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第一章:奔走する者と、機を待つ者。
第4話 冷えた温もり(2)
しおりを挟むどうやら話はここで終わりのようだ。
そう感じ取ってグランは考え、そしてすぐにほくそ笑んだ。
(それにしてもオルトガン、その程度の事で王城パーティーを途中退室するなど……下手を打ったな)
そもそもパーティーを途中退席するのはマナーとしてよろしくない。
地位が上の者が主催するパーティーでなら尚更だ。
汚れたドレスのままパーティーに参加する事は、確かに主催者に対して心象が良くない。
しかしそれを気にしたのならば「新しいドレスを用意する」と言ったこちらの好意に大人しく甘えれば良かったのだ。
そうすれば途中退室する必要もない。
それに。
(クラウンと密室に籠る事は、婚約の予定がある2人にとってはリスクになり得ない。加えて我が家の助力を得たとなれば彼女の待遇も良くなる)
なんと言っても侯爵家からの助力である。
周りが彼女に一定の配慮、基便宜を図る事もあるだろう。
そうなれば、社交界での武器になる。
彼女達が何故そんな下手を打ったのかは分からない。
しかし相手の失態は、こちらにとっては大歓迎だ。
失態を挙げた上でこちらの正当性を主張すれば、それだけ周りは聞く耳を持ってくれる可能性が高くなる。
(……まぁ、ドレスを故意に汚すというのは間違いなくやり過ぎだが)
爵位に関係のない失礼な行為の露見は、爵位でどうこうする事はできない。
しかしそれは『故意ではなかった』と全面にアピールし、こちらに落ち度はないと周りに思わせる事で十分どうにかなるだろう。
この件に、事前の工作はない。
それが故に、明確な証拠も出てくる筈はない。
そうである以上、全ては心象の問題だ。
だからこそ難しい操作ではある物の、同時に実現不可能という事もあり得ない。
(まずは権力で、周りに無理矢理にでも『故意ではなかった』と言わせよう)
人は思い込む生き物だ。
そして何度も言った、または聞いた言葉は、人間の意識に深い刷り込み効果をもたらす。
幸い、相手方よりもこちらが爵位は上だ。
権力でゴリ押しすれば、言わせる事はできるだろう。
そして。
(それらは、最初は無理矢理に言わされた言葉でしかない。しかし、次第に人は、それが自分の本心であるような錯覚を覚えはじめる)
そんな風に独り言ちて、隣の妻へと視線を向けた。
それは、同意を求めての事だった。
しかしそこで予想外の彼女に遭遇する。
「……どうしたのだ?エリザベラ」
顔を真っ青にして、彼女が震えていた。
気づけば、先ほどグランの不安を払ってくれたあの温かな手がすっかり冷えてしまっている。
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