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侯爵子息・クラウンの、はじめの一歩
第9話 照れるレガシー、納得のクラウン
しおりを挟むその視線は「貴族界に於いて、私にとってのソレは彼だ」と言っているも同然だった。
そしてそれは、クラウンにもレガシーにも齟齬なく伝わる。
セシリアからの好意を真正面から受け取った、否、受け取ってしまったレガシーは、途端に顔を赤くした。
彼にも、それなりにうまくやってる自覚はあっただろう。
そして、他人との交流が無い以上セシリアは彼にとっての『唯一』だ。
対してセシリアは、色々な人間と交流をしている。
だからレガシーは、自分がそう思う事はあっても「それはあくまでも自分の片思いでしかない」と思っていたのだ。
それが突然「実は両思いでした」と伝えられてたのだから、彼としては赤面しながら驚くのが至極当然の反応だろう。
いやまぁ二人の両思いは、あくまでも『友人としての』ではあるので、発覚したところでそんな甘ったるい関係性にはならないのだが。
一方、クラウンはと言えば「なるほど確かに」という感じだった。
確かに彼は、彼女にとっての『自分に合う相手』なのだろう。
そう思ったのは、先程から彼が度々彼女のフォローに走っているからだ。
フォローに走れるという事は、彼女の事をよく知っているからこそ。
そしてフォローに走るのは、彼に「彼女を助けたい」という気持ちがあるからだろう。
そして誰とも滅多に口を聞かないレガシーがセシリアの前でだけは必ずしもそうではないのだから、レガシーの方もセシリアに何かしら助けられるところがあるのだろう。
彼女の凄さについては、今まさに助言を受けている最中の彼にもよく分かる。
だからそういう方面の想像は付きやすい。
互いに助け合う。
それは、友人としての一つのあるべき姿のように思えた。
だからクラウンは、あるべき姿の指名された方を、思わずマジマジと観察してしまう。
すると、そうでなくても赤面していたレガシーが、これ以上無いほどに赤さを増した。
そしてその羞恥はすぐに小さな怒りへと還元され、ジト目となってすべての現況へと送り出される。
「まぁこんな『変』なやつ、僕くらいしか構ってあげられないだろうからね」
フンッと鳴らして仕方がなさげに言った彼だが、どうにも頬の赤みが消えきっていない。
照れ隠しなのは見え見えだ。
そしてそれは、ジト目と言葉を向けられたセシリア自身にも当たり前のように見え見えだ。
「そうですね、お互い『変』同士だからこそ仲良くできるのですものね」
軽口に軽口を返すといういつもの彼への戦法を取れば、レガシーが「むむむっ」という顔をした。
数秒間。
互いは互いにそうやって視線でけん制し合った。
これは、2人にとっては恒例の軽口と冗談のけん制だ。
しかし貴族界でこのようなやり取りをする子女も珍しい。
爵位が違えば尚更だ。
「うん?」
一体どういう反応をすれば良いのか。
冗談なのか、本気なのか。
どう解釈して良いのか分からなくなって、クラウンは小首を傾げながら頷くという、ちょっと珍しい芸当をして見せる。
そんな彼らを外面ではあくまでも冷静に、しかし内心では安堵した様子で眺める者が居た。
ゼルゼンだ。
社交界デビュー以降、セシリアに危害を加える可能性があるという意味でゼルゼンが最も警戒した相手が、クラウンだった。
しかし今は、そんな事があった等とは思えない程に両者は打ち解けつつある。
それは、彼にとっては少し不思議で複雑な光景だったが、それこそがあの面倒くさがりの主の使った労力の成果だという事は、最早疑いようも無い。
『間違いを正す機会は、誰にだって与えられるべき』
それはつまり、そんな彼女の信条が、願いが。
成果として現れたという事に他ならない。
主人の行動が実を結んだ。
ゼルゼンにとっては、これほど誇らしいことは無い。
少し親バカならぬ主人バカな考えかもしれないが、大声で「うちの主人は凄いんだ」と宣伝して回りたいような気持ちになる。
実際、この場でそんな事はしない。
しかし。
(領地で留守番してるヤツらに伝えるくらいは別に良いよな)
同期の使用人達の顔を思い出しながら、弾む心を携えて彼はそう思ったのだった。
10
●本作の続編はこちらから。
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伯爵令嬢が効率主義の権化になったら。 〜狙う第二王子、逃げるセシリア〜
●この作品の前編(第2部)は、こちらから。
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伯爵令嬢が効率主義の権化になったら 〜厄介事(第二王子と侯爵子息)が舞い込んできたので、適当にあしらいました〜
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