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動き出した第二王子
第5話 彼が望むモノ(2) ★
しおりを挟む両親は勿論、アリティーの言動を見聞きしていたあの場の人間は、きっと皆ひどく驚いたことだろう。
何といっても彼らにとってのアリティーは、『普段はパッとしないが、問題等は決して起こさない王子』なのだから。
しかしそんな『らしくない』行動をしてしまった自分も、彼女の事を考えれば全くと言っていい程、アリティーは気にならなかった。
彼女に問いかけて、しかし答えてはくれなくて。
やきもきして問い詰める様にすれば、彼女の視線がやっと自分に向いた。
その時の達成感なのか何かのかよく分からない、何だかとてもフワフワとした感情を、アリティーは忘れられない。
一貴族の娘たる私には、本来王族と直接お言葉を交わす権利は無い。
そう言った彼女の、なんと凛とした事か。
その言葉に答える為には本来、王族の許可を得る必要がある。
そう言った彼女の、なんと落ち着いた事か。
彼女の声で、ハッとした。
アリティーはここで、やっと「彼女に対して一体どれだけ酷な事を言っていたのか」に思い至ったのだ。
そして彼女の言葉に納得し、そしてそんな簡単な事でさえ頭からすっ飛んでしまっていた自分に思わず内心で苦笑して、遂に冷静さを取り戻す。
そして思ったのだ。
彼女は実に面白そうだ、と。
真っすぐにかち合ったペリドットの瞳は、確かに王族に対して向けるのに失礼の無いものだった。
相手を不躾に観察するでもなく、好奇に染まることも無い。
王族から発せられた言葉にだって、彼女は喜び付けあがることも無ければ、恐怖に怯えることも無い。
終始柔らかな微笑を浮かべ、しかしその瞳の最奥にはちゃんと思慮深さを残している。
そんな瞳に、少なくともアリティーには見えたのだ。
それは、今まで向けらたどの視線とも違うモノで。
だからこそ、アリティーは彼女が絶対に欲しい。
だから彼は、正気に戻った後も敢えて『感情のままに暴走してしまった出来の悪い王子』を演じ続けた。
そしてその中で王族権限を行使し、彼女を縛った。
『第二王子と仲良くする権利』そんな名前の強固な縄で。
その言葉が、一体どういう意味になりうるのか。
王族としての教育をきちんと積んでいたアリティーは、もちろんちゃんと理解していた。
そして『王族の友達として』でも『側近として』でも、はたまた『婚約者候補として』でも。
要は自身の近くに置いておきたいだけなのだから、どんな肩書だって良い。
「この女は、必ず自分の近くに置く」
この時彼は、そう決めたのだ。
だから。
アリティーは、自分の口角が独りでに上がるのを確かに感じ取った。
「楽しみだなぁ」
そんな風に呟きながら、彼は机上にあった手紙を指の腹でやんわりと撫でた。
↓ ↓ ↓
当該話数の裏話を更新しました。
https://kakuyomu.jp/works/16816410413976685751/episodes/16816410413991660145
↑ ↑ ↑
こちらからどうぞ。
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●本作の続編はこちらから。
↓ ↓ ↓
伯爵令嬢が効率主義の権化になったら。 〜狙う第二王子、逃げるセシリア〜
●この作品の前編(第2部)は、こちらから。
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伯爵令嬢が効率主義の権化になったら 〜厄介事(第二王子と侯爵子息)が舞い込んできたので、適当にあしらいました〜
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【裏話】伯爵令嬢が効率主義の権化になったら。
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