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第4話 私の思考を置いてきぼりにするくせに(2)
しおりを挟む彼を中心にして、どこからともなく無数の水滴が現れた。
直径にしておよそ小指の関節一つ分ほどの大きさの水滴、それが重力に逆らって浮かんだ様は実に不思議な光景だ。
が、私は驚いたのはそこじゃない。
天気のいい昼下がりという事もあり、太陽の光を反射させてそれらが一斉にキラキラと小さく煌めいていた。
その光景がひどく幻想的で、清廉な美しさを放っていて。
――まるで彼の瞳のよう。
私は彼の、あの金色の瞳を思い出したのだ。
紅い番傘をさし、水滴煌めく場の中心でカランと一つ石畳を踏み鳴らし、白い人外が短く告げる。
「去《い》ね」
たったその一言で、変化は劇的に訪れた。
従順な水滴たちはまるで意志でも持ったかのように、あの黒い靄へと特攻していく。
その途中で、既に彼はそちらに背を向けた。
見えたその顔には「もう『祭り』は終わってしまった」と嘆くような、それでいてその『祭り』事態にはもう興味を無くしたかのような、そんな雰囲気があった。
――未だ『花火』の最中なのに。
結局、それら無数の水滴に貫かれたアレがハチの巣になるのは一瞬だった。
彼がカランと音を立てて歩いてきている時には既に靄も全て消えていて、私を魅せたあの光景も跡形も無い。
あの出来事の残滓といえば、こちらに向かってつまらなそうに歩いてきている彼だけだ。
「おい女、これで賽銭分の仕事はした。分かったらもうとっとと帰って――」
面倒なものを今すぐ厄介払いしたい。
そんな気持ちを隠しもしない彼の声に、私は「それでも」とお礼を言うために口を開く。
だってそうだろう。
あまりに非日常な出来事の数々だったけど、それでも彼が助けてくれた事くらいは分かる。
だからこう言ったのだ。
「ありがとうございました、お狐様」
私は確かに今まで心霊現象を嗜む事はなかったけれど、フィクションとしてその手の物語を楽しめない程狭量じゃない。
彼は耳と尻尾付きだ。
ともなれば、きっとそういう事だろう。
そういう思考が言わせた言葉だったのだが、これを私は後でひどく後悔する。
「……んて」
「え?」
「キツネなんて、そんな鼻持ちならないヤツと俺を一緒にするなぁ!」
怒りにカッと牙を剥いたか彼は、次の瞬間姿を消した。
跡形もなく、忽然と。
その怒りの凄まじさに、私は思わず「え?」と呟いた。
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