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侯爵子息・クラウンの、はじめの一歩
第7話 心からの謝罪(2)
しおりを挟むそして。
「――はい」
彼を真っすぐに見つめて、ただそう一言返事をする。
セシリアの返事に、クラウンは弾かれたように顔を上げた。
するとちょうどセシリアと視線が合う。
その瞳がふわりと微笑んだ。
その声に、瞳に、浮かべられた穏やかな微笑に。
クラウンは信じられない気持ちになりながらも、確かな『許し』の気持ちを感じとった。
「……許して、くれるのか?」
もしかして、それは自分に都合の良い解釈なんじゃないだろうか。
あまりに簡単に許されてしまった気がして、どうしてもそんな可能性が捨て切れない。
だからこそ告げられたその問いは、セシリアの肯首によって確実なものへと固まる。
何故。
重ねてそう問うたクラウンに、セシリアは「だって今の謝罪は、間違いなく貴方の本心だったでしょう?」と言葉を返す。
セシリアにとっては、それこそが何よりも大事なポイントだった。
この前のお茶会で、セシリアはクラウンからの謝罪を途中で遮り受け取りを拒否した。
しかし今回は快く受け取った。
両者の違いがどこにあるのかというと、まさしくソレなのである。
彼女の言葉に、クラウンは「本心だ」と真剣な表情で頷いた。
「今後は自分の事を理由もなく過信する事も、周りの言葉を鵜呑みにする事もしない。自分の言動の正否を、常に自身に問える人間でありたいと思っている」
すぐにパーフェクトにはできないかもしれない。
しかしそれを目指す人間でありたい。
そう言った彼は、見違えるほどの進度で成長していると言って良いだろう。
自分を顧みた一か月間。
彼にとっては途方もなく長く感じたろうが、しかしまだたった一か月間だ。
周りからの助言があったからといっても、その短時間で自分に欠けている物の招待に気づく事ができるのだから、彼の地頭は決して悪くない。
今までは環境が彼の地頭の良さを潰していたが、それが取り払われれば彼の頭は正常な判断ができる。
この日の彼の言動は、それを裏付けるには十分なものだった。
その変化が目に見えた事が、そして何より「もうしない」と、彼がきちんと真正面からそう口にしてくれた事が、セシリアに「自分の抱いた可能性は決して間違ってはいなかった」と教えてくれた。
その事がセシリアは何よりも嬉しかった。
だから。
「ならば、もういいのです」
セシリアは、再度彼に『許し』の言葉を投げかける。
しかし許されたクラウンはというと、安堵の端に困惑の表情を浮かべていた。
その顔からは、やはりこうも簡単に許される事に違和感を覚えているのだろう。
そんな彼に助け舟を出したのは、やはりレガシーだった。
「だからさっきも言ったでしょ? 『彼女の言動の意味は気にするだけ無駄だ』って。……別に良いんじゃない? 本人が『良い』って言ってるんだから」
そう言いながら.彼は呆れの色を全く隠そうとせずにチラリとセシリアの方を見遣る。
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●本作の続編はこちらから。
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