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動き出した第二王子
第2話 アリティーに寄り添う二人の側近(2)
しおりを挟む彼に、自分の感じた事をうまく言語化出来ない不器用さが備わっていたことが不幸中の幸いか。
そんな風に思っていると、おそらく風に乗ってその言葉の端っこ辺りが彼の耳まで届いたのだろう。
ラインバルトの目がこちらを向く。
「何か言いましたか? 殿下」
「いや、何も」
「そうですか」
なら良いんですけど。
そう言って、ラインバルトはまたもや視線を元に戻した。
彼の中には、きっと「殿下が言うのならそうなのだろう」という前提があるのだろう。
だからこそ、こんなにも容易に彼はアリティーの言葉を信じて疑わないのである。
それは正しく盲目の為せる技だ。
しかし彼は、アリティーの裏は読めなくとも、アリティー周りの気配や彼に向けられた直接的な被害を伴いそうな感情にはひどく敏感だ。
それが出来るからこそ、彼はアリティーの護衛騎士なのである。
少し歩き、やがて二人は目的地へと到着した。
アリティーのために用意された、専用の執務室。
その部屋に入ると、そこには彼のもう一人の側近が待っていた。
「おかえりなさい殿下」
おそらく扉の開く音で、主人が戻って来た事に気が付いたのだろう。
資料のようなものを片手に振り返ったその人物は、ラインバルトと同年代。
アリティーよりも幾分か年上の青年だった。
名を、ジェームス。
アリティーの側近であり、王族としての書類仕事全般の補佐を行う人物だ。
その彼が、机の上に置いてあった一枚の紙をその手に取り、アリティーに向かってヒラヒラとさせてみせる。
「先日の政経のテスト、採点が終わったと言うことで受け取ってきたのですが」
彼がそんな話をし始めると同時に、ランバルトはこの室内での自分の定位置・入り口すぐ横の壁際に「待機」の体制に入る。
すぐさま直立不動となった彼の姿はまるで銅像か何かのように威風堂々としていて、それでいて微動だにしない。
しかしそんな彼にアリティーが抱くのは、「流石」という賛辞ではなく「裏切り者」という類のものだ。
(まったくラインバルトは・・・・・・普段頭は回らない癖に、こういう所で変に鼻が利くんだ)
彼は、自分の仕事に徹することでこれから起こるだろう事象への不干渉を態度で示したのである。
アリティーも、出来ればこの状況から逃げてしまいたかった。
しかしどうやら当事者であるのだろう自分は、絶対に逃げられない。
そんなに甘くはないのだ、この男のお小言は。
(はぁ・・・・・・長いんだよね、ジェームスの小言って)
なんて心の中で独り言ちながら、しかしすぐに「仕方が無いか」と諦める。
彼は案外ねちっこい。
気の済むまで言わせない限り、こういうのは終わらないのだ。
「殿下、70点でしたよ」
そんな彼の声からは明らかな呆れの色が見てとてた。
そしてその言葉から、アリティーは「あぁ、『アレ』がバレたのか」と当たりを付ける。
「先日受けた算術のテストの点数は69点、先々日の歴史のテストはで68点。全く貴方は……また点数で『遊んだ』でしょう」
ため息混じりにそう言われ、彼の視線から逃げるように視線を泳がせた。
しかしそうしたところで彼のお小言から逃れることが出来る訳じゃない。
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●本作の続編はこちらから。
↓ ↓ ↓
伯爵令嬢が効率主義の権化になったら。 〜狙う第二王子、逃げるセシリア〜
●この作品の前編(第2部)は、こちらから。
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伯爵令嬢が効率主義の権化になったら 〜厄介事(第二王子と侯爵子息)が舞い込んできたので、適当にあしらいました〜
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●この作品の裏話を読みたい方は、こちらから。
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【裏話】伯爵令嬢が効率主義の権化になったら。
本作の設定秘話や執筆の裏話などを書き連ねています。
※一部ネタバレを含みます。
●主人公・セシリアの幼少期(第1部)から読みたい方は、こちらから:
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幼伯爵令嬢が、今にも『効率主義』に目覚めちゃいそうですよ。
セシリア(4歳)が様々なチャレンジの中で『効率的な生き方』について学んでいく成長ストーリー。
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