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第7話 明らかに読書が出来ていない
しおりを挟むしかしまぁ、とりあえず騒がしい襲来者は去った。
辺りには、お気に入りの静けさが再び戻ってくる。
息を吐いて、視線を再び自身の本へと落とした。
続きを読もうと文章を指でスラリとなぞりながら、しかし私は思わず思い出し笑いを人してしまう。
するとイアンが雰囲気で気付いたのか、「どうしたのか」と尋ねてきた。
「いえ、あんなに残っていたのに1人で全部食べちゃうなんて、そんなにお腹が減っていたのかなと思って」
ふふふっと笑いながらそう言えば、イアンに呆れた様なジト目を向けられた。
何故だろう。
そう思っていると、彼はこれまた全く隠す気の無い呆れを含んだ声で告げる。
「君があげるの嫌そうだったから、早く全部食べたんじゃないか」
「えっ、そうなの?!」
まさかの私の為だった。
そう知って、驚いたままにそう聞き返す。
するとイアンは少し不服そうな顔になって「何で僕がそんな嘘つかなきゃならないんだ」と軽く口を尖らせた。
たしかにその通りである。
「君、意外と負けず嫌いでしょ。だからああいう言い方をされたら断固として拒否するのは目に見えて分かっていたし、見てた感じ向こうは向こうで全く引く気がなかったみたいだし。なら争いの種を無くすしかないじゃないか」
そんな風にツラツラと説明する彼に、私は「今日は珍しく口数が多いな」なんて不謹慎な事を思いながら苦笑した。
苦笑したのは、彼があまりにも私の心をお見通しだったからである。
ぶっちゃけ別にクッキーの一二枚、あげても良かったのだ。
全部持っていかれると口寂しくなってしまうからちょっと困ってしまうけど、だからといってそこまで狭量なつもりもない。
素直に「一枚くれないか」と言ってくれれば、きっとすぐにあげただろう。
だけど。
(あの偉そうな態度や言葉が、どうしても私にソレを許容させなかった)
そんな風に、振り返る。
さっさと渡してしまえば、すぐに静けさが戻ってきただろう。
それが分かっていて、尚嫌だった。
ここで負けてはいけない気がした。
そんな私の心の機微を例えば一言で言い表すとしたら、それは確かに『負けず嫌い』という言葉なのかもしれない。
見透かされて、ちょっと嬉しいやら恥ずかしいやら。
そんなむず痒さを押し流すために、イアンに向かってヘラッと笑った。
すると彼は、一体何を思ったのか。
手に持った本にサッと視線を戻した後、ペラリとページを捲り始める。
一枚、二枚、三枚。
何枚も捲られるページは、明らかに読書が出来ていない。
どうしたのかと思って表情を確認しようにも、本に目を落とす彼の顔は長い前髪のせいで影になっていてよく見えない。
ちょっとだけ耳が赤い気がするが、もしかしたら光の加減による気のせいかもしれない。
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