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第一章:奔走する者と、機を待つ者。

第12話 何事も、数があれば大変で(1)

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 うーんと唸りながら、セシリアは私室の机に突っ伏した。

 見るからに集中力が切れた様子の主人に、世話焼き執事が苦笑交じりの声をかける。

「ちょっと休憩するか?」

 特にここ1、2日くらいの間。
 彼はセシリアが大分お疲れモードになっている事を分かっていた。

 だからこそ、彼女の後頭部に向かってこんな風に遠回しの労いの声をかける。

「この間のグリムから貰った花のエキス、まだ残ってるから入れてやる」

 何に入れるのかは、2人の間では既に常識だ。
 勿論、紅茶にである。

「……ありがとう、お願い」

 ゼルゼンの提案に、セシリアは机の下で足をパタパタとさせながらそう答えた。

 そして。

「どちらにしても集中力が切れてしまったら効率的に物事を進める事は出来ないし、休憩が適当だよね」

 言い訳じみた言葉で、自分を正当化する。


 そんな彼女を横目に見ながら、ゼルゼンはまた苦笑した。

(別に少し休憩するくらい、誰も咎めたりしないのに)

 そう、心中で独り言ちる。
 

 彼女は少々『貴族の義務』を前に真面目になり過ぎるきらいがある。

 そもそも行う義務があるからといって、何も休みなく行う義務がある訳ではないのだ。

 しかしその辺に、この主人は中々融通が効かない。


 それを適度に休憩させるのもまた、専属執事としてのゼルゼンの仕事である。

(仕方がないヤツだよな、ほんと)

 手のかかる主人に休憩の紅茶淹れる為、ゼルゼンは机に手を付いて立ち上がる。


 つい今まで向かっていた、セシリアの隣に置かれたその机。

 その上には書きかけの手紙がある。


 手紙の代筆業務。
 それは主人の要望聞いた上で主人の代わりに手紙をしたためる仕事だ。

 そして主人から一定の信頼と、貴族への手紙を書くにふさわしい言葉遣いや字の美しさなどの、一定のスキルが必要とされる仕事でもある。

 その仕事を当事者であるセシリアと共に、彼は今行っている。



 社交界デビューから、最初の1週間強。
 それまでは、セシリアの周辺も実に平和だった。


 モンテガーノ侯爵家の第二子息、クラウン。

 彼との例の一件があった為、セシリアはデビュー以降から現在まで、まだ一度も対外的なお茶会や夜会に顔を出していない。

 その為、連日忙しそうに社交をこなす他の家族達をよそに一人、実に彼女好みの何にも急かされたりしないゆっくりとした時間を過ごしていたのだ。


 勿論、その間セシリアへの社交の招待状は一定数寄せられていた。

 伯爵家でも3本の指に入り、当主であるワルターは王城の『財務部』に対して顔が利く。

 そういう訳だから、普段交流があろうが無かろうが、オルトガン伯爵家宛の招待状は毎年それなりの数が届くのだ。


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