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第4話 私の思考を置いてきぼりにするくせに(1)
しおりを挟むもしこれで本当に私を邪険にしてると言うのなら、この世の全てがきっと嘘に成り下がる。
彼を見て、私はそんな風に思った。
が、そんな余計な事を考えているせいか、肝心な所には、思考が全く回ってくれない。
物騒なモノ?
祓う?
私の頭は完全にわや状態だ。
そもそもが、把握しきれない状況下に置かれて軽くパニックが起きている。
その上そんな言葉を積み上げないでほしい。
キャパオーバーも良い所だ。
が、そんな私を置いてきぼりにして状況は加速していく。
「まぁ良いだろう。この俺が、お前の憑き物を見事に払ってやろうではないか」
そんな言葉とほぼ同時に、彼の人差し指と中指の先が私の額をトンッと押した。
瞬間。
体から力が抜けた。
何かが吸い出されるような感覚だ。
まず足に来て隔離とひざが折れてしまい、崩れ落ちそうになる体を慌てて賽銭箱に手を突いてどうにか支える。
が、それさえ抜けて最後には寄っかかる形でズリリッと床まで下がった。
「抜けたな」
そう呟いた彼には、もう私なんて眼中に無い。
視線は既に私を通り過ぎた鳥居の方へと向けられている。
美しい金色にゆらりと愉悦の光が混じり、次の瞬間には消えていた。
私の心も体もその全てを置き去りにして、彼は賽銭箱の上から飛び、一拍遅れて後ろでカランと音がする。
首だけで振り返れば、鳥居からこの神殿に向かって伸びる石畳の上に彼は居た。
始めて見た彼の後ろ姿は、私なんかより多分20センチは背が高く細身だった。
なのに何故か頼りなさは微塵も感じさせないような、そんな不思議な雰囲気がある。
腰のあたりには耳と同じ色をした尻尾のようなものが生えていたが、それさえ気にする暇は無い。
いつの間にか持っていた赤い番傘をバサリと開き、柄の部分をトンッと肩に掛けて差したせいで、彼の顔が見えなくなった。
が、何を見ているのかはそれでも分かる。
――鳥居の前に、何か黒い靄のようなモノが在るのだ。
その靄を「良くないものだ」と私は感じた。
そして思わず戦慄する。
もしコレがさっき彼が『抜けた』と言ったものの正体なのだとしたら、こんなものが私の中に居たという事だ。
こんな黒く濁った、まるで澱の塊のようなモノが。
と、ここまで考えた所でやっと頭が働きだしたのか。
視える、物騒なモノ、祓う。
さっきから彼が言っていた言葉たちが一つの線に繋がった。
きっとこの靄が彼が言う『物騒なモノ』でそれを今から祓おうとしているのだろう、と。
心霊・妖怪の類を全く信じない私だから、この状況を受け入れつつある自分に我ながら驚いてはいる。
けど私がコレを危険視している事は事実で、多分だけど本能レベルの問題だ。
そんな風に思ってしまっているんだから、もう多分どうにもならない。
「羨望と嫉妬……ここまで来ると最早呪いだな。よくもここまで育ったものだ。まぁそれは憑いた相手が相手だったから、という事もあるのだろうが。まったく、霊力がある相手に憑いたりすると、なまじ耐性がある分ここまで溜まるから厄介だ」
ブツブツと言った彼の声が辛うじてそう聞こえてくる。
そして。
「一瞬で――滅してやる」
獰猛で楽し気なその声が聞こえた瞬間、私は目の前の信じられないような光景にひどく魅せられてしまった。
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