叶うのならば、もう一度。

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第四話 あぁ好きだなぁ

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 が、そんな疑問も彼の次の一言ですべてサァッと氷解していった。

「桜がすごく綺麗だから」

 ――あぁ、そうだった。
 そんな風に、思い出す。

 ちょうど今頃、桜が咲く時期には、毎年バーベキューをしに行っていたのだ。
 彼と二人で。


 桜が綺麗に咲いている穴場があるんだ。
 彼がそう言ったのが最初だった。

 まるで秘密基地を教える子供の様な無邪気さで笑った24歳の時の彼は、車を運転して私を河原に連れて行った。
 
 肉と野菜と焼き肉のたれは、途中のスーパーで買い足していく。

 あぁそうだ。
 いつも野菜を買う量で、二人喧嘩になったっけ。
 肉が好きな彼と、バランスよく食べたい派の私。
 そんな二人が一緒に行けば、彼のバランスの悪い食べっぷりがどうしたって気になって、だからコッソリ彼の紙皿に野菜をちょいちょい乗っけていた。

 皿の上にあるものを全て綺麗に平らげてから新しいものを皿に乗せる律儀な彼は、いつの間にか増えている皿の上の野菜に気付かず、私はそれを悪戯が成功した子供の様な気持ちで眺めているのが好きだった。
 

 ――そんな彼との思い出を、言われるまで忘れていたなんて。

 春になると必ず毎年やっていた、「もうすぐ春だね」「バーベキューの時期が来たな」というやりとり。
 今年はそれを全くしていない事に今更気が付いた。

 まぁ状況を考えれば、それも当たり前なんだろう。
 だけど私が彼にしたお願いに、「その時が来るギリギリまで、日常を送りたい」というものがあった。
 
 そう、彼は私とのその約束を、ちゃんと叶えてくれている。


 パッと彼の方を見れば、こちらを振り返った彼と目が合う。

 開いた窓から吹き込む春風に、短い髪をそよそよと揺らす彼の目尻には笑い皺が刻まれている。
 その皺さえも、愛しくて、鼻の奥がツンとなる。

 ――あぁ好きだなぁ。
 しみじみと、そう思う。
 そう思えた自分が嬉しくて、ちょっとだけ誇らしくて。
 でもだからこそ切なくて、気が付けば服の上からキュッとする胸に手をやっていた。

 甘いこの疼きは、夫婦になっても褪せたりはしないらしい。

「うん、そうだね」
 
 はにかみながらそう言えば、彼はまたクシャリと笑う。

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