筈の金額とまったくの同額が……王妃様使用分として計上されている」
彼の言葉に、貴族達が大きく揺れた。
頑ななまでの彼の厳格さと公正さについては、みんなもよく知っているのだ。
彼が嘘をつくはずがない。
つく意味もない。
それをみんな、ちゃんと分かっているのである。
0
お気に入りに追加
379
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は攻略対象者を早く卒業させたい
砂山一座
恋愛
公爵令嬢イザベラは学園の風紀委員として君臨している。
風紀委員の隠された役割とは、生徒の共通の敵として立ちふさがること。
イザベラの敵は男爵令嬢、王子、宰相の息子、騎士に、魔術師。
一人で立ち向かうには荷が重いと国から貸し出された魔族とともに、悪役令嬢を務めあげる。
強欲悪役令嬢ストーリー(笑)
二万字くらいで六話完結。完結まで毎日更新です。
辺境伯令嬢が婚約破棄されたので、乳兄妹の守護騎士が激怒した。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
王太子の婚約者で辺境伯令嬢のキャロラインは王都の屋敷から王宮に呼び出された。王太子との大切な結婚の話だと言われたら、呼び出しに応じないわけにはいかなかった。
だがそこには、王太子の側に侍るトライオン伯爵家のエミリアがいた。
【完結】デート商法にひっかかった王太子が婚約破棄とかしてきたので、現実見させてやりました
幌あきら
恋愛
私はアネット・オールセン公爵令嬢。
この国のオーブリー王太子の婚約者。
自分で言うのもなんだけど、名門公爵家の長女という身分もさることながら、これまで勉学も淑女教育もみごとにこなし、今や未来の王太子妃として一目置かれる存在になったと思うわ。
私の婚約者だって非の打ち所がないともっぱらの噂。とてもかっこよくて紳士的で優しい。聡明さだって兼ね備えちゃう。
でも、なんだか最近、婚約者がうっきうき。
女の勘で「何かあるな」とピンと来たら、彼の侍従長が持ってきた帳簿の支出を見て、浮気を確信!!!
どうしたものかと婚約者の身の回りを調べていたら、私と『婚約破棄』するつもりなんですって!!!
してご覧なさい、『婚約破棄』。私だって、ただで見ているつもりはありませんわよ。
他サイト様にも投稿しています。
全2話・予約投稿済み
悪役令嬢は、いつでも婚約破棄を受け付けている。
ao_narou
恋愛
自身の愛する婚約者――ソレイル・ディ・ア・ユースリアと平民の美少女ナナリーの密会を知ってしまった悪役令嬢――エリザベス・ディ・カディアスは、自身の思いに蓋をしてソレイルのため「わたくしはいつでも、あなたからの婚約破棄をお受けいたしますわ」と言葉にする。
その度に困惑を隠せないソレイルはエリザベスの真意に気付くのか……また、ナナリーとの浮気の真相は……。
ちょっとだけ変わった悪役令嬢の恋物語です。
公爵令嬢エイプリルは嘘がお嫌い〜断罪を告げてきた王太子様の嘘を暴いて差し上げましょう〜
星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「公爵令嬢エイプリル・カコクセナイト、今日をもって婚約は破棄、魔女裁判の刑に処す!」
「ふっ……わたくし、嘘は嫌いですの。虚言症の馬鹿な異母妹と、婚約者のクズに振り回される毎日で気が狂いそうだったのは事実ですが。それも今日でおしまい、エイプリル・フールの嘘は午前中まで……」
公爵令嬢エイプリル・カコセクナイトは、新年度の初日に行われたパーティーで婚約者のフェナス王太子から断罪を言い渡される。迫り来る魔女裁判に恐怖で震えているのかと思われていたエイプリルだったが、フェナス王太子こそが嘘をついているとパーティー会場で告発し始めた。
* エイプリルフールを題材にした作品です。更新期間は2023年04月01日・02日の二日間を予定しております。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
【完結】もしかして悪役令嬢とはわたくしのことでしょうか?
桃田みかん
恋愛
ナルトリア公爵の長女イザベルには五歳のフローラという可愛い妹がいる。
天使のように可愛らしいフローラはちょっぴりわがままな小悪魔でもあった。
そんなフローラが階段から落ちて怪我をしてから、少し性格が変わった。
「お姉様を悪役令嬢になんてさせません!」
イザベルにこう高らかに宣言したフローラに、戸惑うばかり。
フローラは天使なのか小悪魔なのか…
ピンクブロンドの男爵令嬢は、王太子をけしかけてブチャイク悪役令嬢に婚約破棄させる
家紋武範
恋愛
ピンクブロンドの超絶美人、ロッテ・マリナズ男爵令嬢見参!
この顔よし、スタイルよしの私が悪役令嬢を押し退けて王太子殿下のお妃になってやる!
見てなさい!
マーリマリマリ!
【完結】わたしの隣には最愛の人がいる ~公衆の面前での婚約破棄は茶番か悲劇ですよ~
岡崎 剛柔
恋愛
男爵令嬢であるマイア・シュミナールこと私は、招待された王家主催の晩餐会で何度目かの〝公衆の面前での婚約破棄〟を目撃してしまう。
公衆の面前での婚約破棄をしたのは、女好きと噂される伯爵家の長男であるリチャードさま。
一方、婚約を高らかに破棄されたのは子爵家の令嬢であるリリシアさんだった。
私は恥以外の何物でもない公衆の面前での婚約破棄を、私の隣にいた幼馴染であり恋人であったリヒトと一緒に傍観していた。
私とリヒトもすでに婚約を済ませている間柄なのだ。
そして私たちは、最初こそ2人で婚約破棄に対する様々な意見を言い合った。
婚約破棄は当人同士以上に家や教会が絡んでくるから、軽々しく口にするようなことではないなどと。
ましてや、公衆の面前で婚約を破棄する宣言をするなど茶番か悲劇だとも。
しかし、やがてリヒトの口からこんな言葉が紡がれた。
「なあ、マイア。ここで俺が君との婚約を破棄すると言ったらどうする?」
そんな彼に私が伝えた返事とは……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる