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動き出した第二王子
第1話 第二王子・アリティー(2)
しおりを挟む何度目の接触だっただろうか。
剣が打ち合わされた瞬間、王子の手から剣がはじき飛ばされた。
ゆっくり二秒後。
少し遠くで落ちた剣がカランと石畳を打ち鳴らした所で、王子が膝に手をついて肩で荒く息をする。
「良い調子ですぞ、殿下。しかしサボり癖はまだ抜けていませんな」
快活にそう言いながら、騎士団長の男は鍛錬用の剣でポンポンと自らの肩を数度叩いた。
そんな彼に、第二王子・アリティーはちょっと困った様に笑う。
「私は別にサボっているつもりなんて無いんだけどね」
「ならばそれは『殿下にはまだまだポテンシャルがある』という事ですな。貴方はもっと強くなれる筈ですから」
アリティーの剣使いを端から見れば、彼に剣才が無いことは明白だ。
騎士達からの評判が良いのは、あくまでもひたむきに剣へと向かうその姿勢。
むしろ才が無いからこそ「それなのに真面目に取り組んでいる」というフィルターがかかっている。
そんな節さえある。
だというのに、騎士団長だけは彼にずっと期待していた。
そしてこうして時折、彼に発破をかけるのだ。
「うーん、まいったなぁ」
そんなに期待されても何も出ないよ。
彼はそう言いながら、人当たりの良い笑顔を彼へと向けた。
その笑顔は彼の柔らかな印象を加速させるものだった。
しかしこの雄雄しい男たちの研鑽の場でのそれは、彼を一層弱く見せた。
その時だ。
「殿下、次のお勉強の時間です」
アリティーのすぐ後ろで、静かな声がそう告げた。
ゆっくりと振り向けば、そこに居たのは目付きの鋭い青年が居た。
纏うのは、騎士団服。
そして腰元には『王族直属』を示す紋章付きの剣が携えられている。
次の予定を告げてきた自分直属の騎士に、アリティーは短く「あぁ、行こう」とだけ答えた。
そして相対してくれた彼へと向き直り、最後に一言こう告げる。
「ドルンド騎士団長、今日も稽古を付けてくれて礼を言う。それではまたな」
「はい殿下、またお待ちしております」
そんなやりとりを最後に、アリティーは自分の騎士を引き連れてその場を後にした。
鍛錬場から少し離れた、アリティーの護衛騎士である彼が不意に口を開いた。
「……先ほど、ドルンド騎士団長が仰った事。実際にはどうなのですか・・・・・・?」
その声にアリティーが歩きながらチラリと彼を見る。
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●本作の続編はこちらから。
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伯爵令嬢が効率主義の権化になったら。 〜狙う第二王子、逃げるセシリア〜
●この作品の前編(第2部)は、こちらから。
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伯爵令嬢が効率主義の権化になったら 〜厄介事(第二王子と侯爵子息)が舞い込んできたので、適当にあしらいました〜
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●この作品の裏話を読みたい方は、こちらから。
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【裏話】伯爵令嬢が効率主義の権化になったら。
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