憑き物落としのオオカミさんは、家内安全を祈願したいらしい。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!

文字の大きさ
上 下
7 / 13

第4話 私の思考を置いてきぼりにするくせに(2)

しおりを挟む


 彼を中心にして、どこからともなく無数の水滴が現れた。
 直径にしておよそ小指の関節一つ分ほどの大きさの水滴、それが重力に逆らって浮かんだ様は実に不思議な光景だ。
 が、私は驚いたのはそこじゃない。

 天気のいい昼下がりという事もあり、太陽の光を反射させてそれらが一斉にキラキラと小さく煌めいていた。
 その光景がひどく幻想的で、清廉な美しさを放っていて。

 ――まるで彼の瞳のよう。

 私は彼の、あの金色の瞳を思い出したのだ。



 紅い番傘をさし、水滴煌めく場の中心でカランと一つ石畳を踏み鳴らし、白い人外が短く告げる。

「去《い》ね」

 たったその一言で、変化は劇的に訪れた。

 従順な水滴たちはまるで意志でも持ったかのように、あの黒い靄へと特攻していく。

 その途中で、既に彼はそちらに背を向けた。
 見えたその顔には「もう『祭り』は終わってしまった」と嘆くような、それでいてその『祭り』事態にはもう興味を無くしたかのような、そんな雰囲気があった。
 ――未だ『花火』の最中なのに。



 結局、それら無数の水滴に貫かれたアレがハチの巣になるのは一瞬だった。

 彼がカランと音を立てて歩いてきている時には既に靄も全て消えていて、私を魅せたあの光景も跡形も無い。
 あの出来事の残滓といえば、こちらに向かってつまらなそうに歩いてきている彼だけだ。
 
「おい女、これで賽銭分の仕事はした。分かったらもうとっとと帰って――」

 面倒なものを今すぐ厄介払いしたい。
 そんな気持ちを隠しもしない彼の声に、私は「それでも」とお礼を言うために口を開く。
 だってそうだろう。
 あまりに非日常な出来事の数々だったけど、それでも彼が助けてくれた事くらいは分かる。
 だからこう言ったのだ。

「ありがとうございました、

 私は確かに今まで心霊現象を嗜む事はなかったけれど、フィクションとしてその手の物語を楽しめない程狭量じゃない。

 彼は耳と尻尾付きだ。
 ともなれば、きっと事だろう。

 そういう思考が言わせた言葉だったのだが、これを私は後でひどく後悔する。

「……んて」
「え?」
「キツネなんて、そんな鼻持ちならないヤツと俺を一緒にするなぁ!」

 怒りにカッと牙を剥いたか彼は、次の瞬間姿を消した。
 跡形もなく、忽然と。


 その怒りの凄まじさに、私は思わず「え?」と呟いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな

ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】 少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。 次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。 姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。 笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。 なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中

ナマズの器

螢宮よう
キャラ文芸
時は、多種多様な文化が溶け合いはじめた時代の赤い髪の少女の物語。 不遇な赤い髪の女の子が過去、神様、因縁に巻き込まれながらも前向きに頑張り大好きな人たちを守ろうと奔走する和風ファンタジー。

これもなにかの縁ですし 〜あやかし縁結びカフェとほっこり焼き物めぐり

枢 呂紅
キャラ文芸
★第5回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました!応援いただきありがとうございます★ 大学一年生の春。夢の一人暮らしを始めた鈴だが、毎日謎の不幸が続いていた。 悪運を祓うべく通称:縁結び神社にお参りした鈴は、そこで不思議なイケメンに衝撃の一言を放たれてしまう。 「だって君。悪い縁(えにし)に取り憑かれているもの」 彼に連れて行かれたのは、妖怪だけが集うノスタルジックなカフェ、縁結びカフェ。 そこで鈴は、妖狐と陰陽師を先祖に持つという不思議なイケメン店長・狐月により、自分と縁を結んだ『貧乏神』と対峙するけども……? 人とあやかしの世が別れた時代に、ひとと妖怪、そして店主の趣味のほっこり焼き物が交錯する。 これは、偶然に出会い結ばれたひととあやかしを繋ぐ、優しくあたたかな『縁結び』の物語。

真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~

椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」 仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。 料亭『吉浪』に働いて六年。 挫折し、料理を作れなくなってしまった―― 結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。 祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて―― 初出:2024.5.10~ ※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。

神様の学校 八百万ご指南いたします

浅井 ことは
キャラ文芸
☆。.:*・゜☆。.:*・゜☆。.:*・゜☆。.:*・゜☆。.: 八百万《かみさま》の学校。 ひょんなことから神様の依頼を受けてしまった翔平《しょうへい》。 1代おきに神様の御用を聞いている家系と知らされるも、子どもの姿の神様にこき使われ、学校の先生になれと言われしまう。 来る生徒はどんな生徒か知らされていない翔平の授業が始まる。 ☆。.:*・゜☆。.:*・゜☆。.:*・゜☆。.:*・゜☆。.: ※表紙の無断使用は固くお断りしていただいております。

狼神様と生贄の唄巫女 虐げられた盲目の少女は、獣の神に愛される

茶柱まちこ
キャラ文芸
 雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。  ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。  呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。  神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚。 (旧題:『大神様のお気に入り』)

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...