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第3話 それは正に、『人外』と形容するに相応しい(1)
しおりを挟むつまるところ、私がここに来た理由なんて気まぐれ以外の何もにでもない。
だから別にご利益なんて知らなくても、問題ないと言えばないんだが、「じゃぁ何でお前ここに来たんだよ」と言われそうな有様だという事くらいは私にも自覚があった。
とりあえず、何の神様を祀っているのかくらいは、流石に知っておいた方が良いかと思ったが、スマホはうっかり家に置き忘れて来た。
辺りを見てもその辺の説明をするようなものは――あったが、残念ながら年季が入りすぎてて文字が掠れて読めやしない。
仕方がない。
そうため息を吐いて、「とりあえず参拝だけでもして帰ろう」と神殿の方を向き直った。
参拝作法に則って拝む。
が、祈る時になってまた、致命的な事に気が付いた。
――何祈るか考えるの、忘れてた。
まだ祈る前ならどうにかなった。
思いついてから祈れば良いし、どうしても思いつかなかった時には祈らず帰ってしまえばいい。
が、既に祈りの手順を踏んでしまった今、早急に何かひねり出さなければ。
何も言わずに終わるという選択肢もあるけれど、なんかそれも気持ち悪い。
でもうーん、どうしよう。
そう思った時だった。
前方から、ガタンと音がした。
「え」
前方にあるのは、賽銭箱と神殿だけの筈だ。
色々と供え物はあったけど誰も何もいやしなかったし、「もしかしたら風か何かで物が落ちたのかもしれない」と思ったけれど、風なんて吹いていない。
後から考えれてみれば、山の動物が忍び込んでたという可能性も多分あった。
だけとその時には思いつかず、ただ疑問だけが頭を掠めた。
そして私の直感が、私に強く「おかしい」と思わせた。
だから私は参拝を中断する無作法を知りながら、閉じていた目を開けたのだ。
変化には、すぐに気付いた。
それほどまでに、鮮烈だった。
神殿の奥。
先ほどは確かに閉じていたあの扉が、どういう訳か開いていた。
そしてそこに、人影があったのである。
――とても綺麗な人だった。
色白で、来ている服も白色で、それ以上に髪の毛とその上に乗ったケモノの耳は完全に色素が抜けた真っ白だった。
人にケモノの耳などついている筈が無い。
が、実際には付いている。
それを本物だと認識のは、それを肯定させるほどの美貌がそこにあったからだろう。
『人外』と形容するに相応しい。
そう思わせるくらい、彼は整った顔をしていた。
その上純白の服の裏地の朱、そして何より日陰に煌めく黄金の瞳が眩して、鮮烈で。
それら全てが、それ以外を私に考えられなくさせてしまった。
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