【完結】俺様殿下はお呼びでない。 〜「殿下に食べていただけるなんて光栄です!」なんて、言うわけないでしょ!〜

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第5話 素朴な疑問、からの勘違い

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 長い前髪の隙間から深海のような瞳を覗かせて、イアンはまるで観察するかの様に殿下を見据える。
 そしてしれっとこう言い放った。

「ナタリーから『食べて良いよ』と許可を貰っていたもので」
「それでも俺が所望したのだっ、普通は残しておくだろう!」
「それはそれは、気が回らず申し訳ありません」

 殿下の言葉に、イアンは平坦な声で謝罪する。
 しかしそこに謝意なんてものは感じない。


 だから更に殿下が声を荒げる事は最早必然だっただろう。
 更に頭に血が上ったというのが顕著に分かる様な顔で、殿下は大きく息を吸った。

 しかし。

「ところで殿下――何故わざわざこんな所に?」

 吐き出す直前に先にそう言われ、殿下の息がグッと留まる。

 何だろう、何か後ろめたい事でもあるのだろうか。
 反射的に与えられた問いに答えようとして言葉を止めた殿下の目が、今は何だか所在無さげに泳いでいる気がする。
 
「私達以外には誰も居ないし何も無い中庭ですよ? ここは」

 イアンがそう続ければ、「そっ、それは……」と言いながら殿下はまるで囲い込まれた後で何とか逃げ道を探そうとしている羊の様な感じになっている。


 そんな彼に、イアンが「あぁ」と呟いた。

「もしかして、何かご用事があってたまたま通りかかったとか……?」
「っ! そ、そうだ! 偶々だ!」

 現れた逃げ道に、殿下は素早く頭を突っ込む。
 すると、イアンは「ふむ」と考えるてこう言った。

「では、早く用事を済まされた方が良いと思いますよ。この通り残念ながらクッキーはもうありませんし、急がなければ用事が済む前に休憩時間が終わってしまうかもしれません」

 ここで得られるものはもう無い。
 イアンが親切にもそう教えてあげると、殿下は口早で「あ、あぁまぁそうだなっ」と言い、何故か私の方を向く。

「ナタリー・グランモニカ、次はすぐに寄越すんだ! 俺だって暇じゃ無いんだからなっ!」

 嫌である、絶対に。
 と、いうか。

「またここに来る予定があるのですか……?」

 そんな言葉が口から出たのは、ただの反射からだった。

 さして相手に興味があったという訳ではなく、知りたかった訳でもなく。
 所謂「売り言葉に買い言葉」……ではないが、ただ疑問に思った事を聞き返しただけである。

 
 しかし、流石に自分から聞いておいて全く興味が無い事を大っぴらに示すのも、初対面の相手に対して失礼である。
 だから一応考えて、彼が度々ここを通る理由について一つだけ思い当たった。

 そして、出した答えに苦言……というか「もう来ないでください」という気持ちを引っ付けて、そんな風に言葉を返した。

「そんなに頻繁に補修プリントを取りに来なければならないのなら、どうぞ一子爵家令嬢の私になどは構わず、殿下のお勉強をなさってください」

 そしてついでに、ニッコリと微笑んでおく。

 
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