上 下
68 / 78
第二章:初めての社交お茶会に出向く。

第19話 新たな『武器』を見つけて(1)

しおりを挟む


 セシリアの声に、その場に居合わせた全ての視線が一斉に動いた。
 指し示すその先は、勿論セシリアだ。

 しかし、大人達の視線が突き刺さって尚、セシリアは全く物怖じした様子がない。
 それどころか母譲りの完全武装の微笑みを浮かべ、その言葉を向けた相手をただ見つめる。

「っ! お前、俺の言葉を途中で遮るなんて……」

 体をワナワナと震わせながら唸るようにそう言うと、彼は「無礼だろうっ!」と高い声を上げた。

 苛立たしげなその声には「折角謝罪をしてやろうとしたのに、その言葉を遮られた」という不満がありありと浮かんでいる。

 しかしそんな声にも一層キツくなった睨みにも、セシリアは全く怯まない。
 それどころか、寧ろわざわざ煽るような言葉を選んで口を開く。

「だってクラウン様、謝罪がひどくお嫌そうだったので」

 こちらは気を使ったのですよ。
 セシリアはそう言うと、ここで一度言葉を切った。

 そして、頬に手を当て軽く首を傾げ。
 限りなく100%に近い純度を装った瞳で相手の目を真っ直ぐに見つめながら、柔らかい声色でこんな言葉を発する。

「それに、『中身の無い謝罪』に一体何の意味があるというのでしょう」

 その声に、クラウンは思わずグッと押し黙った。
 そして、真っ直ぐ突きつけられたその視線に、彼はカァッと顔を赤らめてもいた。
 つい今し方腹を立て声を荒げたとは思えないほどの変わり様だ。



 愛想の良い笑顔と、傾げられた首。
 そして、演じ切った瞳と声色。
 それら全てが『計算された美』だった。

 つまり、彼女がしたのは『美による発言のゴリ押し』である。


 社交パーティーで自分の持つ『武器』の存在に気付いた時から、セシリアは「いつかこの手が使えるのではないか」と思っていた。

 まさかこんなに早く使うことになるとは思わなかったが、どうやら効果はてきめんの様である。

(良かった、これで『無駄な時間』を短縮できる)

 嫌々される謝罪など、無意味どころか最早ただの時間の無駄でしかない。

 そんな言葉に時間を割く暇があるのなら、一刻も早くお茶会に出たい。
 セシリアがそう思うのは、何も不思議な事ではない。 

(仕草1つで話を強制進行させられるのなら安いものよ)

 これは、最低限の労力で最良のパフォーマンスを発揮する。
 その為の効率的な手段を、セシリアが新発見した瞬間だった。



 一方、押し黙ってしまったクラウンに内心で慌てたのはレレナだ。

 侯爵や夫に「何故セシリアの言に意見しないのか」と抗議の視線を向ければ、大の大人が2人してセシリアの『武器』の被害を受けている。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

新婚初夜に浮気ですか、王太子殿下。これは報復しかありませんね。新妻の聖女は、王国を頂戴することにしました。

星ふくろう
ファンタジー
 紅の美しい髪とエメラルドの瞳を持つ、太陽神アギトの聖女シェイラ。  彼女は、太陽神を信仰するクルード王国の王太子殿下と結婚式を迎えて幸せの絶頂だった。  新婚旅行に出る前夜に初夜を迎えるのが王国のしきたり。  大勢の前で、新婦は処女であることを証明しなければならない。  まあ、そんな恥ずかしいことも愛する夫の為なら我慢できた。  しかし!!!!  その最愛の男性、リクト王太子殿下はかつてからの二股相手、アルム公爵令嬢エリカと‥‥‥  あろうことか、新婚初夜の数時間前に夫婦の寝室で、ことに及んでいた。  それを親戚の叔父でもある、大司教猊下から聞かされたシェイラは嫉妬の炎を燃やすが、静かに決意する。  この王国を貰おう。  これはそんな波乱を描いた、たくましい聖女様のお話。  小説家になろうでも掲載しております。

悪役令嬢になった私は卒業式の先を歩きたい。――『私』が悪役令嬢になった理由――

唯野晶
ファンタジー
【シリアス悪役令嬢モノ(?)。分からないことがあるのは幸せだ】 ある日目覚めたらずっと大好きな乙女ゲーの、それも悪役令嬢のレヴィアナに転生していた。 全てが美しく輝いているセレスティアル・ラブ・クロニクルの世界。 ヒロインのアリシア視点ではなく未知のイベントに心躍らせる私を待っているのは楽しい世界……のはずだったが? 「物語」に翻弄されるレヴィアナの運命はいかに!? カクヨムで先行公開しています https://kakuyomu.jp/works/16817330668424951212

【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化になったら 〜厄介事(第二王子と侯爵子息)が舞い込んできたので、適当にあしらいました〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「『面倒』ですが、仕方が無いのでせめて効率的に片づける事にしましょう」  望まなかった第二王子と侯爵子息からの接触に、伯爵令嬢・セシリアは思慮深い光を瞳に宿して静かにそう呟いた。 ***  社交界デビューの当日、伯爵令嬢・セシリアは立て続けのトラブルに遭遇する。 とある侯爵家子息からのちょっかい。 第二王子からの王権行使。 これは、勝手にやってくるそれらの『面倒』に、10歳の少女が類稀なる頭脳と度胸で対処していくお話。  ◇ ◆ ◇ 最低限の『貴族の義務』は果たしたい。 でもそれ以外は「自分がやりたい事をする」生活を送りたい。 これはそんな願望を抱く令嬢が、何故か自分の周りで次々に巻き起こる『面倒』を次々へと蹴散らせていく物語・『効率主義な令嬢』シリーズの第2部作品の【簡略編集版】です。 ※完全版を読みたいという方は目次下に設置したリンクへお進みください。 ※一応続きものですが、こちらの作品(第2部)からでもお読みいただけます。

特技は有効利用しよう。

庭にハニワ
ファンタジー
血の繋がらない義妹が、ボンクラ息子どもとはしゃいでる。 …………。 どうしてくれよう……。 婚約破棄、になるのかイマイチ自信が無いという事実。 この作者に色恋沙汰の話は、どーにもムリっポい。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前

地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。 あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。 私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。 アリシア・ブルームの復讐が始まる。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

処理中です...