63 / 63
見えない目的
第1話 状況と立場と感情をかける天秤(2)
しおりを挟む注視していた事もあり、その空気の元凶はすぐに見つかった。
子供達が散らばる広場の一角。
丁度セシリアが来た方向、つまり大人達の社交場からは死角になっている場所に、ソレはあった。
一目見ただけで現状を大体察して、セシリアは思わずその馬鹿馬鹿しさに呆れを凝縮させたため息を吐く。
それは、間違いなく『面倒』が口を大きく開けて待っている状況だった。
しかし此処でソレを見なかった事にするなど、セシリアには到底出来ない。
立場としては勿論だが、それに加えてセシリア個人の心情的にも決して許せる事ではなかったからだ。
『面倒』事に首を突っ込みたくはない。
しかし、見たものをそのままにする事は出来ない。
そんな両天秤が最終的にどちらに傾くかと言えば、やはり状況と感情の組み合わせよりも、立場と感情が伴った方だった。
否、状況と立場。
その双方を抜きにして考えても結局は後者の方に向ける感情の方が勝ってしまっているのだから、セシリアのこの後の行動はどう転んだって必然だったのだろう。
状況を把握してから方針決定までをほんの2秒で済ませて、セシリアは『そちら』へと足を向けた。
そこに居たのは、数人の令嬢達だった。
1対5というどう考えても片側が圧倒的に不利な状態で相対する両者は、どうやっても『5人を1人が虐げている』図に見えた。
そんな彼女たちの近くへと歩み出て、セシリアは口を開く。
「皆様、一体どうされたのですか?」
実際にはどういう状況なのかにはだいたい察しがついていたが、そこは敢えて知らないふりで尋ねる。
微笑交じりの落ち着いた声でそう尋ねれば、1人と5人の視線が一斉にセシリアへと集まった。
一方は、怯えたような目を、もう一方は煩わしい物を見るような目。
後者の目が意味するところは、おそらく相手に手を挙げる寸前での横槍だったからだろう。
しかしそれも、セシリアを認めると同時に強烈な敵意に転じた。
「……あら、オルトガン伯爵家の人間が一体私に何のご用事なのかしら。見て分かる通り、今私達は取り込み中なのだけど」
おそらく主犯格なのだろう。
手を挙げようとした少女が「邪魔だ」と言いたげにセシリアを睨む。
セシリアは、彼女の名前を知っていた。
アンジェリー・エクサソリー。
政治派閥『革新派』所属の、伯爵家の令嬢だ。
両親から任された社交範囲内ではないし向こうから話しかけられるような事も無かったから、今まで彼女とは何の接点もない相手。
にも関わらず自分へと向けられる明らかな敵意に、内心で首を傾げずにはいられない。
(そんなに止めに入ったのが気に食わなかったのか。いや、しかしこの怒り様だ。何だかそれだけじゃないような気もする)
そこまで考えて、ふと彼女に関する噂話の中に幾つか短気エピソードがあった事を思い出した。
だから「もしかしたら本当に短気が過ぎてのコレ」だという可能性も、少なくはあるが捨てきれない。
しかし、一方でこうも思った。
例え子供だとは言っても彼女だって貴族である。
それが同等の爵位を持つ家の子に対してそんな些細な理由一つで明らかな敵意の籠もった視線を向けるなんて、それが一体どういう意味を持つのか、そのくらいの事は流石に彼女も分かっているでしょうに。
と。
15
●本作の続編はこちらから。
↓ ↓ ↓
伯爵令嬢が効率主義の権化になったら。 〜狙う第二王子、逃げるセシリア〜
●この作品の前編(第2部)は、こちらから。
↓ ↓ ↓
伯爵令嬢が効率主義の権化になったら 〜厄介事(第二王子と侯爵子息)が舞い込んできたので、適当にあしらいました〜
セシリア(10歳)が、社交界デビューをきっかけに遭遇した様々な思惑と面倒事を『効率的』に解決していくウィニングストーリー。
●この作品の裏話を読みたい方は、こちらから。
↓ ↓ ↓
【裏話】伯爵令嬢が効率主義の権化になったら。
本作の設定秘話や執筆の裏話などを書き連ねています。
※一部ネタバレを含みます。
●主人公・セシリアの幼少期(第1部)から読みたい方は、こちらから:
↓ ↓ ↓
幼伯爵令嬢が、今にも『効率主義』に目覚めちゃいそうですよ。
セシリア(4歳)が様々なチャレンジの中で『効率的な生き方』について学んでいく成長ストーリー。
お気に入りに追加
205
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄された瞬間に前世の記憶がよみがえった私は、知識チートで異世界キャバ始めます!
TB
ファンタジー
子爵家令嬢アゲハ=スティングレー18歳
私は婚約破棄をされたショックで意識を失う……
薄れゆく意識の中で私は、全世の記憶がよみがえる。
歌舞伎町のNO1キャバ嬢だった頃の。
いける! この世界、とれちゃうよ私!
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
召喚をされて期待したのだけど、聖女ではありませんでした。ただの巻き込まれって……
にのまえ
ファンタジー
別名で書いていたものを手直ししたものです。
召喚されて、聖女だと期待したのだけど……だだの巻き込まれでした。
異世界に転生したので、とりあえず戦闘メイドを育てます。
佐々木サイ
ファンタジー
異世界の辺境貴族の長男として転生した主人公は、前世で何をしていたかすら思い出せない。 次期領主の最有力候補になるが、領地経営なんてした事ないし、災害級の魔法が放てるわけでもない・・・・・・ ならばっ! 異世界に転生したので、頼れる相棒と共に、仲間や家族と共に成り上がれっ!
実はこっそりカクヨムでも公開していたり・・・・・・
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
わけあって美少女達の恋を手伝うことになった隠キャボッチの僕、知らぬ間にヒロイン全員オトしてた件
果 一
恋愛
僕こと、境楓は陰の者だ。
クラスの誰もがお付き合いを夢見る美少女達を遠巻きに眺め、しかし決して僕のような者とは交わらないことを知っている。
それが証拠に、クラスカーストトップの美少女、朝比奈梨子には思い人がいる。サッカー部でイケメンでとにかくイケメンな飯島海人だ。
しかし、ひょんなことから僕は朝比奈と関わりを持つようになり、その場でとんでもないお願いをされる。
「私と、海人くんの恋のキューピッドになってください!」
彼女いない歴=年齢の恋愛マスター(大爆笑)は、美少女の恋を応援するようになって――ってちょっと待て。恋愛の矢印が向く方向おかしい。なんか僕とフラグ立ってない?
――これは、学校の美少女達の恋を応援していたら、なぜか僕がモテていたお話。
※本作はカクヨムでも公開しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
捨てられた私は森で『白いもふもふ』と『黒いもふもふ』に出会いました。~え?これが聖獣?~
おかし
ファンタジー
王子の心を奪い、影から操った悪女として追放され、あげく両親に捨てられた私は森で小さなもふもふ達と出会う。
最初は可愛い可愛いと思って育てていたけど…………あれ、子の子達大きくなりすぎじゃね?しかもなんか凛々しくなってるんですけど………。
え、まってまって。なんで今さら王様やら王子様やらお妃様が訪ねてくんの?え、まって?私はスローライフをおくりたいだけよ……?
〖不定期更新ですごめんなさい!楽しんでいただけたら嬉しいです✨〗
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる