憑き物落としのオオカミさんは、家内安全を祈願したいらしい。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!

文字の大きさ
上 下
6 / 13

第4話 私の思考を置いてきぼりにするくせに(1)

しおりを挟む

 もしこれで本当に私を邪険にしてると言うのなら、この世の全てがきっと嘘に成り下がる。
 彼を見て、私はそんな風に思った。

 が、そんな余計な事を考えているせいか、肝心な所には、思考が全く回ってくれない。

 物騒なモノ?
 祓う?

 私の頭は完全に状態だ。


 そもそもが、把握しきれない状況下に置かれて軽くパニックが起きている。
 その上そんな言葉を積み上げないでほしい。
 キャパオーバーも良い所だ。
 

 が、そんな私を置いてきぼりにして状況は加速していく。

「まぁ良いだろう。この俺が、お前の憑き物を見事に払ってやろうではないか」

 そんな言葉とほぼ同時に、彼の人差し指と中指の先が私の額をトンッと押した。

 瞬間。

 体から力が抜けた。
 何かが吸い出されるような感覚だ。
 まず足に来て隔離とひざが折れてしまい、崩れ落ちそうになる体を慌てて賽銭箱に手を突いてどうにか支える。
 が、それさえ抜けて最後には寄っかかる形でズリリッと床まで下がった。

「抜けたな」

 そう呟いた彼には、もう私なんて眼中に無い。
 視線は既に私を通り過ぎた鳥居の方へと向けられている。

 美しい金色にゆらりと愉悦の光が混じり、次の瞬間には消えていた。
 私の心も体もその全てを置き去りにして、彼は賽銭箱の上から飛び、一拍遅れて後ろでカランと音がする。

 首だけで振り返れば、鳥居からこの神殿に向かって伸びる石畳の上に彼は居た。
 

 始めて見た彼の後ろ姿は、私なんかより多分20センチは背が高く細身だった。
 なのに何故か頼りなさは微塵も感じさせないような、そんな不思議な雰囲気がある。

 腰のあたりには耳と同じ色をした尻尾のようなものが生えていたが、それさえ気にする暇は無い。
 いつの間にか持っていた赤い番傘をバサリと開き、柄の部分をトンッと肩に掛けて差したせいで、彼の顔が見えなくなった。
 が、何を見ているのかはそれでも分かる。

 ――鳥居の前に、何か黒い靄のようなモノが在るのだ。


 その靄を「良くないものだ」と私は感じた。
 そして思わず戦慄する。
 もしコレがさっき彼が『抜けた』と言ったものの正体なのだとしたら、こんなものが私の中に居たという事だ。
 こんな黒く濁った、まるで澱の塊のようなモノが。


 と、ここまで考えた所でやっと頭が働きだしたのか。
 視える、物騒なモノ、祓う。

 さっきから彼が言っていた言葉たちが一つの線に繋がった。
 きっとこの靄が彼が言う『物騒なモノ』でそれを今から祓おうとしているのだろう、と。


 心霊・妖怪の類を全く信じない私だから、この状況を受け入れつつある自分に我ながら驚いてはいる。

 けど私がコレを危険視している事は事実で、多分だけど本能レベルの問題だ。
 そんな風に思ってしまっているんだから、もう多分どうにもならない。

「羨望と嫉妬……ここまで来ると最早呪いだな。よくもここまで育ったものだ。まぁそれは憑いた相手が相手だったから、という事もあるのだろうが。まったく、霊力がある相手に憑いたりすると、なまじ耐性がある分ここまで溜まるから厄介だ」
 
 ブツブツと言った彼の声が辛うじてそう聞こえてくる。
 そして。

「一瞬で――滅してやる」

 獰猛で楽し気なその声が聞こえた瞬間、私は目の前の信じられないような光景にひどく魅せられてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

処理中です...