伯爵令嬢が効率主義の権化になったら。 〜第二王子に狙われてるので、セシリアは口で逃げてみせます〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!

文字の大きさ
上 下
12 / 63
動き出した第二王子

第5話 彼が望むモノ(2) ★

しおりを挟む


 両親は勿論、アリティーの言動を見聞きしていたあの場の人間は、きっと皆ひどく驚いたことだろう。

 何といっても彼らにとってのアリティーは、『普段はパッとしないが、問題等は決して起こさない王子』なのだから。



 しかしそんな『らしくない』行動をしてしまった自分も、彼女の事を考えれば全くと言っていい程、アリティーは気にならなかった。

 彼女に問いかけて、しかし答えてはくれなくて。
 やきもきして問い詰める様にすれば、彼女の視線がやっと自分に向いた。
 その時の達成感なのか何かのかよく分からない、何だかとてもフワフワとした感情を、アリティーは忘れられない。

 一貴族の娘たる私には、本来王族と直接お言葉を交わす権利は無い。
 そう言った彼女の、なんと凛とした事か。

 その言葉に答える為には本来、王族の許可を得る必要がある。
 そう言った彼女の、なんと落ち着いた事か。

 
 彼女の声で、ハッとした。
 アリティーはここで、やっと「彼女に対して一体どれだけ酷な事を言っていたのか」に思い至ったのだ。


 そして彼女の言葉に納得し、そしてそんな簡単な事でさえ頭からすっ飛んでしまっていた自分に思わず内心で苦笑して、遂に冷静さを取り戻す。


 そして思ったのだ。

 彼女は実に面白そうだ、と。



 真っすぐにかち合ったペリドットの瞳は、確かに王族に対して向けるのに失礼の無いものだった。
 相手を不躾に観察するでもなく、好奇に染まることも無い。
 王族から発せられた言葉にだって、彼女は喜び付けあがることも無ければ、恐怖に怯えることも無い。

 終始柔らかな微笑を浮かべ、しかしその瞳の最奥にはちゃんと思慮深さを残している。
 そんな瞳に、少なくともアリティーには見えたのだ。


 それは、今まで向けらたどの視線とも違うモノで。
 だからこそ、アリティーは彼女が絶対に欲しい。


 だから彼は、正気に戻った後も敢えて『感情のままに暴走してしまった出来の悪い王子』を演じ続けた。

 そしてその中で王族権限を行使し、彼女を縛った。
 『第二王子と仲良くする権利』そんな名前の強固な縄で。


 その言葉が、一体どういう意味になりうるのか。
 王族としての教育をきちんと積んでいたアリティーは、もちろんちゃんと理解していた。

 そして『王族の友達として』でも『側近として』でも、はたまた『婚約者候補として』でも。
 要は自身の近くに置いておきたいだけなのだから、どんな肩書だって良い。

「この女は、必ず自分の近くに置く」

 この時彼は、そう決めたのだ。
 
 だから。


 アリティーは、自分の口角が独りでに上がるのを確かに感じ取った。

「楽しみだなぁ」

 そんな風に呟きながら、彼は机上にあった手紙を指の腹でやんわりと撫でた。



 ↓ ↓ ↓
 当該話数の裏話を更新しました。
 https://kakuyomu.jp/works/16816410413976685751/episodes/16816410413991660145

 ↑ ↑ ↑
 こちらからどうぞ。
しおりを挟む

●本作の続編はこちらから。
 ↓ ↓ ↓
伯爵令嬢が効率主義の権化になったら。 〜狙う第二王子、逃げるセシリア〜

●この作品の前編(第2部)は、こちらから。
 ↓ ↓ ↓
伯爵令嬢が効率主義の権化になったら 〜厄介事(第二王子と侯爵子息)が舞い込んできたので、適当にあしらいました〜
セシリア(10歳)が、社交界デビューをきっかけに遭遇した様々な思惑と面倒事を『効率的』に解決していくウィニングストーリー。

●この作品の裏話を読みたい方は、こちらから。
 ↓ ↓ ↓
【裏話】伯爵令嬢が効率主義の権化になったら。
本作の設定秘話や執筆の裏話などを書き連ねています。
※一部ネタバレを含みます。

●主人公・セシリアの幼少期(第1部)から読みたい方は、こちらから:
 ↓ ↓ ↓
幼伯爵令嬢が、今にも『効率主義』に目覚めちゃいそうですよ。
セシリア(4歳)が様々なチャレンジの中で『効率的な生き方』について学んでいく成長ストーリー。 
感想 0

あなたにおすすめの小説

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

自由気ままな生活に憧れまったりライフを満喫します

りまり
ファンタジー
がんじがらめの貴族の生活はおさらばして心機一転まったりライフを満喫します。 もちろん生活のためには働きますよ。

召喚をされて期待したのだけど、聖女ではありませんでした。ただの巻き込まれって……

にのまえ
ファンタジー
別名で書いていたものを手直ししたものです。 召喚されて、聖女だと期待したのだけど……だだの巻き込まれでした。

隠れジョブ【自然の支配者】で脱ボッチな異世界生活

破滅
ファンタジー
総合ランキング3位 ファンタジー2位 HOT1位になりました! そして、お気に入りが4000を突破致しました! 表紙を書いてくれた方ぴっぴさん↓ https://touch.pixiv.net/member.php?id=1922055 みなさんはボッチの辛さを知っているだろうか、ボッチとは友達のいない社会的に地位の低い存在のことである。 そう、この物語の主人公 神崎 翔は高校生ボッチである。 そんなボッチでクラスに居場所のない主人公はある日「はぁ、こんな毎日ならいっその事異世界にいってしまいたい」と思ったことがキッカケで異世界にクラス転移してしまうのだが…そこで自分に与えられたジョブは【自然の支配者】というものでとてつもないチートだった。 そしてそんなボッチだった主人公の改生活が始まる! おまけと設定についてはときどき更新するのでたまにチェックしてみてください!

異世界に転生したので、とりあえず戦闘メイドを育てます。

佐々木サイ
ファンタジー
異世界の辺境貴族の長男として転生した主人公は、前世で何をしていたかすら思い出せない。 次期領主の最有力候補になるが、領地経営なんてした事ないし、災害級の魔法が放てるわけでもない・・・・・・ ならばっ! 異世界に転生したので、頼れる相棒と共に、仲間や家族と共に成り上がれっ! 実はこっそりカクヨムでも公開していたり・・・・・・

高校球児、公爵令嬢になる。

つづれ しういち
恋愛
 目が覚めたら、おデブでブサイクな公爵令嬢だった──。  いや、嘘だろ? 俺は甲子園を目指しているふつうの高校球児だったのに!  でもこの醜い令嬢の身分と財産を目当てに言い寄ってくる男爵の男やら、変ないじりをしてくる妹が気にいらないので、俺はこのさい、好き勝手にさせていただきます!  ってか俺の甲子園かえせー!  と思っていたら、運動して痩せてきた俺にイケメンが寄ってくるんですけど?  いや待って。俺、そっちの趣味だけはねえから! 助けてえ! ※R15は保険です。 ※基本、ハッピーエンドを目指します。 ※ボーイズラブっぽい表現が各所にあります。 ※基本、なんでも許せる方向け。 ※基本的にアホなコメディだと思ってください。でも愛はある、きっとある! ※小説家になろう、カクヨムにても同時更新。

わけあって美少女達の恋を手伝うことになった隠キャボッチの僕、知らぬ間にヒロイン全員オトしてた件

果 一
恋愛
僕こと、境楓は陰の者だ。  クラスの誰もがお付き合いを夢見る美少女達を遠巻きに眺め、しかし決して僕のような者とは交わらないことを知っている。  それが証拠に、クラスカーストトップの美少女、朝比奈梨子には思い人がいる。サッカー部でイケメンでとにかくイケメンな飯島海人だ。  しかし、ひょんなことから僕は朝比奈と関わりを持つようになり、その場でとんでもないお願いをされる。 「私と、海人くんの恋のキューピッドになってください!」  彼女いない歴=年齢の恋愛マスター(大爆笑)は、美少女の恋を応援するようになって――ってちょっと待て。恋愛の矢印が向く方向おかしい。なんか僕とフラグ立ってない?  ――これは、学校の美少女達の恋を応援していたら、なぜか僕がモテていたお話。 ※本作はカクヨムでも公開しています。

処理中です...