【完結】俺様殿下はお呼びでない。 〜「殿下に食べていただけるなんて光栄です!」なんて、言うわけないでしょ!〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!

文字の大きさ
上 下
2 / 8

第2話 殿下、食い下がる

しおりを挟む
 

 そんな心の声が現実の音声にならなかった事は、この休憩時間でおそらく1番の幸運だったのだろうと思う。

 だってコイツは、残念な事にこの国の王太子なのだ。
 もし口を滑らせたら、余裕で不敬罪に処されてしまう。

 しかし、そんな風に安堵できたのも、ほんの束の間だけだった。

「いえ、結構です」
「……何?」

 言ってしまって、思わずパシッと自分の口を押さえたくなった。
 貴族令嬢としてよろしくない所作だったし今更なのでそうしなかったが、大失言だ。
 それは機嫌悪そうに声を低くした殿下を見れば一目瞭然。

 さっきはせっかく読み込めたのに、何で本音が出てしまうのか。
 そんな風に自分の口を呪いたくなるが、ちょっと言い訳させて欲しい。
 だって仕方がないじゃ無いか。
 私は早く、静かで平穏な休憩時間に戻りたいのだ。


 しかし、そんな願いは残念ながら天には届かなかったようである。
 横柄な片眉が控えめに見てもピクリと釣り上がっている。
 
(流石にちょっと無礼過ぎたか)

 そんな風に思ったが、口に出した事はともかくとして、そう思った事自体は全く後悔していない。

 そもそも、だ。
 普段何の関わりも無い令嬢に向かって、最初に「俺に食べてもらえるなんて光栄だろう?」と言わんばかりの強奪文句を告げたのは、何を隠そう殿下の方でなのある。
 謝罪なんてするもんか。

「――殿下は今お一人でしょう? 毒味役も置かずに誰が作ったとも分からないものを食すのはお止めになった方が良いかと思います」

 不躾な言動に加え、そもそもこちらは何よりも大切に思っている『穏やかな休憩時間』を邪魔されたのだ。
 素っ気なくなってしまうのは仕方がない事だったろう。

 私は、失礼な言葉遣いにならない様にだけ注意しつつ、ニコリと笑ってそう言った。


 しかしこれで、相手も引き下がるだろう。

 だって、幾ら物腰は失礼の無い様にしていても、結局答えは「拒否」なのだ。
 不躾でも令嬢に断られて食い下がるなんて事、流石に殿下もしないだろう。
 だって階級社会に身を置く者として、そんな風に諦め悪く令嬢に詰め寄る様な真似、とっても恥ずかしい事なのだから。

 だから。

(よし、じゃぁ私はまた読書に戻って――)

 なんて、安心しながら視線を落としかけたのに、だ。

「問題ない。毒見は隣のヤツが既に済ませている様だしな」

 そう言って、あろうことか彼は手を出して「さぁ寄越せ」と要求してきたのだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

竜神に愛された令嬢は華麗に微笑む。〜嫌われ令嬢? いいえ、嫌われているのはお父さまのほうでしてよ。〜

石河 翠
恋愛
侯爵令嬢のジェニファーは、ある日父親から侯爵家当主代理として罪を償えと脅される。 それというのも、竜神からの預かりものである宝石に手をつけてしまったからだというのだ。 ジェニファーは、彼女の出産の際に母親が命を落としたことで、実の父親からひどく憎まれていた。 執事のロデリックを含め、家人勢揃いで出かけることに。 やがて彼女は別れの言葉を告げるとためらいなく竜穴に身を投げるが、実は彼女にはある秘密があって……。 虐げられたか弱い令嬢と思いきや、メンタル最強のヒロインと、彼女のためなら人間の真似事もやぶさかではないヒロインに激甘なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:4950419)をお借りしています。

悪女と言われた令嬢は隣国の王妃の座をお金で買う!

naturalsoft
恋愛
隣国のエスタナ帝国では七人の妃を娶る習わしがあった。日月火水木金土の曜日を司る七人の妃を選び、日曜が最上の正室であり月→土の順にランクが下がる。 これは過去に毎日誰の妃の下に向かうのか、熾烈な後宮争いがあり、多くの妃や子供が陰謀により亡くなった事で制定された制度であった。無論、その日に妃の下に向かうかどうかは皇帝が決めるが、溺愛している妃がいても、その曜日以外は訪れる事が禁じられていた。 そして今回、隣の国から妃として連れてこられた一人の悪女によって物語が始まる── ※キャライラストは専用ソフトを使った自作です。 ※地図は専用ソフトを使い自作です。 ※背景素材は一部有料版の素材を使わせて頂いております。転載禁止

氷の公爵の婚姻試験

恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。

純白の牢獄

ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ

青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人 世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。 デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女 小国は栄え、大国は滅びる。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

私を婚約破棄に追い込んだ令嬢は、あなた以外の男性とお付き合いしてるのはご存知ですか。

十条沙良
恋愛
あなたはご存知ですか?カミラは他の男性ともお付き合いしてる事を。

処理中です...